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背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

ブログ二周年記念誌 【Immoral Summer】より 手柴立ち読み

2010年08月12日 16時10分27秒 | 雑感・雑記
【Immoral Summer】から パラレル設定(教師:手塚と女子高生:柴崎)


(前略)

――このままではだめになる。


すっかり骨抜きにされている。その自覚がある。
今は彼女との色事のことしか頭にない。この身はただ性欲だけに支配されてしまっている。
どこでなら、セックスできるか。いつなら彼女を抱けるか。
校内を歩いていても、そのスポットを無意識に探してしまう自分は完全に獣だと思う。
決して教師という聖職者なんかじゃなく。


教師と教え子という垣根を飛び越えて、彼女と関係を結んでから三ヶ月。
人目を憚って、一度も学校の外でデートをしたことはなかった。
会うのは平日。授業がある日。
抱き合うのも校舎の中で。体育教官室、体育館用具室、清掃用具倉庫。そんな【死角】を見つけては慌しく交わりあった。
普通の恋人同士の付き合い方じゃないことは、お互い分かっていた。でも、その異常な設定そのものが、刺激となっていやでも二人の気分を高めていた。


「いや、あの子すさまじく綺麗になりましたね」
全校朝会。月初めの月曜日。
第一体育館に生徒全員を集めて、学校長から講話を頂く。
でもほとんどの生徒は話なんか聞いていない。眠そうに、だるそうに、立つのも億劫だと言うように、その場にしゃがみこむ生徒もいる。コンビニの前に屯するように。
そんな連中を苦々しく手塚が見守っていると、そっと耳打ちされた。
見ると同僚の小牧だ。生物担当で、自分よりも確かいくつか年上だったはず。
むこうは理科系。こっちは体育会系。まったく異なる教科を担当しているが、なんとなく馬が合って、飲み会などでは割と会話をする相手だった。
同僚の中では親しい関係といってもいいような。
今朝も、おろしたてのようなぱりっとアイロンのかかった白衣を身に着け、小牧は生徒たちの群れを眺めていた。
「あれですよ。3のDのミス」
彼の目線を辿ると、柴崎がいた。
彼女が学校では「ミス」と呼ばれているのは、手塚も知っていた。昨年の文化祭でのミスコン投票で一位を獲得したからだ。
小牧教諭は顎に手を添えて芸術作品でも眺めるような目で彼女を見ていた。
「最近、びっくりするほど綺麗になったと思いませんか? いや、元からずば抜けた美少女でしたけど」
「……」
手塚は返答に詰まる。
どうして俺にそんな話を振るのだろう。もしや、と穿った気持ちで隣を見る。
でも、そんな彼の様子には関心がない風に、小牧は、
「今は可愛いっていうより、めっきり艶っぽくなったなあって感じですよね。大人っぽくなった、ウン」
唸るように言った。
「……女らしくなりましたよね」
ぼそりと探りを入れると、
「そうそう! そうです。ああ、あれはきっと男だろうなあ」
小牧はため息をついた。
「あれは男を知っちゃったな。そういう風情だ」
「風情なんて、古典的な言い方をしますね」
手塚は微苦笑した。
その、彼女の男が自分だと言ってしまいたい衝動に駆られる。それを無理矢理腹に押し込める。
時折、何もかもいっそばらしてしまいたいという気に衝き動かされて参る。
言えるか。未成年の女子高生に、毎日煩悩たぎらせてますだなんて。
口が裂けても言えない。
「だってそうでしょ。あの色香はそこらの処女じゃ出せませんって。どこのどいつなんだか。わが校のミスを落とした幸運なやつは」
やっぱしここの生徒なんですかねえ。と首を捻る。
手塚はつい聞いてみたくなった。
「先生も、彼女のファンですか」
教師の間でも柴崎の評判はいい。素直で利発で、成績もいつも上位だ。友達にも恵まれている。
でも、目に見えない部分の、男を手玉に取るところは、きっと俺しか知らない。優越感は感じない。ただ、光を受けて煌く、湖か何かの水面を眺める心地がするだけだ。
手を浸したら、きっと冷たいだけでは済まされない。
「いい子ですからね。見た目だけじゃなく、中身も伴ってる子なんてそういませんよ。それに、あと3年もしたら、振るいつきたくなるほどのいい女になるでしょうし。きっと私たちなんか手も出せないくらいの」
手塚は柴崎から目を離せなかった。
校長の話に耳を傾けている、数少ない生徒の一人。でも手塚だけには分かる、少しだけ退屈している。早く話が終わればいいと思っている。
その、わずかにとがった愛らしい唇の角度で。
「因果な商売ですねえ。あんなに飛び切りの美人を前にしても、こっちは指くわえて見てるしかできないなんて」
小牧は白衣のポケットに手を突っ込んだ。肩をそびやかす。
「……手、出したらだめですかね」
「え」
「みすみす、他の男に持ってかれるぐらいなら、自分が。そう思ったらまずいですか。卒業したら、もう教師と生徒っていう関係じゃなくなる訳だし」
手塚が言うと、小牧は意外そうに目を瞠った。
「――先生って素面で大胆なこと口にしますね」
でも確かにねえ……。と生物教師はしたり顔を作る。
「卒業してしまえば、たった5歳か6歳年の離れた男と女になるわけですからね。そんなカップル、世間にざらにいますし。でも……」
彼の口から次の言葉が出るまで、異様に手塚は緊張した。
でもそこでちょうど校長の話が終わって、礼の号令がかかった。
まばらなお辞儀と解散の合図に中断されて、小牧とのやりとりもそれきりとなった。


でも、の後に続く台詞は何だったのだろう。
柴崎を抱きながら、手塚は考える。
でも、やっぱまずいでしょ。在学中は。だろうか。
でも、手を出したはいいけれど、万が一ばれたらやばいですよね。だろうか。
そのどちらも十分ありえた。いずれにせよ、手塚の望む回答が得られるはずがないのは分かりきったことだった。
もしかしたら、小牧にばれたかもしれない。うかつなほど、露骨に訊いた。
だが、なんとなく彼なら大丈夫な気がしたのだ。たとえばれることになっても。
根拠はなかったけれど。朝会の場で、こっそり女子の容姿の話を振ってくる男なら、きっと口外はしないだろうと。
自分たちの秘密の関係を。
「うわのそら」
下から声がして、手塚は我に返った。
柴崎が手塚に背後から組み敷かれながら、肩越しに見ていた。
「いま上の空でいたでしょう。先生。今日、なんか変。いつもと違う」
放送室。狭いブースの中。
校内に鍵のかかる場所と言うのは結構あるもので。放送委員を担当している柴崎は、今週下校放送のアナウンス当番だ。
だから、放課後はここで内鍵を掛けて逢引をしている。今週はずっと。
「そうか。ごめん」
「……何かあったの? 仕事で?」
気遣わしげな目線が、彼の顔の前をよぎる。
「いや、何も」
「……」
バックから突く手塚の身体は、いつものように逞しく荒々しい。けれど彼に抱かれ慣れた柴崎は、いつもとのわずかな差異を敏感に察知する。
でも、彼女から理由を問い詰めることはなく、柴崎は目の前にあるスイッチに手を伸ばす。
四角いボタンを人差し指で押す。ふっと一瞬だけ篭る音がスピーカーから聞こえる。
柴崎は言った。声のトーンを最大限落として。
「今、マイクのスイッチをオンにしました」
柴崎が掴まるコンソールパネル。彼女の顔の前にアナウンスマイクがある。
ヘアピンのように曲がって彼女の口のところにその先端が来ている。
「声を拾います。校内だけじゃなく、校庭にも、全校に流れます」
先生。……抱いて。
声を上げさせないようにして。声が出たら、ここにいるってこと、あたしたちがセックスしてるって、ばれます。
みんなに。
柴崎は肩越しに彼の頭を掻き抱いて、キスをねだった。
半開きになった唇から、舌先がはみ出る。彼女の股間がじっとりと潤ってくるのを手塚は感じた。

(このつづきは、9月発売予定のオフ本「Immoral Summer」にて)


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