背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

ウインドウショッピングが苦手な彼だけど

2021年05月26日 02時50分54秒 | CJ二次創作
ハイブランドの旗艦店が立ち並ぶショッピングモール。
あたしはウインドウショッピングに目がない。服やアクセサリーの新作を見て回るのも大好きだけど、各ショップが趣向を凝らして店先のウインドウをおしゃれに飾るのを見ているだけでわくわくする。季節を先取りしたり、コンセプトを発信したり。
美術館を巡るよりよっぽどハイセンスで面白いと思う。
普段は船の上であまり来られないから、オフのときはつい時間を忘れて店先を冷やかしてしまう。
ジョウはウインドウショッピングが苦手。目的もなく店から店へと見て歩くってことに、意義を感じないらしい。
ていうか、時間の無駄だと思っている節がある。
でも今日はあたしに付き合ってくれる。いやな顔ひとつしないで。
ウインドウのショーケースを生真面目に覗き込む。
「どんな指輪がいいんだ」
「あたしは誕生石はガーネットだけれど、やっぱりダイヤがいいかなあ」
特別な指輪だもん、とうっとり。
ジョウは首をかしげる。
「ダイヤ、はわかるが、ガーネットってどんな石だ?」
「ほらあれよ。紅いやつ」
「……へえ。きれいだな。似合うよ」
ジョウが微笑う。
「ダイヤは硬質でどこか冷たい感じがするけど、こっちのは真っ赤で君の肌に映えるな」
「そう? でも女としては、やっぱしダイヤは捨てがたいわ……」
お値段的にもねえ、うーん、と悩んだふり。
こんな幸福な悩みなんてない。
ジョウはダイヤとガーネット、しばし見比べて、
「どっちも買ってやろうか?」
と言った。
「え?」
「決めかねるんなら、ダイヤもこの赤いのも買ってやるよ。記念だから」
「ほんとう? いいの?」
あたしは飛び上がって喜ぶ。
「すごいお値段になっちゃわない?」
「今日は特別だから。一生に一度だ、奮発しましょう」
はにかんだように笑う。優しい優しい笑顔。あたしだけに向けられるって思っていいのよね。とまた幸せになる。
「ほんとにうれしい! ありがとう。 ~~ああ、でもちょっと待って。さっきのお店のほうのデザインがよかったかも……。も一回、あっちに戻って見て決めていい?」
「う」
一瞬、ジョウの顔がこわばって。またあっちに戻るのか?と表情に出たけど。
でも、すぐに相好が崩れた。
「いいよ。アルフィンの納得のいくものを選んでくれ。とことん付き合うよ」
「うん!」
あたしはジョウの手を握りなおす。恋人つなぎにしっかりつないで、ぶんぶん腕を振って歩き出す。
あたしより、あたま一つ分高い身長の彼を見上げながら。そんなあたしを困ったような、照れくささを押し隠したような顔でジョウが見下ろす。おなじリズムで歩道の石畳にブーツのかかととヒールを打ち付けていく。
仕事の時は、いつも自分の歩幅で自分のペースを貫くこの人だけど。
ついて来い、遅れるな、弱音を吐くなといっつも命令口調のジョウだけど。
オフの時は、こうやって歩調を緩めてあたしに合わせてくれる。限りなく優しくエスコートしてくれる。
声音が、視線が、蕩けるように甘い。
それが、うれしい。


婚約指輪を選ぶと言ったあたしたちに、「おめでとう!」とリッキーがエアカーのクラクションを派手に鳴らした。
さっきの残響が福音みたいに心を包む。


「ジョウは結婚指輪はいらないの? あたしがそっちは贈るわ」
「いらない。俺はそういうのはつけない」
ジョウはそっけない。でも……、
「結婚指輪をしていないと、女が群がりそうでいやだわ」
今でもあちこちからモーションかけられてるっていうのに。
女除けにつけてよ、とあたしはねだる。
ジョウはかぶりを振った。
「そんなこと気にしなくていい。女除けのための指輪なんていい。君がいつもそばにいてくれれば、女は寄ってこない」
何気に、殺し文句。
さらっと口にするのよね、この男(ひと)は……。無自覚テロ。
「……それもそうね」
「だろ?」
ジョウはつないだあたしの左手を持ち上げて、薬指の根本のところに唇を寄せた。
「楽しみだ。はやくつけてあげたい、ここに」
「……」
もう、幸せすぎてどうにかなっちゃいそう。
眩暈がする。
思わずよろけたあたしを支えて、「大丈夫か」とフェロモンを無自覚に放つ男が言った。
ぜんぜん大丈夫じゃない。好きすぎる。ジョウが。
大好きよ。
あたしはとびきりの笑顔を彼に向けた。
「最初に薬指に嵌めるのはあなたね。あたし、ファッションリングもしたことないのよ、この指には」
今日まで大切に初めてをとっておいたの。そう言うと、ちょっと驚いた顔をしてから、ジョウは笑った。
「それは、光栄」

END
「どこへでも」の後日譚というかつづき。

最近、PIXIVはじめました。昔の手柴やらCJやらを公開しています。
あちらでしか読めない話もありますので、よろしければご覧ください。
安達 薫

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