背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

アルファベットは気にしないで

2021年07月24日 14時54分42秒 | CJ二次創作
寄航中のミネルバ宛に、空輸便が届いた。『ハイスピード・ポスト』 銀河系でも屈指の超特急宅配便。
中くらいのスーツケースほどの箱に、ミネルバの船籍番号とチームリーダーのジョウの名前が記されている。
発送地はドルロイ。
「なんだ? これ」
係員から受け取ったジョウは首を傾げた。全く心当たりがない荷物だ。
「誰かドルロイに何か発注かけたか」
「さあ、あたしじゃないですね」
「俺らでもないよ」
タロスとリッキーは首を横に振る。「へんだなあ」とジョウは困惑顔。
「中はなんだろ? 書いてないの?」
リッキーが訊くので、ジョウは「ああ 、記載がない」と持った箱をわずかに振ってみる。
「んー」と唸ってから、答えた。
「軽いな。少なくとも銃器の類じゃない」
ごそごそ、中に遊びの部分があって動く感じがする。精密機器なら、こんな梱包はしない。絶対に。
「発送ミスかな? 開けてみたら、兄貴」
「うむ……」
ジョウがタロスに真顔で訊くと、「いいんじゃないですかね。確認なら」といかつい肩を竦めた。
ジョウは頷いて箱を開封した。
フックを外し、上蓋を開ける、と――。
目に飛び込んできたのは、赤。鮮烈な赤い色だった。彼らには見慣れた色彩。アルフィンのクラッシュジャケットの色だ。
そこには卸したてのジャケットが収められていた。
「なあんだ」
もっと何か他のものが入っていると期待していたのか、少しがっかりしたようにリッキーが鼻を鳴らした。ジョウとタロスも目を見交わす。
と、そこへキッチンでの用事を片付け終わったアルフィンがリビングに入ってきた。
3人と、彼らが取り囲んでいるものを見るなり、さっと顔付きを変える。
「あ! それ!」
一瞬棒立ちになったかと思うと、信じられないほどの勢いでジョウの手から箱をひったくった。
「やだもう! 何で勝手に開けてるのよっ。ひとの荷物を、えっち!」
真っ赤になって後ずさる。箱をひしっと両手で抱えたままで。
おかしなほど狼狽している。
「え、えっち?」
ジョウを含め、3人はアルフィンのその過敏な反応に少なからず驚く。
「何だそりゃ。ミネルバ御中の俺宛だったから、開けてみただけだぞ」
ジョウが抗弁すると、アルフィンは苦々しく顔をしかめた。
「――んもう、あンの受付嬢ったら無能! 宛名はあたしにして、個人名でってあれだけ念を押しといたのに!」
「ジャケットを新調したの? 自分もちで?」
リッキーが訊ねる。するとアルフィンはますます苦りきった。
「う……、まあ、そんなとこね」
「なんで個人で。経費で落とせば済むことなのに」
ジョウが質問を重ねると、アルフィンは明らかにたじたじとなって、じりじりとドアのところまで後退した。
「い、いや別にそんなにたいした額でもないし。あたし一人分の発注だし。経費を使うのもアレかなあって思って」
「アレかなあって……。たいした額ですぜ。一着30万クレジットはする」
なあ? とタロス。
「い、いいの! と、とにかく受け取りありがと、じゃね!」
それ以上詰め寄られないうちにとばかり、脱兎のごとくアルフィンはリビングから逃げ出した。
残された三人は「?」を貼り付けた顔をつき合わせた。
あきらかに変だ。挙動不審。
「なんだってんだ? いったい」
そう呟いたジョウに、タロスとリッキーは肩を竦めてかぶりを振る。 
「あたしらにはなんとも……。あの方の考えはいまいち読めませんから」
「ちゃんと理由を聞いたほうがいいんじゃない? あからさまに怪しいよ、あれ」
リッキーが断言した。アルフィンが消えたドアを見ながら。
ジョウは「うーん」と腕を組んだ。俺の仕事のうちか、それも。
なんか違うよなあ。そう首を捻りながら、リビングを出、ジョウはアルフィンの後を追った。


アルフィンは自室に駆け込むなり、新調したクラッシュジャケットを早速身につけた。
インナーシャツの上に袖を通し、ファスナーをあげる。きゅっと音がして襟元まで袷が重なる。
「ん! ぴったり」
やっぱし新しくしてよかったあ。自然と顔がほころぶ。
30万クレジットの出費は痛かったけど、それでも毎日といっていいほど身につけるものだもの。こうでなくっちゃ。
と、鏡の前にまにましているとき、ちょうどそのタイミングを見計らったかのようにインターフォンが鳴った。
「アルフィン、ちょっといいか」
ジョウの声が聞こえ、心臓もとろともアルフィンは飛び上がる。
「きゃっ」
「俺だ。入るぞ」
「ま、待って、」
一旦通した袖を脱いで着替えてから、と思ったが、その前に自動ドアが開く。
アルフィンはロックをかけていなかったことを後悔した。が、もう遅い。
ジョウがドアの向こう、当惑顔で立っているのが見えた。
「な、なあに」
慌てて背筋を伸ばして彼を迎える態勢を作る。ジョウはアルフィンが届いたばかりのジャケットをもう身につけているのを見て取り、わずか目を瞠った。
「いや……。なんか様子が変だったから。気になって」
「変? べつに、そんなことはないわよ」
「そうか? ――でも新しいやつ、やっぱしいいな。ぱりっとしてて、似合うよ」
「え……」
あ、ありがと。アルフィンは口ごもりながらそう言った。ジョウは微笑を蓄えたままで、自分のジャケットを目で示した。
「俺も頼むかな。大分着込んでるし、これも。
でもなんで俺にひとこともないままドルロイに注文かけたりしたんだ? 費用も自分でもつなんて、あまり頷けないな」
「う……」
それは……、とアルフィンの目が泳ぐ。
「何か、俺に言えない事情でも? 前のジャケットに不具合でもあったか」
クラッシュジャケットは制服であると同時に戦闘服でも防護服でもある、ときに戦場で命綱になるものだ。それに何かしら欠陥があるとしたら、リーダーとして見過ごすわけにはいかない。
ジョウの面がわずかに強張るのを見て、アルフィンは慌ててかぶりを振った。
「ち、違うの、そんなんじゃないのよ。不具合とかじゃ全然ないの」
「じゃあ何でだ」
ジョウは怪訝そうな顔つきを崩さない。じっと黒い瞳をアルフィンに向けたままだ。
「う……」
アルフィンは唇を噛んだ。言いたくない。言えない、ジョウには。
でも……。
「アルフィン」
優しく促す彼の前、いたたまれなくなって、とうとうアルフィンは声を上げた。
半ば、やけっぱちで。
「きついのよ! きつくなったの、前のじゃ入らなくなったのよ、胸が。
だからジャケットのサイズを変えなきゃならなかったの!」
そう喚いて真っ赤になった。恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
ジョウにだけは知られたくなかったのに!
ジョウはあまりのこと――真相に唖然とした。
「もう、分かったでしょ。ごめん、あなたに黙って注文したりして。もうしないから」
アルフィンは今にも泣き出しそうに目を真っ赤にしながら、明後日の方をむいてぼそぼそ謝ってみせた。
「も、もうしないって、いや、それは」
違う、俺はそういうのを責めてるんじゃなくて、とうろたえながらジョウが口を開く。
……胸がきついというフレーズで、ジョウの胸もいっぱいになってしまって上手く言葉が続かない。
言われてしまって、自然と目がアルフィンの胸元にいってしまう。自分の視線を押しとどめるので精一杯だ。
だからなんだか、もうジョウは黙るしかなかった。彼まで真っ赤になりながら。
アルフィンはしょんぼりと肩を落として呟いた。
「……だって、やだったんだもの。
金髪に碧い目ってだけで、カレンダーガールみたいな外見だけの女ってレッテル貼られることが多いのに、なんだか最近どんどん胸までおっきくなってきちゃって。ジャケットはきついし苦しいし。もう嫌で嫌で仕方がなかった。
頭、からっぽの女の代名詞みたいでしょ?」
自嘲気味にアルフィンは嗤ってみせる。少し寂しげな色合いを瞳の奥ににじませて。
ジョウは焦った。ぶんぶんと首を横に振る。
「そんな」
そんなことは……。
「……だからジョウにだけは知られたくなかったの。こっそり新しいの、取り寄せようとしたの。でもばれちゃった」
あーあ。とため息。
たまらずジョウが口を挟む。
「アルフィン……そんなばかみたいな俗説、気にするなよ。君が見かけだけのからっぽな女だなんて、誰も思わない。君を知ってるやつはみんな」
「……そう?」
「当たり前だ。第一俺は君が金髪だろうと黒髪だろうと、胸が大きかろうと小さかろうと、気にしない」
きっぱり断言した。
アルフィンが俯いていた顔を上げる。まるで光を見出したように。
「ほんと?」
「う、うん」
ジョウの返事にわずかタイムラグが生じる。アルフィンはそれを見逃さない。
「なんでそこで突っかかるの。やっぱし嫌なんだ、金髪で胸がDカップのおんなは、ほんとは嫌いなんでしょ!」
うわああん、と両手で顔を覆ってしまう。
「馬鹿、違うって。逆だ! その逆。
俺は金髪も好きだし、胸もどっちかっていうと大きい方が――」
いやそうじゃなくて! 自分でジョウは打ち消す。
「色やサイズなんか気にするなってことだ! AでもBでもCでも、なんだっていい。アルファベットなんか気にするなよ。俺はそういうこと抜きで君がす」
はっ。
そこまで言いかけて、ジョウが口を押さえた。
アルフィンが一瞬虚を突かれ、ぽかんと真っ白な顔つきになる。
その直後、目がきらきらと輝きだした。
「……何? 何を言いかけたの、ジョウ」
息を呑んで、彼に詰め寄る。一歩。
「いまなんて言った? 『そういうこと抜きで君が、す』?」
「あ……、う……」
ジョウはしどろもどろになった。変わらず口許を押さえたまま、じりっと後ずさる。
「『す』の次は? つづきは? ジョウ」
アルフィンはジョウに急接近した。聞きたい。ずっと、それこそ何年もの歳月、切望していた言葉だ。
彼の口から、直接聞きたい。
その想いがアルフィンに知らず「恋人接近」させる。と、彼女の胸が、わずかジョウの身体に押し当てられた。
「!」
ジョウはもう完全に熟れきってしまって言葉も満足に出せない。
今、アルファベットなんて関係ないと言ったけど、――言いはしたけれど。
「ねえ、言って、ジョウ」
甘くねだる声。ジョウの脳髄を痺れさす薬。
ノックアウト。ジョウは心の中両手を上げた。
――ごめん。すまない。撤回する。
俺はアルフィンのジャケットを新調したわけが、素直に、男として素直に嬉しいです。
そして彼は、アルフィンの肩を両手で掴んだ。間近で碧い瞳を覗き込む。
「アルフィン。俺は、君のことが――」

Fin,

pixivのほうのジョウはアダルトに。こちらは、爽やかに。笑
⇒pixiv安達 薫

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2 コメント

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Unknown (おすぎーな)
2021-07-24 20:00:11
投稿ありがとうございます😆
最初から何?何?何?と私まで気になって、どんな落ち?とドキドキ💓
そして、「そこかぁ!!😍」
まだまだ部分的な成長期かな😁
もう!ジョウったら往生際が悪いよ!言っちゃえ!言っちゃえ!(笑)
返信する
昔に書いた作品 (あだち)
2021-07-25 17:46:59
17.18は成長期ですからね。まだまだ……笑
オリンピック観戦もおありでしょうに、みなさまサイトに足を運んでお話を読んでくださって、嬉しいです。時差が無いオリンピックもいいものですね。
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