背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

SQUALL(1)

2021年07月30日 04時56分10秒 | CJ二次創作
ああ、女だーー
一分の隙も無く、どうしようもなく、女だ。
と、俺は思った。


その衝撃はいかずちのように俺の身体を脳天から二つに裂き、俺はしばし言葉を失う。
地上装甲車から駆け下り、驟雨に打たれながらジョウの許に駆け寄るアルフィンの足取り。そして、その胸に飛び込み、顔に叩きつける雨を気にかけることもなくおとがいをもち上げ、ジョウを仰ぐ首筋のなまめかしさには目を奪われる。
まばたきを忘れる。
ジョウはこらえかねたようにアルフィンの細い身体を抱き締めた。その身を覆いかぶせることで、激しいスコールからアルフィンを護ろうとしているように見えた。
雨足が不意に強まり、地面に叩きつけられる音が耳になだれ込む。
そのせいか、ふっと遠近感が遠のき、二人の姿がそこだけ切り取られたかのように、ぐんと俺の視界を占めた。
ジョウにきつく抱き締められ、アルフィンの背中が反り返る。一瞬だけ両腕が宙を泳いで、すぐに手は行き先を見つける。
ジョウの背中。
アルフィンは、ジョウをひしと抱きしめる。うなじに指先を滑り込ませ、ぬれた黒髪の感触をいとおしむ。その指の細やかな一本一本の動き、爪の先の先まで、アルフィンは致命的に女、女そのものだった。
感動的な再会のシーン。なのになぜか俺は心の中で馬鹿の一つ覚えのように、そう繰り返すしかできずにいた。
雨に視界を塗りつぶされながら、ひたひたと足元を満たす、言いようのない寂しさとともに。



どのくらい、二人がそうしていたのか。
ほんの数瞬のことのような気もするし、十数分も時間を止めてその場で抱擁を交わしているようにも思えた。
いつの間にかあんなに降っていた雨も上がり、雲間からうっすらと透明な蒼さをともなった空がのぞき始めていた。
「ブロティ」
ジョウが俺の名を呼んで近づいてきた。それを見て俺は、自分が地上装甲車の外に出ていたことにそのときようやく気がついた。
ずぶ濡れだ。なのに全然気がつかずに二人に見惚れていた。そのことが急に恥ずかしくなり、俺はそれを隠すため近づいてくるジョウに慌ててにっと笑って見せた。
「よお、また会えたな。つくづく悪運強いぜ、俺達ア」
余裕ぶるので精一杯だ。でもジョウは高揚で満たされているのか、俺の様子に気づくそぶりもなく屈託のない笑みを宿しながら、
「まったくだ」
と手を差し伸べた。
「死んだかと思ったぜ、てっきり。アルフィンから話を聞いたときにゃあよ」
がっちりと握手を交わし、終わったところへ遅れてアルフィンがやってくる。
ここは溶岩台地で足場が悪い。石くれにつまづいてよろけそうにる。
あ、と思う間もなく、ジョウがその腰に腕を回して支えてやる。
このままアルフィンはジョウに身を預けた。雨なのか、涙なのか、判別できないもので頬がまだ濡れていた。でもさっきまでとは比べ物にならないほどその表情は美しかった。ようやく会えたという安堵がアルフィンの心を溶かしたようだった。
ジョウとアルフィンの後ろに、クラッシュジャケットを身につけた見知らぬ女が見えた。俺はそこに視線を向ける。
ゆらりと、まるで体重を感じさせない風情で距離を置いて溶岩が冷え固まった塊の上に立っている。妙齢の、美人だ。遠目にも成熟した身体をジャケットの下に隠し持っているのが見て取れる。
あれがウーラか。アルフィンが話していた。兵器工場の技術長だかという。
とてもそんなお堅い職業に就いているようには見えない。女優か、もっと仇っぽい仕事を生業としている女がそうであるように、独特の妖艶な雰囲気を周囲に作り出している。
俺と一瞬視線を合わせたが、不自然でない程度にすっと逸らした。
「俺も死んだと思った。今回ばかりはもうだめだと」
ジョウの言葉に苦さが滲んだ。憔悴が色濃い。ろくに、眠っていないのだろう。頬はこけ、眼窩は落ち窪んでいる。顔色もよくない。
でも、目が死んでいない。いつもと同じ強い光を湛えていた。
アルフィンの腰に回した腕を解いて、漆黒のゆるぎない瞳をまっすぐ俺に向けた。
「聞きたいことが山ほどある。頭がこんがらがって発狂しそうだ」
「だろうな」
つい俺の口が歪む。
「だがその前に、礼を言いたい。ブロディ」
「礼? 礼を言われるようなことは、なんもしてないぜ。俺は」
「アルフィンを助けてくれて、ありがとう。恩に着る」
ジョウは俺のそらっとぼけを無視して、頭を下げた。そして、アルフィンの手を把った。
アルフィンがまた涙ぐみそうになり、俺は焦ってかぶりを振った。
「着なくていい着なくていい、そんなの。堅苦しいのはなしにしようぜ、な。
それより紹介したい人がいるんだ。中に入ろうぜ、まず濡れたのを拭かにゃあ、風邪引いちまう」
こちとらお育ちがいいもんでな、冗談めかすとアルフィンがようやく笑顔を見せた。
安心する。
「ほら、入りな。簡易シャワーもあるぜ。もちろん非常食もな。それから武器も」
言って地上装甲車をあごでしゃくると、ジョウはまぶしいものでも見るかのように、「地獄に仏とは、まさにこのことだぜ」とぽつりとつぶやいた。
それが、ジョウのここに至るまでの死闘を物語っているようで、俺は言葉に詰まる。アルフィンも口をきゅっと引き結んだ。
「仏様なんていやしないよ、この星には。いるのは鬼か悪者。ここは人でなしの巣窟だ」
いきなりサンルーフが開き、中年の男がひょっこり顔を覗かせた。
物騒なことを口にしたこの男を、アルフィンが手短にジョウに紹介する。「あれが、レオドール博士よ」と。
ジョウは黙礼で返して、こっちも紹介したい人がいる。と背後を振り返った。
「ウーラ、来てくれ。中に入れるそうだ」
声をかけると女がこちらを見た。
すっと無駄のない挙措で、溶岩から飛び降りる。足場の悪さをものともせず、しっかりした足取りでこちらに向かって歩いてきた。
その間も、ジョウとアルフィンはつないだ手を離さななかった。
まるで、離すということを知らないように、手は誰かとつなぐためにあるとでもいうように。
二人は寄り添って、手を重ね指を絡めていた。
その様子があまりにもお熱いので、
「いいのかい? 入る前に、アルフィンと二人きりになんなくても。
再会のキッスとか、まだなんだろ?」
俺がついからかい心を出すと、胸にちくりと棘のような痛みが走った。
ーーん? なんだ、今の。
思わずジャケットの上から、左胸を押さえる。でも痛みはすぐにどっかに行ってしまっていつもとなんら変わりはない。
変だな。何かおかしなものでも紛れ込んだかな、首をひねっていると、
「馬鹿言え、時間は一分、いやー秒でも惜しいんだ。ふさけてないで、行くぞ」
顔を赤らめて、ジョウがアルフィンの手を離した。
アルフィンは地上移甲車の外にいる面子に聞こえる声の大きさで、
「......けち」
と言ってふくれた。唇をわずかに尖らせている。
ジョウは聞こえない振りで足早に向かう。でもその耳まで赤いのは、一目瞭然だった。
そんなジョウを見ながら、そっか、人目がなけりゃとっくにキスでもなんでもしてるか。そりゃそうだよな、と俺は納得した。

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タイトルはもちろん氷室京介さまの楽曲から。
⇒pixiv安達 薫

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3 コメント

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Unknown (おすぎーな)
2021-07-30 07:53:26
イエイッ❗️CJ連載開始おめでとうございます😆そして、ありがとうございます😆
何だろうこのドキドキ感💓これからどうなっていくのか楽しみでしかありません🎵
氷室さん❗️これまた懐かすぅい~ BOØWYからの氷室さんに布袋さん聴いておりましたぁ❗️
実は布袋さんのギタリズム調に憧れ、でもギターは私には荷が重く、ロック調で弾く吉田兄弟さんのように弾きたいと津軽三味線の練習を細々と取り組み中ですが、なんたってあの早弾きは一朝一夕では…😅練習は亀の歩みで参ります(笑)
返信する
新作ありがとうございます。 (ゆうきママ)
2021-07-30 09:07:58
(1)ということは、2もあるのね。
嬉しい。
ウーラも、改造手術を受けなければ、あんな形にならなかったのにね。
今後もブロディ目線かな。楽しみです。
返信する
ブロディ目線でいきます (あだち)
2021-07-31 12:28:22
>おすぎーなさん
氷室さんは、たびたびこちらでも叫んでいましたが、私のカリスマです。この連載にあたって、SQUALL聴いて世界観に浸ってます。幸せです。三味線の練習、がんばってくださいv

>ゆうきママさん
ウーラは哀しい女性ですね。マチュアさんもですが。もっと情念が強い感じ。。。。
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