背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

野暮2

2021年09月27日 05時39分28秒 | CJ二次創作
ここでキスして。といういきなりのアルフィンからの爆弾投下にジョウがたじたじ。
その修羅場からいったん離れるという賢明な選択をしたタロスとリッキーは、ひとブロック離れたところで二人を見守っていた。
「まったく兄貴はさ、アルフィンには甘いよね。クラッシャージョウの名前が泣くぜ」
アルフィンにごねられると、途端に普通の男になっちゃうんだよないっつも。とリッキーは不満顔。
後ろで立ち往生しているジョウを見ながら、口を尖らせた。
「まあなあ。仕方ねえよなあ。アルフィンに泣かれるのが一番堪えるだろうからな、ジョウは」
ジョウの唯一の弱点だからよ、とタロスが笑う。
ジョウは普通の男になりてえんだよ、アルフィンの前ぐらいでは。いつも背負ってる看板を下ろしてえんだ、と言うにはリッキーはまだ幼すぎた。
リーダーの気持ちを分かれという方が無理がある。
「あれはあれでいいんだよ。独り者にはちょっくら目の毒ではあるがな」
もしもあの時アルフィンが密航していなかったら。ガンビーノを喪って、メンバーが3人きりだったら。
そう思うと、とても味気ない生活だったに違いない。
おきゃんで勝ち気なアルフィンの存在が、どれだけミネルバでの暮らしに笑顔と活力をもたらしてくれているか。はかりしれない。
「だから、けんかもたまにはいいんだ。アルフィンのかんしゃくにジョウが付き合う。ジョウの無鉄砲にはアルフィンが付き合う。それでバランスは取れてるんだからよ」
お似合いなんだよ、結局。と結ぶ。
リッキーはそんなもんかな、という表情で背後の二人を見た。
どうやら仲直りの進行中らしい。
と、そこで、ふと脳裏にひらめくものがあった。タロスの巨体を見上げる。
「……俺らひとつ、聞きたかったんだけどさ、タロス」
「ん?」
「こないだのさ、バミューダのセイレーンの夢のとき。ほら、ミネルバが座礁して異空間を漂流したとき。兄貴とアルフィンはたまたま同じ異世界に飛ばされてたみたいじゃん? あんとき、タロスはどんなところに行って、どんな景色を見せられていたんだい」
一回訊いておきたかった。
先日、ミネルバの4人は航海中えらく奇妙な体験をすることになった。
船乗りとして一生に一度体験するかしないかというぐらい希少な。
「俺か、俺は」
タロスはそこで、言葉を切った。
ひどく甘くて、今は苦さにとって代わった記憶が蘇る。
手に入れようと思えば手に入れられた。でも、自分から手を伸ばそうとしなかった。もうやり直しの効かない過去の選択。
最愛の相手との、甘く穏やかな生活。そして、授かっただろう新しい命。
家族という、タロスが手に入れたくて手にできなかったものを、セイレーンは鮮明に、残酷に脳裏に刻み付けた。
ないものねだりだとわかってはいる。でもあれが、無意識のうちに自分が渇望していたものなのだとしたら。それを夢というかたちで露呈されたのだとしたら。
いまその物語を口にするのは憚られた。
だから、タロスは言った。
「……忘れたよ。もう」
「忘れた? そんなことあるのかい。ついこないだのことだぜ」
リッキーが疑わしそうに見る。
「しようがねえだろ、忘れちまったものは忘れちまったんだから。
そういうお前さんはどうなんだよ。何をセイレーンに見せられたんだ?」
ぎく、とリッキーの足が止まる。
「俺らかい。俺らは」
「どうせミミーとの熱い再会とかなんだろうが」
「ばかっ、違うわい! そんなんじゃないよ」
ムキになる。にやにやと人の悪い笑みをタロスは浮かべた。
「あやしいぞ。こいつあビンゴかな」
「本当に違うっての! ……ローデスのことだよ」
すとんとリッキーの声のトーンが変わった。タロスがそれに気が付く。
「ローデス。お前さんの故郷のか」
「そーだよ」
俺らは孤児で、みなしご同士肩寄せ合って生きてきたけど。
「あっちの世界には両親がいたよ。妹も。帰るうちもあった。――そういう場所だったってことさ」
横顔を向けて、それ以上は話そうとしなかった。
タロスは口を噤んだ。
二人、無言で空を見上げた。視線の行き場がほしかった。
一番星が北の空に光っているのが見えた。ぽつんと。
「やっぱりこっちの世界が一番だなあ」
ややあって、タロスが言った。ぼそりと。
「そだね。やっぱ、こっちの現実が一番」
リッキーもポケットに手を突っ込んだまま、言った。
「戻って来られてよかったな」
「うん」
そこで不意に照れくさくなって、リッキーは話題を変えた。
「兄貴たち、どうしたかな。仲直りできたかな」
「そりゃあ要らねえ心配みたいだぜ」
タロスが背後にあごをしゃくる。と、薄闇の中、歩道の上でキスを交わす二人のシルエットが見えた。
「うへえ! お熱いことで。さっきジョウ、ああいうの苦手だって言ってなかった?」
リッキーが自分の目を片手で覆った。でもしっかり指の隙間から一部始終を収めようとガン見している。
「ただし例外はある、ってやつじゃねえか」
タロスも苦笑。
「にしたって、キス、長すぎない? ――おおい、ジョウ、まだかい! もう行っちゃうよ俺らたち」
わざと大声で急かしてやる。手をぶんぶんと大きく振って。
「野暮だねえ」
タロスがにやにやと嗤った。リッキーは鼻息荒く、
「わざとだよ!」
と言った。
急かされて、ジョウとアルフィンがこちらにやってくるのが見えた。
手をつなぎながら。
二人と二人は合流し、また4人になって街角に消えた。

END

pixivさんに「野暮」を投稿したので、こちらには「2」を。
お話としては「DESSERT」の続きです。
⇒pixiv安達 薫


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2 コメント

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おはようございます (ゆうきママ)
2021-09-27 08:29:50
タロスとリッキーの夢は、過去ね。
タロスとリッキーの夢は、ちょっと切ないね。
特にタロス。最愛の相手を入れるために,クラッシャーを辞められるか?どうなんだろう。
ジョウとアルフィンは、過去と未来で自分たちで変えられるってこと。まぁ、この二人は結果は同じ(笑)
タロスの夢(私は引退後タロスに春がやってくるのか?と思った)が分かりよかったです。
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いろいろ想像して、 (あだち)
2021-09-29 02:41:18
きっとタロスさんとリッキーにはこういう夢を見せるのではないかなと思いました。パラレルものにはあまり手を出さない書かせてもらって楽しかったのでまた作るかも知れません。
でも、なんやかんやで現実の世界が一番なんでしょう。4人とも。
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