背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

DESSERT

2021年09月26日 08時26分57秒 | CJ二次創作
街をぶらついていたら、交差点で信号待ちのカップルの女の方が、男に向かって言うのが聞こえた。
「ねえ、ここでキスして」と。
うわーと、たまたま彼らの後ろにいたリッキーが目を瞠る。
赤から青へ。
人々が動き出す。流れを堰き止めてカップルはその場でキスを交わしている。長いキスだ。
「行くぞオイ。じろじろ見るもんじゃねえ」
タロスがふえええと好奇心丸出しのリッキーの首根っこを掴んだ。
引きずるようにその場から移動した。
「大胆ねえ」
アルフィンが肩をすくめる。すっかり当てられた。
「俺はああいうのは苦手だな」
ジョウはちょっとだけ嗤った。
「男を試してるみたいじゃないか。気持ちを」
感心しないなと肩越しに見やると、まだしてる。思わずひゅう、と口笛を吹きかけた。
「そうかな。単にそういう気分だっただけじゃないかなあ」
隣を歩くアルフィンが言う。
「外で、美味しいもの食べたか何かのあとで、お腹いっぱいで店を出てみると空がきれいで、ああ幸せだなあって思ったとき、ふと隣に好きな人がいたら、ああ今キスしてもらったら最高なんだけどなあって思うことも、あるんじゃない?」
「えらく具体的だな」
タロスが突っ込む。いま、まさにそのシチュエイションだった。
4人でレストランで美味しく食事をして、外に出ると宵闇が紫色に街角を染めていた。みんなお腹いっぱいで、ニコニコしていて。
「女はそういうときも、あるの」
アルフィンは彼女サイドだ。徹底的に。
「デザートみたいなもんなんだね。女の人にとって」
リッキーは上手にアルフィンの側に立ってあげる。
「そ、心のデザートなのよ、キスは」
「さっき沢山食べてたじゃないか。タロスと俺の分までぺろっと」
甘いものが苦手なジョウとタロスの分まで、アルフィンが平らげた。
アルフィンがそこでピタッと足を止めた。むうっと眉間にしわを刻んで仁王立ちする。
「なんでそんな突っかかるの」
ジョウを睨みつける。
「そんなに癇に障るの、街中でああいうことするカップルが」
「そ、そんなんじゃない。俺はただ」
たまたま話の流れで……と言い訳する間も与えなかった。
きっ、と上目で睨んだまま、
「ジョウ、――ここでキスして」
と言った。
ぎょっとして3人一斉にアルフィンを見る。もちろん一番ジョウが動揺した。
「な、なにを」
言ってるんだ。という言葉にアルフィンは言葉をかぶせた。
「いいから。ここでして、今すぐに」
「――お、おい、アルフィン」
タロスがとりなそうとするのを、リッキーが「行こうぜ、先に」と促す。しきりに目配せ。
俺らが口を挟むと余計ややこしくなるから、と今までの経験値を生かす。
あ、ああ。そうだな。珍しくタロスが従う。
先に行ってしまう。と、ジョウとアルフィンがその場に残された。
気まずいムードが流れる。ジョウはむくれたアルフィンに向かって何と言っていいのか困り果てた挙句、
「さっき、俺、言ったよな。男を試すようなことは好きじゃないって」
今、それをしてるんだぞと暗に諭した。
「いいからしてよ。好きならどこだって誰の目も気にしないでできるでしょ」
ムキになったアルフィンは引っ込みがつかなくなっている。真っ赤になって涙を堪えた。
ジョウはため息をついた。
「それはキスじゃない。当てこすりだろ」
「……」
しようがないな。
ジョウはアルフィンにそっとかがみ込んだ。
街中で、公衆の面前でなんて、俺の主義ではないんだが。でも。
耳元でささやく。
「ごめんな。きつい言い方をして。――機嫌直してくれ」
キスが嫌なわけじゃないんだよ。
さっきまでのご機嫌な君に戻ってくれ。笑って。
願いを込めて、唇を重ねた。
触れた瞬間、びくっとアルフィンが反応した。そして、ジョウが唇を離した後に、
「……ごめんなさい。あなたの言うとおりだわ」
最低ね、あたし。とほろりと涙をこぼす。
ジョウはアルフィンを腕の中に囲った。他の通行人の目から遮るように。
とんとん、と背中を優しく叩く。
「最低じゃないよ。君に泣かれるのが弱い。いちばん。だから泣かないでくれ」
「ん……」
もう泣くまい、と思ってもジョウが優しくて泣けてくる。
「ごめん、止まんない」
ボロボロと涙をこぼすアルフィンに、ジョウは微笑ってかがみ込む。
またキスをした。
アルフィンがぐっと嗚咽を堪えて身を引いた。ジョウが深追いする。本格的に通行人の流れを塞いでしまう形になった。
……こういうの、苦手だと思っていたんだけどな。
アルフィンを周囲の好奇の目からかばいながらジョウは思う。
好きならどこだって誰の目も気にしないでできるでしょというのは、本当のことらしい。
心のデザートみたいなもんか。
上手いこと言うな。俺がもらったんだな、今夜は君からデザートを、とジョウは思った。宵闇が甘く空を閉じ込めるのが視界に映る。
けんかもたまにはいいか。そう思っていると、先に行ったリッキーとタロスが「おーい、ジョウ、まだかい」と手を振るのが見えた。

END

⇒pixiv安達 薫

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