背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

占い師の話

2021年07月10日 07時31分43秒 | CJ二次創作
それは、停泊先の港から、ちょっと足を伸ばした倉庫街。
お洒落な町並みで、のぞいていきましょうよとアルフィンがジョウをぐいぐいと引っ張る形になった。
これじゃまるで、リードにつながれた犬だぜとぼやくジョウだが、スイッチが完全に入ったアルフィンの耳に入るはずがない。ウインドウショッピングのお供をしぶしぶ仰せつかるしかなかった。
と、ふとアルフィンの目に留まったのは、道路端に軒を構える占い師。
とはいえ、屋根もないので軒があるわけではないのだが。簡素なテーブルに紫色のクロスを掛け、自身もインドのサリイのような衣をまとっている。お婆さんというほどではないが、かなり年配の女性。
つまりはベテラン。アルフィンは、ジョウの腕をさらにぐいと引いた。
「ねえ、ちょっと見てもらいましょうよ」
アルフィンが言うのが、占い師だと知ってジョウはここにきて初めて難色を示す。
「いや、いいよ」
「どうして?」
「俺は占いは信じない」
断言した。
クラッシャーは船乗りなので、信心深かったり、縁起を担いだりする者も結構多い。出航日を占いで決めたり、仕事の成功を祈願してから出帆したり。中には独特のゲン担ぎをする者もいるという。人それぞれだが、たとえばタバコをクルー全員で一服してからエンジンスタートさせる、などなど。
しかし、ジョウは一切そういう類のことからは距離をおいてきた。この仕事に就いてから、神に祈ったこともないし、誰かに指示を仰いだこともない。
即決即断が自分の信条だと考えているからだ。それを遅らせるものは、回避する必要があった。
アルフィンもジョウのそういうところは知っているので、
「そうね。でも手相見ぐらいはいいんじゃいの」
「看板には顔相見って書いてあるぞ」
「どっちでもいーの! 相性占ってもらいましょ。さ、早く早く」
最後は強引にアルフィンが押し切った。ジョウは渋面を作ったまま占い師の前に座る。
占い師は年齢もわからない感じだったが、国籍はもっとわからない風貌をしていた。サリイで覆った黒髪にはウエイブがかかっている。
「何を見ましょうか」
ハスキーな声で占い師は尋ねた。サリイの光沢のような、深いつやを帯びたアルトだった。
アルフィンは幾分緊張した面持ちで、一度隣に座ったジョウに目をやってから言った。
「私たちのことで、見えることを教えて」
占い師は、少し目を眇めて二人を見た。心持ち、身を遠ざけて。
ジョウはなんだか落ち着かない気分だった。目を意識的にあわせないようにした。
いったい何が見えるって言うんだ。通りすがりの俺たちのこと、一見しただけで言い当てられるわけがない。占いなんて大概いかさまだ。
ということを心の中で思っているのを見透かされないように。
占い師は無表情でジョウとアルフィンの顔を眺めた。それからおもむろに紫のクロスの上、手を組んだ。
派手に塗られたマニキュアに、翡翠だのエメラルドだの、豪奢な指輪が並んだ。
「あなた、彼女のほう、彼氏にぞっこんだね。ほかの男が、男に見えないってくらい惚れてる」
黒目がちな目で掬いあげられるように見つめられ、アルフィンは動揺した。
「あ、え……」
とっさに言葉を返せない。
しかし、アルフィンが何か言う前に、「でもね、」と占い師がジョウに目を移す。
「彼女以上に実は参っているのが彼のほう。彼女が好きで、大切で大切でしょうがない。目がそういってる」
切り札のカードを見せるように、占い師は勿体をつけて言った。
ジョウは硬直した。同時に真っ赤になった。
「う、あ」
な、なんでととっさに口にしたが、アルフィンが身を乗り出して「それって本当?」と食って掛かる。
占い師はアルフィンに視線をやった。余裕のある口調で噛んで含めるように続ける。
「あたしは本当のことしか言わない。いいことも悪いことも」
「え、じゃ、じゃあ……」
アルフィンは首から徐々に赤くなった。のぼせる。
そんなアルフィンの反応を冷静に眺めながら、
「普段はそっけなくしてる。好きだとか愛してるとか、一切いわない。けれども心の中では大事に思ってる。これ以上ないってほど、想ってくれてる。だから、甘い言葉を口にしてくれないとか不満はあると思うけれど、その辺は彼女が大人になって、我慢を――」
「も、もういい。ストップ、やめてくれ」
たまらずジョウは席を立った。がたんと音を立てて。
わずかに後ろによろけながら、財布から札を取り出し、クロスの上に置く。
「つ、つりはいらない。アルフィン、いくぞ」
「あ、待ってジョウ。まだ聞きたいことが」
「いいから。来るんだ」
「ああん」
ジョウはさっきとは反対に、アルフィンの腕を把って強引に立たせた。ほうほうの態で退却する。
クラッシャーの仕事をしているときも、これほど無様に撤退したことがない彼だったが。
「毎度あり」
札びらを指ではさんで、ウインクを投げた占い師のほうが役者が一枚上手だった。


「ジョウ、ジョウってば、歩くの速い!」
手、痛いよと言ったときには、もうさっき占い師がいた区画からはだいぶ離れていた。
「ご、ごめん」
つかんでいた手を離すと、アルフィンは眉をひそめたまま手首をさすった。
「もう、強引なんだから。まだ話、全部聞いてなかったのに」
膨れ顔で言う。ジト目で見られて、ジョウはしどろもどろになった。
「すまん」
「っていうか、何でジョウは途中で立ったの? ねえ」
アルフィンが小首をかしげる。少しだけ、からかいの色合いを帯びた目を向けながら。
ジョウは口ごもった。
「い、いや、それはだな」
「ねえ何で? 教えて、ジョウ」
「~~ ……人が悪いぜ、アルフィン」
わかってんだろオとあさってのほうを向きながら言う。
照れくさくて死んでしまいそうだ。
アルフィンは幸せそうに微笑んで、さらにジョウを追い詰めた。
「わからないなあ。あ、そうだ。理由を聞いてこようかな。もう一度戻って、あの占いのおばさんに」
「あ、馬鹿。それはよせ」
ジョウは、反射でまたアルフィンの腕をつかんだ。
「痛いってば。もう、加減してよ、ジョウ」
「だって、戻るとか言うから」
ごめん、と今日何度めかのせりふを口にすると、アルフィンが、ふうと息をついてからおもむろに占い師の口真似をした。
「『彼女が好きで、大切で大切でしょうがない。』目がそういってるって」
ぎく。
ジョウは思わず身を引いた。
アルフィンは真顔になっていた。期待に満ち溢れた目をして、彼をひたと見上げる。
「普段はそっけなくしてても、心の中ではこれ以上ないってほど、想ってくれてるって。あたしよりも、あなたのほうが好きだって。ねえ、本当? ジョウ」
「う……」
ジョウはいやな汗が背中を伝うのがわかった。
袋小路に追い詰められた獲物の気分を味わう。どうする? 認めるか、認めないか。二択だ。
けれど……、
「ノーコメントで」
ジョウは言った。案の定、アルフィンはむっと眉を吊り上げた。下唇を突き出して、不満を垂れる。
「なんでえ! この期に及んで男らしくなーい!」
「なんとでも言え! あのな、聞け。誰かの口から気持ちを言われて、はいそうですかなんて認めるほどこっちは落ちちゃいないんだよ」
ジョウはアルフィンに言葉を継がせない。まくしたてた。
「言うときは、自分の口で言うから。俺の言葉でちゃんと言う。だから信じろ。でもって、今はほっとけ!」
傍目には怒鳴りつけているように映ったかもしれない。アルフィンは気を飲まれたように目を白黒させた。が、結局、
「え、あ、はい……」
すとんと声のトーンを落として頷くしかなかった。
「行くぞ」
そしてきびすを返し、大またで歩いていくジョウの背中を「あ、待ってってば」と必死に追いかけた。


後になって気づいたけれど。
気づくのが遅すぎなくらいだけれど。
あれって、よく考えるとれっきとした告白よね、とアルフィンが幸福そうに笑う。
そうだな、とジョウが照れくさそうに認めたのは、二人が、恋人同士になってからの話。


END


心晴れないときにでもお読みくださるとうれしいです。
⇒pixiv安達 薫

コメント (3)    この記事についてブログを書く
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3 コメント

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Unknown (ミルク)
2021-07-10 18:29:07
本当にお久しぶりですね!覚えていてくれて嬉しいです!毎日が忙しく、すっかり読む専門になってしまってます(笑)pixivの作品も、しっかり楽しませていただいてます。
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Unknown (おすぎーな)
2021-07-10 19:11:53
投稿ありがとうございます😆
安達様CD-Rにもありましたが、ピザン編で、アルフィンを人目見たジョウの方が一目惚れしたに違いありません😁
返信する
pixivには (あだち)
2021-07-11 06:35:23
あちらには、原作がらみの後日譚とかを上げさせていただくことが多いです。HPのほうはもっと自由に。
>ミルクさま
お忙しい中来訪ありがとうございます。読むのも描くのも無理の無い範囲がよいですね、お互いに。

>おすぎーな様
CD-Rお読みくださりありがとうございますv
いろいろ二次を書かせてもらってきましたが、姫を助けてミネルバで目を覚ますシーン……。コミカライズでこれからみられますよっ たのしみですねv

昨日「秘密」最新刊を買って、まきつよし祭りが降臨中……まきさん、好きだ。。。。泣
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