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Mの劇場

読書・アニメ感想のブログ。好きなことを好きなだけ。

『下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ』著:白川紺子

2015-12-08 23:36:49 | 読書


前回の続き。
今回の本に入っているのは【ペルセフォネと秘密の花園】【杜若少年の逃亡】【亡き乙女のためのパヴァーヌ】【回転木馬とレモンパイ】の四つ。



以下、ネタバレをとっても含みます。
未読の方はご注意ください。
先に読んでしまった、とおっしゃられても私は責任を持ちません。



ちなみに、前回との『下鴨アンティーク』の二冊はジャケ買い。
ふらっと立ち寄った本屋さんで表紙を見かけて、あまりにお洒落だったので買ってしまった…
各章にも表紙がついており、前回の三作、今回の四作共にモチーフとなる植物や生き物などが飾られている。
背景は着物の柄となる矢羽や市松。
目でも楽しめる。
次の巻もあるみたいだけれど見つけられていないので、見つけたら読もうと思う。

【ペルセフォネと秘密の花園】
春を忘れた片栗の花が、春の女神であるギフチョウによって春を取り戻す。
四作の中でも美しい情景のある作品だと思う。
特に最後、着物が春の柄になりゆく場面。
土から芽が出て茎を伸ばし、小さな片栗の花をたくさん咲かせる着物、とても見てみたい。

人は誰でも秘密の花園を持っている。
秘密は秘密にするから秘密。
大事な人とだけ共有する、自分だけの花園である。
着物の持ち主、シャーロットにとって、秘密の花園への鍵は佐保姫・ギフチョウ、秘密の花園は恋人である黒塚洸介と婚約を誓った片栗の咲く野であった。
前作とは違い、鹿乃はプリシラに花の模様の帯や小物を一緒に持って行くよう勧める。
欲が出るから引き離す、のではなく、生涯一緒にいられるようにした。
二人は秘密の花園に閉じこもり、二人だけの時間を永遠に過ごすことになる。

【杜若少年の逃亡】
杜若柄の着物が、少年になって逃げていくので、少年の正体を見つけつかまえる話。
杜若だから頭文字をもじっていくあの歌かな?と思ったら違った…
祖母が残したヒント、井筒・松風・ヴェニスの商人・十二夜・杜若は能の題目。
そっか能かー前も能だったけれど能には疎いので気付かなかった。

馨少年は少女。
女という性を捨てきれず、女である自分と男として育った環境の狭間でどうしたらいいのか分からなくなった少女。
自分を見つけてほしいのに見つかれば周りに捨てられるかもしれない。
男であるから次期当主として求められるだけで、女の自分には価値がない。
だから、若王子家当主から存在を認められたとき、それが唯一の蜘蛛の糸に見えたのだろう。

【亡き乙女のためのパヴァーヌ】
たどたどしく『亡き王女のためのパヴァーヌ』を引き続ける帯。
悲しみに浸る帯に、求婚の意志を伝えることで悲しみを沈めようとする。

帯を贈った後、女中のイトは京都空襲で亡くなった。
楽譜の読めない、そして主人の滋野谷倫明から真実を語られなかったイトは、その帯に自分の名前が音符の名前で刺繍されていること、曲が愛を囁くためのものであることを知らずに死んだ。
倫明の後悔、悲しみは図ることができない。
どんな思いでイトのばらばらになった体を集めたのか。
伝えられなかった思いは悲しみに支配され消える。
残ったのは、『亡き王女のためのパヴァーヌ』を引き続けるイトの意志だけであった。

思いは帯に通じる訳だけれど、ピアノの音色は『君は花のごとく』のメロディーに変わる訳だけれど、伝わったのならいわくつきの帯ではなくなるのではないかなとは思う。
あの帯どうしたんだろう。

【回転木馬とレモンパイ】
最後は、蔵にある着物の話ではない。
古美術商をしている鹿乃の兄、良鷹が持ち込んだ回転木馬の謎解きだ。
鳴らなくなった、音色が馬の形をして飛んでいってしまった回転木馬。
それを元に戻してほしい、という依頼を、良鷹は受けるのである。

すれ違っていた二人の気持ち。
藤井医師と結婚し、藤井百合子として生きてきた益村百合子は、元お付きの女中であったさよを身代わりに自分が幸せになったことを悔いていた。
けれど自分の幸せを守るため、秘密を打ち明けられずにいた。
さよは、身代わりにはなったけれど結婚生活は満足のいくもので、百合子に対して怒りや恨みは全く持っていない。
二人は最後まで再会することはなかったけれど、さよは百合子を安心させる言葉を言うことはなかったけれど、百合子はそれをきっちり受け止めることができた、と考えてもいいだろう。
死人に口なし。



着物の袷や能の知識、今回はクラシック音楽の知識も必要であり、ますます謎解き感が薄れた感だった。
紙面で鹿乃たちが真実に近付く様子を、まるで箱庭を覗くように楽しむのがこの本だろう。
脳を使う訳ではないが、これはこれで、目で楽しむ物語としていい本だった。
そして食べ物の描写が細かく、大変お腹が空く。
愛でてよし、食べてよし。

(終わり)

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