MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

RE: Independence Day

2005年07月05日 08時28分57秒 | アメリカ
ここアメリカでは7月4日は独立記念日のためお休みです。
僕のような外国人にとってこの独立記念日というものは単なるありがたい休日以上の意味を持ちませんが、多くのアメリカ人にとってこの日は誇り高い建国の歴史を記念する特別な日であるようです。

フィラデルフィアにおいて、かの有名な独立宣言が採択されたのは1776年7月4日のことです。

「われわれは、自明の真理として、すべての人は平等につくられ、造物主によって、一定の奪いがたい天賦の権利を付与され、その中に生命、自由および幸福の追求の含まれることを信ずる・・・」

この独立宣言が、近代デモクラシーの輝かしい出発点になったことはいまや疑うべくもありません。自由の国アメリカの歴史はまさにこの独立宣言から始まったといっても過言ではないでしょう。

しかし、この独立宣言で高らかに謳いあげられた建国の精神は、初めは単なる“絵に描いた餅”でしかありませんでした。この崇高な建国の理念が曲がりなりにも現実のものとなるには、それからさらに100年以上の年月を要したのです。

独立宣言から11年後の1787年に世界ではじめての成文憲法である、アメリカ合衆国憲法が制定されます。しかし、よく知られていることですが当初この憲法には人権条項がありませんでした。もっと言うと、人権条項はもちろんのこと、信仰の自由や言論の自由もこの憲法には明記されてはいませんでした。
アメリカ合衆国憲法に、思想・信条の自由、刑事事件における被告の人権保護などを含むいわゆる“修正10か条”が追加されたのはそれから4年後の1791年になってからのことです。(武装権(第2条)が明記されたのもこの時です)

ちなみに、独立宣言の起草者はアメリカ建国の父、第3代アメリカ大統領ジェファーソンです。
しかし、独立宣言の高邁な内容とは裏腹に彼は、自宅の大農場に多数の黒人奴隷を所有していました。当時のアメリカにおける黒人奴隷は、かつて地球上に存在したいかなる奴隷よりも悲惨な境遇に置かれていたといわれています。黒人奴隷は、資本主義経済における“商品”として扱われていたため、アフリカから船で運ばれた黒人の中には費用節約のため途中で海に“投棄”されたケースも少なくなかったそうです。
アメリカの奴隷制度は、南北戦争後に撤廃されましたが、制度撤廃後も、奴隷制度は実質的に存続しつづけました。
アメリカにおいて差別撤廃運動が本格化するのはじつに1960年代以降のことです。

この例が示すように、アメリカ人ご自慢の合衆国憲法は、少なくとも制定当時は“絵に書いた餅”あるいは“単なる紙切れ”でしかありませんでした。
どんなに立派な独立宣言があっても、どんなに崇高な憲法条文があっても、その精神が広く社会に定着し、実践されていない限り、憲法が機能しているとはいえないのです。
しかし、アメリカ国民たちはその事実をよく認識していました。そして、その後の不断の努力によってアメリカ合衆国憲法は生命を吹き込まれたのです。
もちろん、アメリカには現在でも根強い人種差別運動や、キューバのグァンタナモにおける不当抑留のような、憲法意思の根幹を揺るがす重大な問題が山のように転がっていることは事実です。しかし、憲法意思の実現に向けて彼らがこれまでになしてきた様々な努力は賞賛に値するものではなかったかと思います。

政治学者の小室直樹氏は、自著の中で「デモクラシーとはまさに優曇華(うどんげ)の花である」と述べています。
“優曇華の花”とは仏教の経典に記されている3000年に一度しか咲かない大変珍しい花のことだそうですが、小室氏は、デモクラシーとはまさに優曇華の花の如く人類の歴史上きわめて希少で脆弱なシステムであると述べています。
デモクラシーは、衆愚政治を生み出し、ときにヒトラーのような独裁者さえ生み出す危険性を孕んでいます。
つまり、デモクラシーとは、人類が作り上げたまさに“砂上の楼閣”のごとき、極めてデリケートな社会システムであり、従ってデモクラシーとは、崩壊の危機に常に晒されているが故に、国民の不断の努力によって常に育み続けてゆかねばならないものなのです。

日本も“優曇華の花”たるデモクラシーを国是とする国の一つです。
前出の小室氏によれば、現行の日本国憲法はかつてのアメリカ合衆国憲法同様に今や“紙切れ”同然となっているといいます。
彼は「今の日本には憲法もなければ、デモクラシーもない」と、現在の日本の状況をバッサリ切って捨てています。
日本において小室氏の言う本当の意味でのデモクラシーが根付く日が訪れるかどうかは分かりませんが、しかし、少なくとも日本国民の多くがその精神を理解し、その実現のために弛まず努力すること以外に、この脆弱なシステムを維持し、発展させてゆくことは出来ないのではないでしょうか。

今日は独立記念日。
自由の国アメリカで、デモクラシーについて考えてみました。

参考文献:小室直樹 「痛快!憲法学」(とても面白い本です。おすすめです。)
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2 コメント

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郵政民営化法案 (o_sole_mio)
2005-07-06 00:18:46
kazu-nさん、こんにちは



アメリカではインディペンデンスデイが終わったところですね。私は12年前のインディペンデンスデイにアメリカにいましたが、あちこちで花火を打ち上げている日という印象があります。



確かに民主主義という点ではアメリカは日本よりも進んでいると思います。日本はといいますと憲法や民主主義を最も理解しているのは天皇陛下ではないかという状況です。



既にご存知と思いますが、本日郵政民営化法案が本日衆議院本会議で採決され、5票差という僅差で可決されました。反対票を投じたり棄権する自民党議員が51名が出ました。このことは、郵便局を支持基盤とする自民党議員の多さ、小泉政権のレームダック化とポスト小泉を巡る駆け引きなどの思惑が絡み合っていると思われます。いずれにしても国民は蚊帳の外です。民主主義はどこへいったのでしょうか。更に参議院でも採決されますのでこの法案が最終的に可決するかどうかは不透明です。



映画版をお回ししましたが、あくまでも「裏たすき」ですので、次に回さなくてももちろん結構です。ただ、映画についてはこれまでも記事にされているので、ネタの一つとしてご回答頂ければ幸いです。よろしくお願い致します。
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こんにちは (kazu-n)
2005-07-07 01:58:11
いつもコメント有難うございます。

前に書いたコメント内容を修正しようとしたところ、勝手に消えてしまったので、もう一回書くことにします。



>民主主義を最も理解しているのは天皇陛下ではないか

昨今の今上天皇のご発言などを見ていると、私もo_sole_mioさんと同じ印象をもちます。

ちなみに、記事中で触れました小室直樹の著書の中で昭和天皇の戦争責任問題についての記述があります。彼は、昭和天皇に戦争責任を問うこと自体が論理的な誤りであると述べていますが、個人的にはかなり目からうろこの落ちる議論でした。



ところで、郵政民営化法案に関してですが、私個人は法案の内容を詳しく把握しているわけではないのでコメントは控えたいと思います(この法案の内容をちゃんと理解している国民がどの程度いるでしょうか?)

小泉さんも、意固地になるのはやめて、もう少しフレキシブルに行動してくれたらと思います。
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