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And This Is Not Elf Land

ステージからスクリーンへ(13)




「力をめぐる闘い」の行方。

舞台ミュージカルの「ジャージー・ボーイズ」を何度も何度も見ているうちに、主人公のフランキーをめぐる「3つの闘い」という構図が見えてくるようになりました。フランキー×トミーは「力をめぐる闘い」であり、フランキー×ボブは「才能をめぐる闘い」であり、フランキー×ニックは「言葉をめぐる闘い」であると…


トミーとの闘いは「三つのシーン」で象徴的に表されます。

一つ目は、初めてフランキーが舞台に上げてもらって歌った後。初めてのフランキーのパフォーマンスをねぎらいながらも、そこはトミー流の「飴とムチ」による洗礼を浴びせることになります。

一回ぐらい舞台に上げてもらったからって「調子に乗るんじゃないぞ」ってことなのでしょう。トミーはフランキーの頬を数回叩きます。フランキーは怒ってやり返そうとするのですが、彼の拳はむなしく空を切ります。トミーの力の前には、フランキーはまったくの無力でした。ここは舞台でも映画でもだいたい同じ。

二つ目はボブを加入させるかどうかを話し合っているシーンです。ボブの加入に反対し続けるトミーに、フランキーは「じゃあ、他のリード・ボーカルを探せよ!」と言い放ちます。フランキーの歌が次第に人気を集めるようになっていることに対しての自信の表れでもあるのでしょう。怒ったトミーはフランキーに殴りかかろうとするのですが、フランキーの手がトミーの拳を止めます。

ここは、舞台では、二人が向かい合っていて、トミーは大きなアクションで殴りかかり、それをとっさに空中で止めるフランキーの腕の動きも俊敏そのもの。ちょっとした「立ち回り」のようなシーン。後方の座席にいる観客にもトミーの拳を果敢に止めたフランキーの姿がよく見えます。そして、トミーは激昂するのではなく、何かを悟ったように「大人になったな、フランキー」と言い、しぶしぶボブの加入を認めます。

映画では、当然、こういう派手な動きをさせる必要はありません。「他のリード・ボーカルを探せよ!」と言われて「何だと?殴られたいのか!」と詰め寄ってくるトミーをフランキーはさりげなく腕で遮っています。ちょっとしたアクション・シーンのような舞台のやり方とは別に、映画ではこう表現されているのですね。ここも上手いと思いました。しかし、映画のように、さりげなく遮られてしまうのであっても、トミーの気に障るのは同じ。「なんのつもりだ、この手は?」とフランキーを睨みます。

とにかく、トミーの力の前では、何もできなかったフランキーが少しずつトミーの力を回避する術を身につけていっていることが象徴的に表されているシーンでもあります。

三つ目はジップ邸でのシーン。フランキーが積年の思いをトミーにぶつけ、怒ったトミーが殴り掛かりますが、フランキーはもう避けようともしません。「もう、お前のことは恐れてはいない」と言うように。

(舞台でのシーン)

映画のここのシーンはカメラが引いてしまっていて、二人の表情は見えなくなっています。そして、二人を止めようとするボブとニックも加わって乱闘状態(?)その様子に呆れたジップの「School kids!」という言葉がやけにしっくり来ます。この「School kids!」は舞台でも言うのですが、映画のほうが説得力ありますね。「ホントにそうだわ~」と私も思わずため息(笑)

しかし、ここは二人の表情を映してほしかった気がします。「トミーに殴られてもまったく手が出ない」少年フランキーが、「トミーの拳を回避する術を身につける」ようになる、そして、やがては「トミーを恐れずに立ち向かっていく」ようになるという。ここのシーンは、前の2つのシーンの延長線上にあるのでね…

話は前後しますが…「ジャージー・ボーイズ」の舞台はプロジェクションが効果的に使用されていることはここでも以前から取り上げていますが、ジップの家でのシットダウンのシーンでは、手の付けられなくなった猛犬に誰かが銃を向けている画が、ステージの向かって左上に映し出されます。銃を持っているのは「誰」かは描かれていません。「猛犬」は、まぎれもなく、トミーの象徴でしょう。トミーも手が付けられなくなってしまっていました。結局、トミーを抑えることができたのは、彼らの世界では圧倒的な力を持っているジップであり、そのジップの助けを乞うことができたのは、既に「引換証」を得ていたフランキーだけであった…ということになります。



さて、映画ではトミー役のヴィンセント・ピアッツァだけがミュージカル舞台出身ではありません。これに対して「なぜ?」という声も聞かれますが…これは、やはりトミーというキャラクターにとって求められるのは、ミュージカルとしてのスキルよりは、演技力やカリスマ性であるからでしょう。私も個人的には、映画化の話が出たときから、トミーはミュージカル畑から選ぶ必要はないと思っていました。

また、ドラマなどで名の知れている俳優を起用することで、ミュージカル・ファン以外の観客の動員も期待できますしね。とにかく、これは正しい選択だったと思いますし、ヴィンセント・ピアッツァは本当に魅力的でした。

ただ、最初は、カメラに慣れているヴィンセントの流麗な演技には、ただただ目を見張ったのですが…何度も何度も観ているうちに、ちょっと引っかかるものを感じ始めました。この映画「ジャージー・ボーイズ」は狭義のミュージカルとは言えないものの、やはりその脚本は「舞台っぽい」

なので、もっと瞬発的に強いインパクトを与えるような、舞台的な台詞回しでも良かったのではないか…と思える所もありました。例えば最初の楽屋のシーンやトミーの盗品倉庫のシーンなど、ヴィンセント・ピアッツァのニュアンス豊かな台詞回しが炸裂するシーンは、映画全体としてみると、ちょっと浮いている感じも受けるんですが…ま、あくまでも個人的な意見ですが…


(続)
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