他府県に住むライバルが、いつも僕を気にかけてくれる。
今日は、日本大会のエントリーを忘れていないか?と
確認の連絡を寄越してくれた。
ありがたい事だ。
同じ男として、選手として、
ライバルと認めて貰えただけでなく
こうして期待と温情を受ける事が出来る今を
素直にありがたいと思う。
だがその上で、戸惑う。
僕は一匹狼だから。
そこまでしてもらう価値が自分にあるのか、
この、ドラコン以外には鈍い頭では分からなかった。
そのライバルは
僕の追いつめられた心境も見越して言った。
今度の試合は、勝者のみが権利を掴み取って、挑む事が「許された」試合なのだと。
そこで更なる勝者を決める、最後の戦いなのだと。
そういう華やぐ戦いの裏に、自分達敗者がいるという事を忘れるな、と。
勝者として胸を張っていけ、敗けた者を惨めにさせるような戦いだけはするな。
来季は自分達も、と思えるような、お前らしい戦い方を見せてくれれば良い、と。
クソッタレが
敗者の気持ちは誰より分かるのに
分かっていたのに、このすっからかんの頭から抜けてしまっていた
あろうことか、彼の口から励ましを受けた。
それがどういう事か、考えなくても分かるだろう
ライバルは、どれほど口惜しくどれほど無念か
試合に臨みたくとも挑みたくとも、もう機会すらない人間の気持ちを
考えなきゃ分からんのか、そこまで俺はアホかクソッタレが
勝った事は光栄だ、
権利を得た事も光栄だ、
多くのライバルを抑えての試合、光栄に決まってるだろ
なのになんだこの有様は。
情けない、不甲斐ない、試合前で良かったな、こんなんじゃ戦っても負けるだけだ。
良かった、試合前に僕は一度負ける事が出来た。
他ならぬ自分自身に。
これで、もう負ける事はない。
一度くたばったんだから、もうくたばる事は自分自身が許さん。
仇は僕が取る。
ライバルの無念は僕が晴らす。
そして、僕に敗けたんなら納得だと必ず言わせて見せる。
情けない姿を見せた事も
悔しい思いをさせた事も
僕が大暴れする事で遠く離れたアンタらの耳に目に届けてやる。
それが僕なりの借りの返し方だ。