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父の生命力

父を初めて診るお医者さまは大抵驚かれる。

2ヶ月前、左股関節付近を骨折したとき、外科の先生は心臓肥大でかなり心拍が弱っていて、今晩が峠とおっしゃった。

1週間ほど前から食事があまりのみ込めなくなり、一昨日、特養ホームの指定医の判断で緊急入院となったときは、腎臓がほとんど機能していなくて、血圧も非常に低く、透析をしてもしなくても、危ない状態と言われた。

それでも父は帰ってきました。

付き添っていた母によると、病院で輸血している途中、ベッドの柵を必死で握りしめたり、母の手をぎゅっと握って離さなかったりしていたそうで、もしかしたら、あっちのほうへ落ちそうになる意識を必死に自分でオチルモノカとしがみついていたのかもしれない…とも、やっぱり痛くて苦しかったのかもしれないな…とも、思う。

昼間に救急搬送され、輸血と栄養点滴により、夜には容体が改善し、翌日は血圧も通常に戻ってきたとのこと。
3日後には一般病棟に移り、食事リハビリをしてから特養に戻る方向で進めるそうです。


ことし年明け早々に米寿を迎えた父、まだきっと「もう十分生きた」とは思っていない。「まだ生きたい」と思っているんだなと。食べて、寝て、周りの人とお話しして、冗談も言ったり……まだまだ楽しみたいんだなと。その生命力にはほんとに驚かされっぱなし。

どこが自分の家なのか、自分が今どこにいるのかも、よく分かっていないし、痛いとも苦しいとも言わない父。痛みの感覚も鈍くなっているのかな。かえって幸せかな。

容体が悪くなるときはほんと一気に来るから、今よくても予断を許さない状況は変わらないですけどね。


「生きる」ことは命あるモノの本能だから。きっと、本能の力で生かされ、生きている。
天寿を全うするって、この世に生を受けたモノにとって、いわば当たり前のこと、かも。

だから自ら死を選ぶなんてことは、しちゃいけないって思うんだな。
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