昨年、某医学部の臨床系研究室を訪問する機会があった。ほんの5時間程しか滞在しなかったが、MRを6人も見た。
MRとは医薬情報担当者のことで、簡単に言ってしまえば製薬会社の営業部員である。彼らの医師に対する猛烈営業振りはよく耳にする。実際も噂通りであった。彼らは助教授に面会の約束を取り付けていたのだが、助教授は彼らを無視して2時間も雑用をしていた。ここでは助教授の理非は問わない。彼は研究・教育・診察により多忙であるからだ。話を戻すと、その間MR氏は直立不動で待ち続けた。いくら高給でも私には耐えられない職種だと痛感した。
近年MRの中には高学歴の人々が増えている。特に修士MRという薬学修士卒者が存在している。営業職を学術職と言い立てるつもりなのだろうか。理系の高等教育を受けた人材を営業に回すのは社会的損失である。日本の製薬会社の研究費は15年前はアメリカの半分程度だったが、現在はファイザー社の研究費が日本の製薬会社上位10社の合計よりも多いという有様だ。営業活動による目先の利益よりも、国を挙げて将来の研究分野に予算を注ぐべきだ。医薬品は国際市場で勝負する商品だから。
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この本の冒頭に出てくるエピソードは以下。
「日本では大卒のタクシー運転手を採用するタクシー会社が現れた。タクシー運転手も大卒の方がより良いサービスを提供できると会社は考えているようだ」
現在は、イタリアでは医師がタクシー運転手をやっています(爆)USAではlawyerが単なる事務員や営業の仕事をしています。ランクの高いロースクール卒でないと、法律事務所に雇ってもらえず、食えないのです。
日本はMRとドクターの比率が異常に高いことをご存知ですか?認定試験合格者数だけで64000人、そうでない人も含めると8万人です。ちなみに臨床医は18万人。医師2人にMR1人がついている勘定です。
顧客との比率で考えると、ゴミのようにいる生保の営業ウーマンよりもさらに多い。これではMRが人間扱いされないわけだ。
この人件費を研究に投じても、そもそも企業規模が10倍以上違うのだから、到底勝てるはずがないんで、営業力でカヴァーするのは、けっこう合理的な戦略ではないかと思うのです。
ちなみに、私がいる研究室では医学修士たちは軒並みMRとして就職しています。なんと勿体無いことでしょう。
研究内容が高度だからといって就職状況がいいとは言えないのが悲しいところです。結晶解析は今や分子生物学には必要不可欠ですが、就職が非常に困難です。製薬会社には立体構造解析の人なんて、そんなにたくさんの人数必要ないですからね。合成のように人海戦術でやるようなものでもないし。
Inoueさんの研究室でも医学修士はMR就職のようですね。最近では医学修士の現状が知れ渡ってしまい、人気が激減している様です。去年B4の学生から聞いたのですが、定員割れしている大学が出てきた模様です。
就職状況ですが仰るとおり、立体構造解析分野はポストが無い状況です。タンパク質精製要員としてしか職がありません。結晶化が困難な膜タンパク質を博士テーマに与えられたら、博士課程ドロップアウトが決定的です(笑)
最近MR増員のニュースをよく耳にしますが、そういう事情からの戦略だったんですね。急場をしのぐ為にMRを増員することは「タコが飢えをしのぐために自分のアシを食べている」状態を心に描いてしまいます。動員しすぎて自滅した大戦中の日本軍みたいです。私の能力ではこれ以上論じられませんが、どのみち前線に投入されたMRは過酷な運命ですね。