『ありがち日記』

三浦しをん『ののはな通信』

ページを捲る手がとまらない…
久しぶり(3年ぶりとか…!)の小説新刊は、しをんさんの作品では初となる書簡形式。
それも女子同士の手紙、メモ、メール、…と、その時の状況や時代によって変わっていく。

KADOKAWAの公式サイトより、あらすじです。
横浜で、ミッション系のお嬢様学校に通う、野々原茜(のの)と牧田はな。
庶民的な家庭で育ち、頭脳明晰、クールで毒舌なののと、
外交官の家に生まれ、天真爛漫で甘え上手のはな。
二人はなぜか気が合い、かけがえのない親友同士となる。
しかし、ののには秘密があった。いつしかはなに抱いた、友情以上の気持ち。
それを強烈に自覚し、ののは玉砕覚悟ではなに告白する。
不器用にはじまった、密やかな恋。
けれどある裏切りによって、少女たちの楽園は、音を立てて崩れはじめ……。

運命の恋を経て、少女たちは大人になる。
女子の生き方を描いた傑作小説。

しをんさんのインタビュー記事を拝見すると、明と暗のバランスが初めてうまく取れたらしい。
言われてみると、これまではどこか一つの方向に向かって真っすぐ突き進む系(笑)というか、
暗いものはとことん暗い(例えば『光』)、明るいものは明るい。
それを頭に入れて再読すると、確かにバランスが良いのかなと思う…

書簡形式の小説を書くって、すっごい難しそう。
その人物になりきって思考や口調を変化させていくことが不自然にならないように、とか、
手紙というのは『恥ずかしいー///』ってなるような、
当人同士以外には絶対に見せられないような秘密めいたやり取りって感じがして、
それを覗き見ているかのような背徳感さえ覚えてしまうので。
見てはいけないものを見ているというような。
そこには、主人公たちの前向きで幸せに満ちたものもあれば、
ドロドロと憎しみや嫉妬というものを抱えている様子も赤裸々に語られている。

ところが、二人だけの世界ってわけでもないのがこの小説のすごいところ。
確かに女性が多く登場するけど、
男性もわかりやすい形で主人公たちに影響を与えているよね。
…んー、でもあんまりいい形では登場してないか(^^;)

女性同士の恋愛物語と一言では表せない。
単に、性別関係なく恋愛していいのだというメッセージを与える物語でもない。
(むしろ女性同士の書簡であり恋愛であったからこその物語ではないかと思う)
はっきり言って、最初はただひたすらに運命の恋だの、ドロドロだのを想像していたんだけど、
終盤はぜんぜん予想もしていない展開が待っていて驚いた。

女子高時代に燃え上がった恋も終わりを迎え、手紙のやり取りも途絶える。
そしてそれぞれパートナーを得たり別れたりして40代となっている二人。
ののは日本でフリーのライターとして活躍し、
はなは大使を務める夫とともにアフリカのゾンダという国で暮らしている。
いろいろなことを乗り超えて成長した二人が再開したメール。
そこから新たな物語がスタートしたかと思ったらまさかの展開(磯崎さん可哀そ!w)。
二人の性格や気質は基本的には変わらないのだな~というのと同時に、
お互いに支えとなるものを得てさらに成長しているのだな~ということも感じられた。

男女でも同性同士でも、震えるほどの恋の記憶を支えに生きること、
また互いを支え合ったり高め合ったり相手に出会えることって本当に素晴らしいことだと思う。
物語の中の二人は苦しい思いもしているけれども、それも含めてなんだか羨ましいほどで。

この物語に東日本大震災のことが描かれているのは重要なポイントかもしれない。
2011年3月10日(地震の前日)の、ののからはなに向けた手紙の中に、すごく響く言葉があった。
『私は、いま私がいる場所で、淡々と暮らしをつづけましょう。いままでとちがうのは、心の中の本当のあなた、つまり他者と、知識と思考と想像力のすべてを駆使して、対話するよう努めるという点です。心の窓を開いて、世界に、他者に、敏感になる。そうしていれば、きっといつかあなたの声がはっきりと聞こえてくるような気がするのです。都合のいい幻聴ではない、他者との真の理解が成立する瞬間が、訪れると思うのです。』

震災が起こる前に書いた設定ですが、まるで震災後にずっと考え続けていることに、
答えを与えてくれるかのような言葉。
知識と思考と想像力のすべてを駆使するのは難しいことだと思うんだけど、
それがなければ本当の意味で他者へ思いを馳せるということにはならないということだ。
すごい、こんな言葉を導き出せるなんてすごい。

本の装丁も美しく、秘密の花園感満載なのがお気に入り。
次の作品も楽しみに待ちます。


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