「ユノ様っ!」
「どうした、チャンミン」
いつものように、勢いよく飛び込んでくるチャンミンを受け止めながら、苦笑いを浮かべる。
店先から聞こえた鳥の声に、こうなる事は予想出来た。
何度、同じような事を繰り返しても…チャンミンの反応は初々しい。緩む口元を自覚しながら、問いかけてみた。
「また鳥から何かを聞いたのか?」
「まだ聞いてません!」
「聞いていないなら、何があった?」
「お手紙です!」
「え?」
「キュちゃんがお手紙を持ってきました!」
「…手紙?」
チャンミンがハッとして手を差し出す。握り締められていたのは、小さく折り畳まれた紙。首を傾げていると煩い鳥がやって来て、賑やかに騒ぎ出す。
「それ!注文書!」
「注文書?」
「まあ、読んでみて!」
「……」
胸元へしがみつくチャンミンが興味津々な眼差しを向けるから。仕方なく、鳥の言う事を聞く。
開いた紙には可愛らしい文字が連なっている。最初に見えたのは…ホットケーキの文字だ。
「…ホットケーキの注文なんて、受け付けてない」
「まあ、良いから、続きを読んで!あっ、チャンミンにも分かるように、声を上げて読んで!」
「……」
「ユノ様!僕もお手紙、聞きたいです!!」
「…そうか?」
チャンミンのお強請りなら、応えるだけ。続きを読み進める。
「…トッピングはクリームたっぷりでチョコソースに、てっぺんにはおっきな苺。追加が可能なら、クリームにも苺を。可愛いピンクのクリームにアーモンドスライスと…。
バナナとチョコレートソースの組合せも捨てがたい…
って、何だ、これは…」
最後まで読み上げてから、鳥に視線を向ける。
「だから、それ、作って!ボクのファンの兎ちゃんに持っていくから!」
「は?」
「いつも遊んでくれる兎ちゃん、今日がホットケーキの日だって言ったらさ。食べたいなって、話になって!美味しいホットケーキの店を知らないかって言われたから、ここを紹介した!」
「だから、うちは…」
ホットケーキを商品として扱っていない。勝手に注文を受けてくるなと言うつもりだった。
けれど、鳥は器用に羽根を動かし、合図を送る。
その先にあるのは…
「ユノ様っ!」
「チャンミン…」
「僕もホットケーキ、食べたいです!」
「……」
「あっ、そうじゃなくて…注文なら、喜んで用意したいです!」
ハッとして、本音を訂正し、はにかみながらの…キラキラ眩しい瞳を見てしまえば…断る選択肢は打ち消される。
「チャンミンはバナナと苺と…クリームとアーモンドで良いのか?」
「えっ!?僕のもありますか!」
「そこの鳥。トッピングは何が良いんだ」
「ボクはくるみとピーカンナッツ!」
まんまと鳥の策略に嵌まった。けれど、チャンミンの笑顔が見られるから。俺は笑いながら、注文品とチャンミンの為の特製ホットケーキの準備を始めていた。
。