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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

白の世界の話。

2018-05-15 | 白の世界
 

これは
『white』の途中に出て来た白狼と竜の話です。









 ***白の世界の話***




「ん~! 今日で一人は終わり! 寂しくなくなるのか!」  


いつもより遅い目覚め。寝過ぎを反省したけど気分良く、目を開けて伸びをして、思い切り、冷たい空気を吸い込む。

今日は楽しみにしていた約束の日。念願の朝の訪れは想像以上にワクワク感で一杯。ジッとなんてしていられない。何処までも飛んでいきたい気分だ。

でも、そこは自重する。だって、僕が空を飛ぶと、それだけで何処かに影響が出る。意図しなくても、天候を変えてしまったり、嵐を巻き起こしてしまったり…。下の世界の事なんて、一々、気にしないで良いって言う奴もいた。けど、僕は気にする。僕の行為で誰かに迷惑が掛かるなら、止めようって思う。だから、いつも基本的に僕は引きこもり。洞窟の中で丸まって、ぼんやりしている事が多かった。

  
生まれた時から一人だし、それが当たり前。ずっと寂しくないって思っていた。でも、友達が出来るって話を知った時から、今日までドキドキしていた。話し相手になってくれる精霊達はいたけど、いつも居場所に帰ってしまう。


僕だけの…友達。

何処にも帰らないで僕とずっと一緒に居てくれる存在と出会える瞬間を楽しみにしていた。







  ***

「ここがお前の住処か?」
「うん! そうだよ!」
「随分、殺風景な場所だな…」
「そう?」
「こんな場所で、お前は一人で過ごしていたのか?」
「うん!」
「寂しくなかったか?」
「寂しかった!」
「そうだよな。でも、今日からは俺が一緒だ」
「うん! だから、僕はもう寂しくないよね!」
「そうだと良いな」
 

成り行きで辿り着いた場所を目にして、俺は改めて思った。こうなる事は運命だった。求め探していた場所はここだと、強く思う。自分の力を自覚していない幼い竜は無邪気に纏わり付き、可愛い笑顔を振りまく。
他の誰かにこの役目を奪われなくて良かった。心の底から、強く思った。


俺は群れを成さない一匹狼だった。俺は生まれた時から、他の奴らと違っていた。全身、真っ白なのは俺だけ。見た目の違いから受ける扱いに、居心地の悪さを感じた訳じゃない。


いや、違うか。認めたくはなかったけど、特別視されるのが不快で、周りと距離を置くようになった。全身を覆う真っ白な毛は特別な力を持つ証。押し付けられる責任感や集まる期待感から逃げたかったのが正直な気持ちかも知れない。

一人で目的もなく彷徨っていた時。俺は分かり易い罠に掛かった。暇つぶしのつもりで、進路を変えなかっただけ。

結果的に、魔力を持つ兎達から使役扱いされ…戯言に付き合わされていた。特に代わり映えのない急な呼出しに従った時には、こんな未来が待ち受けているとは思わなかった。
俺が求めていたものは…仲間。いや、違う。心から愛を捧げられる存在だったと、今、心底…思う。


「ねえ、ユノ!」
「何だ、チャンミン」
「フワフワのユノになって!」
「は?」
「真っ白い狼の姿! 僕、もっと見たい!」
「人形は駄目なのか?」
「ううん、駄目じゃないよ? でもね、人形のユノは後でしっかり観察する! 先にフワフワなユノに埋まって、ムギュッとしたいの!」
「そうか」


願いを素直に聞き入れようと思うのは、気分の良さが理由だろう。いや。これは惚れた弱みと言えるのか? 既に虜と認めるしかない、キラキラと輝く笑顔を向けられるから、俺は頷く以外の選択肢を持たなかった。


「うわっ! 気持ち良い!!」
「くすぐったい」

人形から狼の姿になってくれたユノの胸元へ、思い切り飛び込んだ。手触りの良い体毛を至る所で感じる。心地良い体温と聞こえる心音。これまでに知る事のなかった感覚に…凄く感動してしまって。気付けば僕は鼻を啜っていた。


「どうした…」
「…ユノ」


どうして涙が出るのか、僕にも分からない。頭を横に振り甘えると、人形になったユノは優しく背中をさすってくれる。


「これからは俺と一緒に楽しい事、一杯、しような」
「…うん」

ユノは優しい声で囁いてくれる。僕は思い切り鼻を吸い上げ、ユノを見て笑った。すると…ユノの顔が近付いてきて…僕の口を塞いだ。何だろう、これは。…これも遊びの一種? 


僕は訳の分からないまま、息を止める。でも、息が出来ないと苦しくなる。頑張ってみたけど、長くは無理。僕は顔を逸らして、ユノの口から逃げた。


「もう、ユノ! 苦しいよ!」
「あ?」
「口を塞ぐなら、先に言ってよ! って言うか、これってどんな遊び?」
「は?」
「息が出来ない時間を我慢して競うの? それなら、やっぱり先に言ってよ! 僕、負けるのは好きじゃない!」
「…チャンミン」

 僕は真面目に言ったのに。ユノは顔を崩して笑う。

「次は僕が勝つからね!」
「チャンミン。これは勝負じゃない」
「え? 違うの?」
「ああ。それに隙間から呼吸も出来るだろ?」
「そう?」
「これは大事な行為だ」
「遊びじゃないの?」
「時には遊びでも良いけど、今は違う」
「ん? それってどう言う事?」
「もう一度、試してみれば分かるかも知れない。今度はゆっくり丁寧にしてみるから、チャンミンは目を閉じてくれ」
「目を閉じれば良いの?」
「ああ、そうだ」

ユノの言う通りに目を閉じる。そしたら、ユノが近付く気配がして…また口を塞がれた。さっきと違って、今は軽く触れているだけ。ユノが言ったように、唇の隙間からちょっと息も出来る。これなら、長くても大丈夫だと僕は笑いたくなった。でも、それは出来ない。
だって、ユノがもっと深く塞いでくるから。

「…ユノ…っ」
「息が出来なくて苦しいか?」
「うん」

ちゃんと言ったのに、ユノは笑うだけ。困っているのに、喜んでいる? そう思ったら、ムッとして…ユノの胸を押そうとした。

「んん」

でも、ユノは僕の行動を分かっていた。突き放せないように、ギュッと抱き締めてくる。


「もう! ユノ!!」
「怒るなよ」
「苦しいって言ったのに!」
「ちょっと待ってくれ、チャンミン。本当に苦しいだけか?」
「え?」
「良く感じてみろよ」
「感じるって、何を?」
「良いから、ジッとしろ」
「んん!」

  
ユノはまた強引に口を塞ぐ。もう止めてって言おうとした。でも、ちょっと待ちたくなったのは…何故だろう。ユノが葉這わすのは…舌?チロチロと唇を舐められて、くすぐったい気がする。

「…っん!」

動いていたユノの舌先が口の中へ入ってくる。僕はびっくりして、突き放そうとした。でもやっぱり、それは出来ない。 

ユノはもっと強く僕を抱き寄せ、口の中を探索する。舌で押し返せば、出て行ってくれる? 挑戦してみたけど、上手く行かない。逃げられず、掴まってしまう。

「…っふ」
「どうだ? 気持ち良くなってきたか?」


やっと離れてくれたけど、僕は直ぐに答えられない。
何だか、ふわふわして、立っていられない。ガクガクするから、バランスを保てなくて、転けそうになった。

「おっと、危ない」
「…んん」
「大丈夫か?」
「…大丈夫じゃない…」
 弱々しい声を出すと、ユノはやっぱり喜ぶ。
「何で、ユノは嬉しいの? 僕はフラフラなのに!」
「俺は気持ち良いからな。嬉しくて、にやけるんだ」
「気持ち良い…?」
「チャンミンの味は格別だ。こんなに相性が良いとは思わなかった」
「え? 僕、美味しいの?」
「ああ。最高だ」
「僕が美味しいから…ユノはもっと食べたくなったの?」
「ああ、そうだ」

ユノの言っている事はよく分からない。でも、ユノの笑顔を見ていると、ムッとした気持ちは消えている。ユノが嬉しいなら、それで良いって思ってしまう。

「美味しいなら、また食べたい?」
「ああ」
「でも、僕は苦しいから…短くして!」
「まだ感じるとこまではいかないのか…」
「それから、いきなりは駄目だからね!」
「どうしてだ?」
「心の準備をしてからじゃないと、色んな所が苦しくなりそうだから!」
「何処が苦しいんだ?」

ユノは抱えた僕を押し倒し、色んな部分に触れてくる。

「今は何処も苦しくない! もしかしたらって、言っただけ!」
「大事なチャンミンを苦しませたくないからな。よく確かめておかないと…」
「ユ、ユノ! 変なとこ、触らないで!」
「変な事はしないから、大人しくしろって」

ユノに触れられると、くすぐったい。暴れて離れようとしていたら、今度は優しく抱き締められた。

「…ユノ?」
「こうしているだけで…落ち着くな」
「え?」
「チャンミンはどうだ?」
「ん?」
「俺にしがみついてみろ。何かを感じないか?」
「うん…」

言われた通りに手を回し、ユノにしがみついてみる。狼の時も気持ち良かったけど…今のユノも温かくて、確かに気持ち良いかも。

「僕も気持ち良い…」
「心の奥が温かくなって…満たされる感覚がないか?」
「うん。今まで空いていた部分が綺麗に埋まって、もうスカスカじゃない!」
「俺もだ」
「え? ユノも?」
「俺もずっとこんな風に、満たされる感覚を求めていた。今、それを感じられて…チャンミンと同じ気持ちになれて、凄く嬉しい」
「僕も嬉しい!!」

ユノも僕と同じ。寂しかったけど、もう寂しくない。それが分かったから、嬉しくなって…僕はもっとギュッとした。


「チャンミン、少し、手加減しろ…」
「あっ! ごめん!」

  
力を入れ過ぎたみたい。ユノが呻くから慌てて力を弱める。


「ごめんね、ユノ」
「いや、良いけど…」
「けど、何?」
「もっと深く、気持ち良くなる方法があるって、知っているか?」
「え? そんな方法があるの?」

至近距離で見つめると、思う事がある。今更なんだけど、ユノはとても綺麗だと思った。ほうっと見とれる僕を見て、表情を和らげるユノは、これまた綺麗に笑う。



「でも、まだ教えるには早いか…」
「え?」
「口付けでさえ、藻掻くなら…この先はもう少し、我慢だろうな」
「それってどう言う事?」

 
ユノの言っている意味が分からない。首を傾げ、聞き返していると、額に唇を押し当てられる。


「まあ、これからの時間の方が長いから。焦る必要もない」 
「教えるって、何を?」
「気持ち良い事だ」
「え! 気持ち良い事!?」


気持ちの良い事なら、早く教えて欲しい。僕はそう言ったのに、ユノは返事をくれない。そのまま、少し休みたいと言ったから。僕は唇を尖らせながらも頷いて、一緒に目蓋を閉じていた。







***


「ユノ! 起きて!!」
「…ん?」
「お腹空いたでしょ? 早くご飯にしよ!」
「ああ…」

大声で呼ばれ、身体を揺らされて目を覚ました。重い目蓋を開け、見えた光景に一瞬、違和感があった。ああ、そうか。

俺は住処を変えたんだ。身体を起こしながら、現実を思い出し、表情を和らげていると、チャンミンが突撃してきた。


「っ!」
「ああ! ごめん、ユノ!」
「…チャンミンは元気だな…」
「うん! ユノとギュッとして眠ったからね! 凄く良く寝られた!」
「そうか…」
「ユノはどれを食べる? 僕の大事なご飯だけど、ユノになら、どれでも分けてあげる!」
「これは…」
「綺麗な実でしょ? この前、遊びに来てくれた精霊さんがくれたの!」
「ああ、確かに綺麗だな」
「あっ! でも綺麗なのはユノの方かな!」
「は?」
「綺麗って言葉はユノの為にあるのかな~」
「何だよ、急に…」
「だって、本当にそう思うんだもん!」

 虹色に輝く実に対しての賛辞が、今は俺に向けられている。そんな褒め方は、正直、くすぐったい。そう思うけど、余りに無邪気な言い方をされ、否定は出来ずに苦笑いをする。

「ユノは綺麗で…優しい!!」
「それはどうだろうな」
「それから、逞しくて、気持ち良い!」
「あはは…」

 褒め言葉は一応、受け取る。

「前置きはその位にして、その実を早く食べろ」
「でも、これは一つしかないよ? ユノが食べて!」
「いや、俺は違うので良い」
「えー! ユノはこれを食べて!」
「だから、良いって」

譲ろうとすればする程、チャンミンの頬は膨らんでいく。


「チャンミンは頑固なんだな」
「ユノもでしょ!」
「なら、こうして食べれば良い」
「んんっ?」

チャンミンの手から奪った実をかじり、身体を引き寄せる。口内へ押し込むと、丸い肩がビクッと跳ねた。それでも構わず、塞いでいると、バシバシと叩かれ、抵抗される。


「もうユノ!! いきなりは駄目って、言ったでしょ!」
「でも、こうすれば一緒に楽しめると思わないか?」
「え? ああ、そうかも…」
「お互い頑固なら、この方法しかないと思わないか?」
「うん…。そうかも!」

本当に納得しているのか、分からない。それでも、返事は聞いた。また実をかじり、チャンミンの口内へと運ぶ。


「んん…」
「この実は甘いな…」
「前に食べた時と、味が違う…」
「そうか」
「これって、ユノが美味しいって事!?」
「は?」
「ユノも僕が美味しいって言ったよね!? だから、これは…ユノが美味しいって事だ!!」

導き出した答えに、満足げなチャンミンは違う実を手にし、ニンマリ笑う。

「次はこれ!」
「これは…大きな実だな」
「その次はこれね!」
「チャンミンは食いしん坊だな」
「だって、ユノは美味しいんだもの!」
「良いか、チャンミン。甘いのはチャンミンの…」
「違う! ユノが甘くて美味しいの!」
 

言い合いが始まれば、直ぐには解決しない気がした。だから、さっと次の行動に移り、楽しい事を優先させる。唇の隙間からの呼吸に慣れてきたのだろうか。チャンミンは然程、苦しむ様子もなく、次の行動を期待している。


「ねえ、ユノ」
「何だ?」 
「こうして、実を食べるだけでも…一人じゃないって、楽しいね!」
「…ああ、そうだな」
「それに甘くて美味しい!」
「ああ、そうだよな」
「僕、ユノがここへ来てくれて、本当に嬉しい!」
「ああ。俺もだ」

華奢な身体を抱え、微笑んでいると、柔らかな風が吹き抜けた。それに反応したチャンミンはハッとして飛び起き、クンクンと辺りの匂いを嗅ぐ。

「どうした?」
「ユノ! 早く、表に行こう!」
「は?」
「この風は良い事を運んで来てくれるの!」
「風が…?」
「ほら、早く早く!」
「あ、ああ…」

無邪気な笑顔で手を掴まれ、催促されるから、仕方ない。食事は一時中断して、洞穴を出た。








   ***

「見て、ユノ!」
「あれは…」

得意げなチャンミンが開けた場所を指差す。そこに見えたのは…真っ白な光景。ここへ来た時には何もなかった気がするが…。見落としていたのだろうかと、記憶を手繰り寄せる間はない。走り出すチャンミンに連れられる。

「時々だけどね、風が運んで来てくれるの! 春には花弁をね。夏には…氷だったかな? 秋には美味しい果実ね」
「それが今は…」
「雪だね! 雪!!」
 

一人だったチャンミンを慰めようと、風が運んで来たのだろうか。それにしても、雪の塊を喜び、突き進むとは…。無邪気さは勿論、大切にしたい。それだけじゃなくて、素直な喜びを分け合いたいと思った。


「うわっ! 冷たい!!」
「でも、気持ち良いな」
「でしょ!」

一人なら、絶対にとらない行動だ。でも、チャンミンと一緒なら、何だってしたい。何だって出来る。冷たい雪の上を転がり、笑い合うと…心は温かくなり、気持ちは満たされる。流石に、雪を食べようと言い出した時は反対した。それ以外の遊びにはトコトン付き合った。




  ***

「ユノ、寒い!」
「だから、言っただろ? 雪を食べるなって」
「だって、綺麗で美味しそうだったんだもん!」
「ほら、来い。温めてやる」
「分かった!」

ユノの言う事を聞かなかったのに。やっぱりユノは優しかった。フワフワの姿になってくれて、フカフカの胸元へ埋めてくれる。フサフサの尻尾まで巻いてくれて…僕はぬくぬくして、ニマニマする。


「ユノの真っ白な毛…。本当に綺麗だね…」
「そうか?」
「うん! さっきの雪も綺麗だったけど。ユノも負けないくらい…綺麗だよ」
「そうか…」

柔らかい毛を撫でながら、僕は何度も同じ事を繰り返した。だって、何度も言いたかったから。ユノに包まれて、嬉しい。

温かくて、心地良くて、僕は幸せ。何度も言わないと、伝わらないと思ったし…。同じ事を口にする度、これは幻じゃなくて現実だって、確認したかったんだ。


「僕、今までに色んなものを貰ったけどね」
「誰に何を貰ったんだ?」
「えーっと、精霊さん達やさっきの風でしょ。それから、遠くにいる仲間達に、先代の守護竜達にも貰ったの。食べ物も貰ったし、力も貰った。遊び道具も貰ったし…」
「そうか」
「でも、僕が一番、嬉しくて幸せで堪らないのは…ユノ!」
「は?」
「僕はユノを貰えた事が一番、嬉しい!」
「俺は物か?」
「ん? 何かおかしい?」
「いや…まあ、良いか」
「僕はユノを大事にするからね!」 
「俺もチャンミンを大事にする」
「真っ白な贈り物のユノは僕の大事なお友達!!」 
「ちょっと待て、チャンミン」
「何?」
「俺は友達じゃないだろ」
「え! 違うの!?」

気分良く叫んでいたら、ユノに否定された。驚いて見上げると、ユノは真剣な顔をして、口を開く。

「俺はチャンミンの旦那になるんだ」
「え? 旦那さん?」
「ああ、そうだ」

僕は友達が出来ると思っていた。でも、ユノは友達じゃなくて、僕の…旦那さん…。


「ねえ、ユノ! 旦那さんって何?」
「チャンミンを一番に愛する相手の事だ」
「愛する…?」
「俺はずっと、誰よりもチャンミンを愛するんだ」
「それって…」
「チャンミンは俺の嫁になれ」
「嫁?」
「これから先も俺と一緒に居たいだろ?」
「うん! 僕はユノと一緒が良い!」
「なら、婚姻は成立だ。俺は旦那でチャンミンは嫁だ」
「ユノは旦那さんで…僕は嫁!」
「他の誰かに会った時はそう自己紹介しろよ?」
「うん! 分かった!!」
 
大きな声で返事をすると、ユノはニッコリ笑ってくれた。それから、直ぐにまた顔を近付けてくる。僕はハッとして、身構えた。息が出来なくなるなら、思い切り、空気を吸い込もう。そう思って、準備したのに。
 
ユノは唇を塞いでくれない。僕は我慢出来なくて、溜めた空気を吐き出してしまった。


「もう! ユノ!」
「何だよ」
「待ってたのに、どうして覆ってくれないの!」
「やっぱり待っていたんだよな?」
「分かっていて、意地悪するの!?」
「いや。これは焦らしだ」
「…じらし?」
「そもそも、チャンミンが先に言ったんだ。勝手に唇を覆うなって。だから、待っただけだろ?」
「ああ…」
「だから、今度は言ってみろ。吸い付いてくれって…」
「僕が言えば、してくれる?」
「ああ。チャンミンの望みなら、何だって叶えてやる」
「なら、ユノ…。僕の唇を覆って…から…吸って!」
「息も出来ない程、濃厚な口付けをしてやる…」
「えっ? 息が出来ないのは困る…っ」



 ユノは優しいけど、ちょっと意地悪。…じゃなくて、これは焦らしってやつ? よく分からないけど、ユノは言った。僕が言った事は何でもしてくれるって。だから、止めてって言えば、離してくれる気がする。

でも、僕は離れたくない。どうしても巻き付きたくなって…ユノに腕を回した。それから、ギュッと力を入れて…もっとって言えない代わりに抱きついた。


「ユノ…」
「分かってる。もっと…だろ?」
「もっと、もっと深くて熱くなりたい」
「少しずつ…時間を掛けて楽しもう…」


ユノは優しいけど、やっぱり意地悪。でも、やっぱり優しくて、頼もしい。

今までずっと一人で寂しかったけど、これから先、僕はユノと一緒。楽しくて気持ち良くて温かい時間を二人で分け合い生きて行くんだ。








                  お終い。