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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

とある二人の話。76

2018-05-03 | 財団関係者
 

 

 

「…ああ、幸せだ」
「それしか言えないのか!同じ事ばかり呟くな!」
「ん?他に何か言えって?ああ、なら…俺はチャンミンが好きだ」
「ふ、ふっ、ふざけるな!!」


彼が放つ余計な一言で、落としてしまったミニトマトを急いで拾い上げる。彼はまだ寝惚けているのだろう。緩みきった顔をして、ゆっくりとしたペースで…僕の用意した朝食を味わっている。


昨夜は平気だったのに、今は平気じゃない。彼が名前を呼ぶ度に、身体が震え、過剰反応をしてしまう。止めろと言っているのに、彼は言う事を聞かない。またビンタをお見舞いしてやろうかと思うのに、そこに至れていない。



「なあ、チャンミン」
「だから、呼ぶなっ!!」
「正式に…俺と付き合ってくれないか?」
「は、はあ!?」


いきなり聞こえた言葉に、上擦った声が洩れた。



「チャンミンがその気になって、応えてくれるまで…待つ気でいる。だけど、傍にいる事は許して欲しい」
「…な」
「仕事上でもそれ以外でも。俺が隣にいる理由を俺にくれないか?」
「…な…」

 
まだ寝惚けているのかと、睨み返そうと思った。だけど、顔を直視出来ない。頬が熱くて…心臓が暴れて、手が震える。

 

「俺の恋人になって欲しい」
「…う」
「頼む」
「…うう」


答える必要はない…と、突き放せない。だけど、はい…と、容易く返事をする程、可愛げがある訳じゃない。仕方なく…と、思わせる必要性があるのか、分からない。でも、まだ…僕は素直とは対極にいたいんだ。

 


「…じょ、条件がある」
「条件?何だ?それは」
「僕の名前…。職場では絶対に呼ぶな」
「職場以外では良いのか?」
「僕が良いと言わない時は…絶対に呼ぶな」
「…でもそれは…」
「それから、勝手に接触するな」
「……」
「それから…」

強気な発言のつもりが…声が弱々しくて、それに動揺する。彼は優しく微笑み、口を開いた。


「分かった。二人きりの時以外に、チャンミンとは呼ばない」
「…っ」
「それから、チャンミンの許しを得てから、チャンミンと呼ぶ」
「……」
「でも、チャンミンは本心を誤魔化して正直にならない時があるだろうから…俺の判断も加味する」
「はあ!?」
「触れ合いはチャンミンから行動するのを待てば良いんだよな?でも、無意識な行動は制御出来ない場合もあるから。その時はビンタで勘弁してくれ」
「な…」

ビンタも悪くないと、彼は笑う。それなら、早速、手のひらでぶってやる。照れ隠しをしようと身構えた。


「返事の代わりに、ビンタでも良いから…反応を返してくれ」


彼は明るい笑い声を洩らし、頬を差し出す。そのまま望み通りに応えるのは癪だと思った僕は…差し出された頬に唇を押し当ててから、居たたまれずにキッチンへと逃走した。

 

 

 

 

 

 

 

信じられない程に嬉しすぎる返事を貰い、俺は拳を握り締め絶叫した。待つと言っても、もう許しを得られたような気持ちになり、チャンミンを追い掛けた。


でも、そこから壮絶な拒否を食らい…まともに顔を合わせて貰えなかった。時間はあれど、逃げられてばかりで、何も出来ない。それでも諦めずに二人の時間を作ろうと努力してみたけど、意味を成さなかった。

 


管理員が戻ってくると、チャンミンは帰ると言った。休暇を取っても構わない。まだゆっくり過ごしても問題ない。そう指示を受けたと言っても聞き入れず、住み慣れた街へ帰る事になった。


その車中でも、チャンミンはいつもより無反応だ。恋人同士になったのだから、もっと踏み込んだ会話をしたいと思っても…華麗に無視をされ、独り言にされる。

 

「今日はこのまま帰るよな?」
「……」
「チャンミンの部屋に行っても良いか?」
「っ!」
「それが駄目なら、俺の部屋に来るとか…」
「……」
「それとも、このままデートするか?」
「……」

 


何を言っても無反応…でもないのか。細かく注視すると、チャンミンはフルフルと震えている。それは怒り…じゃなくて、動揺は理由か?それにしても…突き放し方が悪化していると思うのは気のせいだろうか。

 


「なあ、チャンミン」
「っつ!」
「あの可愛い返事をくれてから…おかしくないか?」


そう言うと、チャンミンはビクッと方を跳ね上げ、まくし立てた。


「あ、あれは気の迷いだ!あんな事、どうしてしたのか、分からない!あんな事、する気はなかったのに!!あんな恥ずかしい事、早く忘れろ!!」
「忘れる訳ないだろ?幸せで大事な思い出だ。柔らかさを思い出しただけで…」
「く、口にするな!!」
「頬に感じた温もりを俺は絶対に忘れない」
「わ、忘れろ!!」

 
耳まで真っ赤に染まるチャンミンはその事をずっと引き摺っていたのか。異変の理由も可愛いだけだ。どうして、こんなに可愛いのだろう。愛しさが込み上がり、染み入る幸福感に顔面が崩壊する。



「チャンミンは本当に可愛いな」
「な、何を言う…」
「何度も言ってるけど、俺はどんな部分も好きだからな。照れて動揺して、誤魔化したくなって…余計に冷たくなる所も。俺は好きだ」
「そ、そんな事…大声で言うな!!」


気分良く、想いを口にし続けた結果。

チャンミンは益々、口を聞いてくれなくなった。