青みかんと準惑星

小ネタ乗せようかと思ってます。
時々二次系の下書き・・・

符合 1

2017-02-26 21:30:01 | 二次系
空はどんよりと黒く垂れ下がり、突然強い雨が降ってきた。
古い団地の自転車置き場トタン屋根が、バチバチと激しい音を立てていた。
道路に当たる雨の音も大きくて、雨の音しか聞こえない状況だった。
鮎子は前方から当たる雨でびしょ濡れになりながら、団地から駅に向かう道を歩いていた。
差している傘は顔から上をかろうじて雨を防御している状況だった。
きちんとピンでとめてひとつに結んだ髪は、背中のほうだけ、濡れている。
「なんでこんな日に…。」
独りごちた。
雨の音で周りには聞こえない。
今から就職試験だというのに、すでにずぶ濡れだ。
家に戻るにしても、すでに15分も歩いている。電車時間を乗り換え含めて計算をして家を出てきたので、戻るにも戻れない。
また、大学に通う際は自転車で向かう道だが、ヒールに傷がつくのが嫌で、今日は歩いて駅に向かっていた。
出掛けに「レインコートを着ていけば」と母に言われたのに「今は夏だし、蒸すから」と取り合わなかった。
出掛けは降り始めで雨もポツポツだった。甘くみていた。
もちろん替えの靴も持たなかった。
足元はぐっしょり濡れていて、靴を脱いで裏返したら、大量の水が零れ落ちそうだった。
足が重い。
雨が靴の中に入り込んだせい、だけではなかった。
こんな格好で試験を受けるのが、躊躇われた。
一次試験が筆記だけとはいえ、試験官などは自分のことを奇異の目でみるだろう。
足取りが重い。
手持ちの金額はお昼代と交通費含めて三千円。
朝、母から、追加で二千円貰った。
就職活動でバイトもままならない。
そこまで裕福ではないので、月の小遣いは一万円と決まっている。
早く試験が決まればよかったのだが、なかなか決まらない。
お金は出ていくばかり。
こんなずぶ濡れの服でもそのまま試験に行くしかなかった。
可能性を捨てる訳には行かなかった。
とりあえず駅に着いたらストッキングとタオルを買おう。昼は二百円くらいですませればなんとかなる。千円は予備にとっておかないと…。
鮎子は重い足をひきずりながら、駅に向かった。


電車を降りて試験会場に着く頃には、雨は止んでいた。
電車に乗っている間に乾いてくれないか、と思ったが、そううまくは行かなかった。

試験会場には20分前に到着した。
会場は雑居ビル四階にあるのレンタル会議スペースだった。一階と二階には画廊が入っている。3階が会議室をレンタルしている会社、鮎子の知らない会社が入っていた。
試験の受付は、会議室入口手前付近に机と椅子が置かれているだけだった。そこに黒のスーツに白いシャツを着た一人の小柄な女性が座っていた。
黒髪のボブで黒ぶちの眼鏡をかけた童顔の女性だった。
鮎子が名前を伝えると、女性は驚いた顔をし、何か言いたそうにしたが、鮎子が視線をそらすと席を立ち、「こちらへどうぞ」と中に案内した。
恥ずかしくて俯きながら、鮎子は後をついていった。試験会場に何人いるのかということなどは全く確認できていない。
「あっ…」
鮎子は椅子をみて席に座るのを躊躇した。
椅子は布地だった。
ずぶ濡ればかり気になって、そこまで気が回らなかった。
「気になりますわよね?」
女性が声をかけた。
「はい。椅子を濡らしたら、申し訳ないです…」
鮎子は消え入りそうな声で女性に言った。
「少し、お待ちになっていただけますか?」
そういうと女性は外に出た。鮎子は後をついていく。女性はどこかに電話をかけ、タオルを頼んでいた。鮎子は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「大丈夫です、申し訳ないです。私は通路でも、何処でも大丈夫です。」
電話をしている女性に話し掛けるが、無視される。
どうしよう…。
おろおろしていると、女性は電話を切って、鮎子のほうを向いた。
「あなた以外にも、同じように濡れたまま試験に来る人がいないとも限りませんから、気になさらないで。」
女性は微笑んだ。
かわいらしい顔立ちだった。まだ二十代前半と言った雰囲気だった。
薄化粧にもかかわらず、大きな瞳と長いまつげで、華やいだ雰囲気があった。
鮎子は一瞬、みとれてしまった。
お人形さん、みたい…。
「何か?」
女性に言われて我に帰り、「なんでもないです」と慌てて答えた。
こんな人がいるんだ、と鮎子は思った。鮎子は切れ長の奥二重で平凡より少し綺麗と言った感じの顔立ちで、パッとした顔立ちではない。そこそこ交際を申し込まれたりするものの、目立つ存在ではない。彼氏はポツポツといたが、長続きはせず、いまはいない。
所作の一つ一つも美しいこの女性は、きっと、素敵な彼がいるんだろうな、と鮎子は思った。
ふと、エレベーターのほうをみると、髪の薄い、俗に言うバーコード頭の六十代くらいのおじさんが、おりてきた。
手にはタオルがたくさん入ったカゴを持っていた。20枚くらいはありそうだった。
女性はおじさんに「ありがとう」と礼をいうとタオルを預かった。
鮎子に三枚ほど、渡した。
「これを椅子の上に敷いてお使いください」
鮎子は恐縮しながら礼を言い、タオルを受け取った。
おじさんがエレベーターのボタンを押して乗り込むのと同時に、エレベーターから一人の青年が降りてきた。
「あら…!」
女性が声をあげる。
青年は鮎子より酷かった。
服が泥だらけだった。
そして、片手に薄汚れた子猫を持っていた。手の平の中に子猫が収まっていた。
「三枝です。三枝翔(かける)です。ゴミ集積所にこの子が捨てられていて、かわいそうだと思って近づいたら、集積所脇の側溝の段差に躓いて転びました。こんな格好で、受験は難しいですか?」
女性は途中から吹き出してコロコロと笑った。我慢できなかった。
「格好以前に、猫を連れての受験はできませんわ。猫はわたくしが預かりますので、まずは顔を洗ってきてくださいな。」
そういって女性はタオルを三枝に渡し、猫を受け取った。そして猫の体ををタオルで包んだ。
「川中鮎子さん、タオルあって良かったでしょ。」
そういうと女性は鮎子に微笑んだ。
同意するように、猫がミャアとないた。
---
かなり途中。。。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
有閑? (くらら)
2017-03-02 18:57:11
これは有閑二次なの?
続きが気になる。
くららさん (りかん)
2017-03-02 23:37:19
へっへっへ・・・

と不気味な笑いを残しておこう♪

コメントを投稿