先月の6月初旬にアサガオ(朝顔)の種子を分けていただいたので、数年ぶりに育ててみることにしました。こちらは行灯仕立ての鉢植えですが、日を追うごとにつるを巻きつけ、青々とした葉を展開させています。
このアサガオの種子は、2003年に新潟県で開催された「大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ」においてアーティストの日比野克彦さんが同県十日町市莇平(あざみひら)の集落の住民の皆さんとアサガオを育てたことから始まった『明後日朝顔プロジェクト』が今春に京都市でも旗揚げし、当ブログ管理人にも声を掛けていただき、分けていただいたものです。
ただ、種子を播いたのが6月に入ってからと少し遅く、その影響があってかどうかわかりませんが、一向に花芽をつける気配がないので短日処理をしてやろうと思い、思い立ったが吉日ということで早速やってみました。では「その処理方法は?」というと、こちらの写真のとおり。
本葉1枚にアルミホイルを巻きつけ、人工的に暗闇をつくるだけです。実際は14時間程度でよいのですが、今回は一昼夜ほど置いてみました。
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当倶楽部のブログをお読みいただいている方の中には「短日処理って、なに?」という方もいらっしゃるかもしれないので、ちょっとお勉強(高校の生物)のようになりますが、少しだけ関連内容を説明いたしますね。
アサガオに限らず植物には『光周性』と呼ばれる、昼や夜の持続時間によって発生現象が制御される反応を示す性質があり、日の長さに対する植物の反応(日長反応)が花芽誘導にも影響を及ぼします。
反応する場所は葉部で、最適な日長を認識すると葉でFT/Hd3a遺伝子の発現が誘導されます。
さらに、花成ホルモン(フロリゲン)であるFT/Hd3aという球状のタンパク質が合成され、師管を通って茎頂まで移動します。ちなみにこの花成ホルモンは、1936年にその存在が予言され2007年に明らかにされた植物ホルモンです。
そして、花を作る遺伝子群の働きを特異的にオンにすることができるタンパク質が茎頂で合成され、これらタンパク質とFT/Hd3aが一緒になって、花を作る遺伝子を働かせるスイッチの一部になることで花芽分化が開始されます。
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なお、花芽誘導の光周性においては、反応の仕方の違いによって以下の3つに大きく分けられます。括弧内に主な植物も記載しておきます。
・短日植物(アサガオ、キクなど)
・長日植物(アブラナ、ホウレンソウなど)
・中性植物(トウモロコシ、トマトなど)
アサガオも含まれる短日植物は『限界日長』と呼ばれる一定期間の明期より昼の時間が短くなると花を咲かせる植物で、逆に限界日長より昼の時間が長くなると花を咲かせるのが長日植物です。
中には花芽誘導に光周性を示さず、日長に関わらず花を咲かせる植物もあり、これが中性植物(中日植物)です。
ただし、花芽誘導における日長反応は、実際は昼(明期)の時間ではなく夜(暗期)の時間の一定期間である『限界暗期』に植物は反応しており、短日植物は限界暗期より夜が長くなると花を咲かせ、逆に長日植物は限界暗期より夜が短くなると花を咲かせます。
たとえば短日植物は限界暗期より夜(暗期)が長くなっている場合でも、暗期が限界暗期より短くなるように一定時間の明期を挟んでやると花を咲かせません。この性質を応用したのが電照菊栽培です。
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ということで、短日植物のアサガオの限界暗期は9時間程度とされていますので、それ以上の時間を夜(暗期)だと感じさせれば、植物生理学的な理論上は花芽誘導のスイッチが入ります。植物全体ではなく葉1枚だけでも効果はあるので、実際にどうなるか試してみようというのも動機のひとつです。
ただ、うっかり育てている株すべてにアルミホイルを巻いてしまったので、巻かなかった場合との違いを比べられなかったことに気づき「しまった」と思いましたが、気づいたときには後の祭り。たかだか2株ずつで有意差のある違いなんかわかるもんかと屁理屈をこねてあきらめました。
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さてさて、8月中旬くらいには花芽が見られるようになっているでしょうか。花芽が見られ、花が咲き始めたら続編を記事にするつもりですが、もしなければ知らないふりしてそっとしておいてください。(笑)
行灯仕立ての他に、つるを交互にあみだくじのように巻きつかせた梯子仕立て(と勝手に命名)で育てています。こちらも咲いてくれるでしょうか?
アサガオの短日処理については夏休みの自由研究にも応用できると思います。機会があれば試されてみてはいかがでしょうか。