宿酔い(以下”宿”) :なあ、草写真よ。
草写真(以下”草”) :はい、なんでしょう?。
宿 :里町のあたりに、銘酒、「不乗森(のらずのもり)」って地の酒があるんだが…。
草 :へえ、そうなんですか。はいはい、ちょうど里町にいますからね。
いいじゃないですか、買っていったら。じゃ私は、この先の里町公園に
行ってますから。
宿 :いや、それがなあ、安城の地の酒でも、「神杉」はまあ、どこでも置いて
あるし、良く飲むし、美味いんだが、この、「不乗森」ってやつは、
看板で見るだけで、実物にはお目にかかったことが無えんだ。
草 :あらら、そうなんですか。
宿 :そうなんだよ。今日はなあ、酒屋とかスーパーとか、コンビニとかを
通っちゃあ、ちらちら見てるんだが、やっぱり無いんだよなあ。
草 :ああ、ふと気付くと妙にいないなあと思ってたら、そんなとこに引っ掛かって
たんですか。
宿 :うーむ。それでだなあ、お前の公園巡りの都合もあろうが、その、
不乗森の神社まで行って、なんか銘酒の手掛かりでもあればと
思ったんだがな。
草 :なるほど、分かりました。じゃ、少し北に足を伸ばして、「不乗森神社」へ
行ってみましょう。
宿 :ほんとか!?。いやあ、ありがたい、恩に着るぜ。
草 :ここからですと、ええと、里町小学校あたりまで北上して、
そこから西へ向かう感じですね。
宿 :うむ、よきにはからえ。
ん?。川があるな。
草 :猿渡川ですね。
里町を歩いていると、何度か渡りますよね。
あれ?、橋の脇になにか、石碑みたいなのがありますねえ。
宿 :”鎌倉街道宮橋跡”、と、あるな。
草 :鎌倉街道というと、あの、”いざ鎌倉”の?。
宿 :だろうな。
草 :盆栽を火にくべるという?。
宿 :それは、街道とは直接の関わりではないが…。
草 :へえー、こんなところに、そんな有名な道が通っていたんですねえ。
宿 :有名といえば、東海道も通ってるんだがな。
草 :そうですよねえ、なんというか、古来から交通の要衝だったんですかねえ、
安城市って…。
宿 :そうかもしれんな。
草 :”里村三景”とも、ありますよ、この碑文には。
宿 :”宮橋”、”不乗森”、”花の瀧”。と、あるな。
草 :鎌倉街道っていうと、800年くらいは前ですよねえ、そんなころからの
景勝地なんですねえ…。
宿 :まあ、今はあくまで、「跡地」だが…。
草 :どんな風景だったんでしょうね。
宿 :さあなあ、知る術もないが…。
草 :”不乗森”は、きっと今の「不乗森神社」のことですよね!。
さあ、西へ行きましょう。
宿 :看板が見えるぜ。
草 :近づいてきましたね、おや?、石碑がまたありますよ。
草 :”須恵器出土跡”、と、あります。須恵器というのは…。
宿 :古墳時代や平安時代初期とかまで使われてた、陶器の一種だ。
さすがに街道沿いだけあって、人も群れ住んでいたんだろうな。
草 :あ、ここにも石碑があります。
宿 :縄文時代の遺跡があったのか、石鏃が出土したとある。
ううむ、街道があるから人がいたのではなくて、
人が群れ住んでいるところに、道を通したのかもしれんなあ…。
草 :あれは…、
宿 :今はなき、J-PHONEの基地局だな。
いつのまにか、vodafoneになったなあと思ったら、
今はSoftBankだよ。
俺はただ携帯電話を持ってるだけなのに、
キャリアの方が勝手に変わっていきやがる。
草 :遺跡といえば、遺跡ですかね(笑)。
宿 :まあな(笑)。
草 :今度は石碑じゃなくて、看板がありますね。
”安城市教育委員会”とあります。
宿 :この道が、鎌倉街道の跡らしいな。
草 :そう記されてますねえ。
草 :写真の右手が不乗森神社の杜になります。
ここを通るときには馬上が許されず、馬上の者も馬を下りて通ったことから、
「不乗森」という。と、書いてあります。
宿 :ほお、なかなかの由緒なんだな。
草 :でも、そうすると、鎌倉街道が通る前は、何という神社だったんですかね?。
宿 :お前ねえ、そういうことを言うもんじゃないよ。
草 :そ、そうですかね?。
宿 :現代人のやらしさだと、思うぜ、うん。
草 :は、はあ…。
さて、「里町三景」の、あとひとつ、「花の瀧」はどこなんでしょうね。
宿 :さっきの石碑には、”菖蒲池”とあったな。
草 :ええと、じゃあ、地図を頼りにすると、もう少し西ですね。
宿 :田んぼの中だな…。
草 :その分、見通しが利きますよ。あ、あそこに何かありますね。
草 :「花の瀧」跡地とあります。石碑に、由緒書きもあります。
宿 :瀧のたの字も窺えないなあ。
草 :そうですねえ。
宿 :まあ、明治用水ができるまでは原野だったらしいから、
丘陵や滝もあったんだろうな。
草 :開墾を続けて、今みたいな田園風景になったということなんですかねえ。
宿 :うむ。そういう意味では、瀧のたの字も無いのは、尊い風景なのかもしれん。
草 :そうですね。そう思えば、感慨がありますねえ。
この説明だと、知立市八橋から、安城市の里町を通って山崎町、
そして、岡崎の西矢作まで、鎌倉街道は追跡できるみたいです。
うーん、これは、いつか歩いてみたいですねえ…。
宿 :番外編か?。
草 :そうですね!。歩くことができたら、番外編で紹介したいですね!!。
……。さて、駆け足ですが、「里町三景」を歩きましたね、思わぬ
収穫でした。では…、時間も時間ですし、帰路に入りましょうか?。
宿 :ん?!。おいおい、待て待て、酒は?、神社は?、銘酒、「不乗森」は!?。
草 :ああ、そうでした、そうでした。
んー、でも、酒屋さんなんて、見ませんでしたけどねえ。
宿 :まあな、俺も半ば以上はあきらめてるんだが…。
まあ、でも、神社くらい行ってみないか?。
草 :そうですね、では、不乗森神社へ向かいましょう。
草 :「不乗森神社」です。
宿 :”伯爵 東郷平八郎 謹書” とあるな。
さすが由緒ある神社だな。
草 :東郷元帥ですね!。あの、肉じゃが誕生のきっかけとなった…。
宿 :なんでそのエピソードなんだよ!。
あるだろ、連合艦隊とか!、バルチック艦隊とか!、日本海海戦とか!!…。
草 :中に入ってみましょうか。
宿 :静かだな。
草 :本当ですね。砂利を踏む音だけが響きます。
あ、本殿の脇には、御幣をもった猿の像がありますね。
宿 :いわゆる、”見ざる、言わざる、聞かざる”の三猿の像もあるな。
草 :猿が、ここの神様の使いなんですかね?。
宿 :まあ、昔は猿が多くて、さぞかし悪さをしたのかもしれんな。
ところでお前、写真撮らないの?。
草 :いやあ、こういう神社仏閣の中って、勝手に撮っていいんですかね?。
できれば許可を得てからにしたいんですが…。
社務所に誰もいないみたいで……。
宿 :悩ましいところだな…。
草 :まあ、では、神社のイメージを…、
宿 :なるほど(笑)。
草 :日が暮れてきましたね。
どうします?、銘酒、「不乗森」の手掛かりはつかめてませんが…。
宿 :まあ、しょうがねえや。
ちょっと、そのへんの居酒屋ででも一杯やって、帰るとするか。
お前も、たまには良いだろ?。
草 :ええ、良いですよ。ああ、でも、私、手持ちはあんまり無いですよ。
千円ぽっきりです。
宿 :そうなの?。
草 :そうですよ。歩けなくなったときの電車賃くらいしか、
普段持ち歩かないものでして…。
宿 :うーん、そうか、俺は小銭ばかりで、そうさな、六百円くらいか…。
うん…、まあ、ワンカップの二本も買って、飲みながら帰るか…。
草 :人の懐を当てにしないで下さいよ…。
じゃあ、帰りましょう。もう少しいけば、コンビニがありますよ。
宿 :うーむ。
天気晴朗なれども、酒高し、か…。