K.H 24

好きな事を綴ります

短編小説集 GuWa

2021-07-14 22:58:00 | 小説
第壱話.岩
 
 僕はいい過ぎたみたいだ。思うがままに喋りまくって、相手の気持ちも考えずに。それを讃えてくれる人々がいたからだ。
 
 釈迦と呼ばれたゴーダマ・シッダー・ルタは悟りを開き、五人の弟子を育てた。そして、孫弟子、玄孫弟子とその悟りは世界中に広がり、多くの人々へ認められた。しかしながら、人は集まり過ぎると、異変が起こってしまう。それは恐らく、言葉だけでは頭の中にある思考が表現できないし、発せられた言葉をその人の頭の中と完全に一致させて耳で聴き取ることができないからだ。言い換えると、世界に広がった釈迦の悟りは、釈迦自身がその人々に語り見せてないからだ。
 多くの派閥が必然と生まれる。互いに認め合う人々はいるものの、思考の違いで争う人々もいた。延いては、その悟りで詐欺を謀ったり、人を殺めたりと、犯罪を犯す人々も現れた。勿論、釈迦に責任を負わす人々はいなかったが、そうやって悟りを広めようとする人々は色眼鏡を通して見られる場合も少なくはなかった。
 
 一方僕は、今の世でゴーダマ・シッダー・ルタが誕生したといわれる〝花祭り〟の日が誕生日だ。物心ついた時には、〝僕は釈迦の生まれ代わりだ〟そういい始めていた。
 多くの人々のために語り、穏やかに、素直に受け入れて恩恵を受けた人々がいたが、論破してくる人々や僕を利用して私利私欲だけを満たそうとする人々もいた。
 大人になりかけた時、僕は僕自身の時を止めて後ろを向かざるを得ない事態を招いてしまった。
 先ず、論破してくる人々と戦った。勝ち負けは着かない。それぞれが正義だからだ。心を痛めた。正義がそんなに多い物だと知らなかった。
 次いで、僕を利用した人々と戦おうとした。すると、その人々は、潮が干くように後退りし、蛤やあさりみたいに口を開かなくなった。冷たい恐怖を覚えた。
 結果、動けなくなった。広い海岸の遠浅の浜にある潮が満ちると半分は潮水に浸る岩のように。そう、岩になってしまった。そこにあるが、姿形は一斎変えず、東から日が上り西へ沈む光の変化が、影をつくり色を変えてくれた。強い、若しくは、爽やかな風が寒暖を伝えてくれた。
 全く予想できずに岩になった。これでいい、通りすがりの人々の視野に入るが気に留められず、ほんの少しだけ感心を持たれることがあった。何も影響を与えず、与えられず。憎まず、憎まれず。ほんの少しだけ〝景色〟という愛情を感じてもらえる岩になれたのだ。
 
 岩でいよう、これからも。




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