K.H 24

好きな事を綴ります

短編小説集 GuWa

2021-07-17 00:57:00 | 小説
第弍話.良し悪し
 
 ここ、心霊スポットである墓地公園は、毎年夏になるとやんちゃな若者たちが肝試しに訪れる。しかしながら、誰一人と心霊現象を体験した者はいない。

 その公園の駐車場は乗用車が20台停められるスペースで、そこから墓地へ向かう小径は100mほど距離があり、足を取られない程度の砂利道が伸びている。
 また、その小径には墓地との中間地点に直径10mの池があり、縁に35mmの高い丈の芝生が茂っている。浮き草が点在し、錦鯉が行き交う来園者を静観している。
 その池は外来種であるミシシッピーアカミミガメやナイルテラピア、オオクチバス、ブルーギル等が繁殖しないように定期的に管理会社に整備されている。また、その傍には柳の木が涼しさを与えている。
 更には、墓地とは反対方向に鯉の池を挟んで、二階建てで、池を見渡せるベランダが設けられている管理事務所がぽつんと温かみを添えている。昼間は来園する者にとって、墓地側から見るそれは癒しの空間になっている。
 しかし、西の水平線に日が沈むと、柳の木の下や池の中央、事務所のベランダは、物の怪(もののけ)が浮遊するかの雰囲気を漂わす。不自然に人工的な自然であるからであろう。時間を持て余す若者たちは刺激を求めてしまうのだ。
 
「ネタ合わせここでしようや。」
「そうだな。ここなら人目につかないし、思い切って練習できるな。」
 お笑い芸人の養成校を卒業したばかりの小柄な大島雄介(おおしまゆうすけ)と太った島山光弘(しまやまみつひろ)の二人が、島山の彼女が運転する自家用車で連れられ、お笑い新人コンテストで披露する漫才を練習しに墓地公園へきた。
「どうもう、爆笑二島(ばくしょうふたじま)ですぅ。」
 ツッコミの大島から一声を発した。
「いやいや、こいつはこんなに背が低いくせに大島って名前なんですよ。僕はこんなにデブなのに島山なんです。」
 島山が自虐的にボケた。
「何いってんだよ、お前はデブだから山は合ってるんだよ。」
 大島はツッコミを入れた。
 島山の彼女はその二人を見て、クスッと笑った。同時に、柳の木のてっぺん辺りがカサカサし、池の中央がペチャペチャし、事務所のベランダの手すりがカタカタと笑い声のように音を立てた。
「ウケた。みっちゃん。」
 島山が珍しく笑みを漏らした彼女に声をかけた。
 
 島山の彼女は、肩の高さで内側に肘を曲げ、交差する両腕に顎を乗せてニコニコ笑う真っ青な肌色で長い黒髪の女性が、柳の木の上と池の中央、ベランダの手すりの上に浮かんでいるのを目にし、口が塞がらないでいた。
「みっちゃん、大丈夫、顎外れたの。」
 大島が声をかけると、再び、その三箇所は音を立てた。笑うようなリズムで。みっちゃんは気を失った。
 
 後日、爆笑二島は新人コンテストで優勝した。




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