K.H 24

好きな事を綴ります

短編小説集 GuWa

2021-09-19 17:57:00 | 小説
第什伍話 囚
 
「ウイルスってさぁ、自分で繁殖できないだよ、感染の第一波とか第二波なんて表現のしかたおかしくねぇか」
「えっ、あぁ、人流が増えれば感染者は増えるに決まってるからね。その〝波〟の表現なんて、ウイルスが力をつけて襲いかかってくる感じよね、然も、ウイルス自体が襲いかかってきてるみたいに聞こえるね」
 生物学の博士課程に所属してる二人の大学院生の会話が始まった。
「そもそも、病原性を持つウイルスが出てくるのも、動物が気がつかないうちに身体に取り込んで変異してきた結果だよね、恐らく」
「私もそう思う、最初っから病原性をもった菌だってさぁ、例えば、口に入れるものに感染する場合は、食べ物に菌が住み着きやすい環境を作ってしまった人間に問題があるんだからね、私、牛刺しとレバ刺し大好きだったのに、この国は直ぐ販売停止にしちゃうから、正しく扱えばいいだけなんだけどね」
「へぇ、アズミは生肉好きだったんだ、馬のレバーなら刺身で食えるよ」
「うん、知ってるよ、美味しいよ馬のレバ刺しも、タケルもレバ刺し好きなの」
「内臓系は大好きさ」
 アズミとタケルは食の好みの話題まで話が盛り上がってきた。
「それにしても、感染症はさぁ、人間の管理次第では防げる確率が高いと思うんだ、例えば、今、地上に存在するウイルスを培養して、どんなメカニズムで増殖するか、どう変異するのか解明したらいいんだよ」
「でも、in vivo でやらないと、マウス、ラット、批判出そうだよ」
「いや、今だからそこを跳ね除けてやんないとさぁ、確かに動物愛護の誠心は大切だよ、人類が考える、分かろうとする方向性に思考のベクトルを変えないとさぁ」
「なるほどねぇ、色々と任せっきりで他力本願でいると、成長なくして進歩はあり得ない、か」
「その通り、難しくても足並み揃えてさ、確かに、理解度に個人差は生ませると思うけど、分かる人が丁寧に教える、分からない人は理解するように励む、そんな構図を作らないとね」
 タケルとアズミの真剣さはいつになく熱盛りとなった。
「そうだ、高校の同級生が○○医大の感染症学教室の医局員だった、そいつにこの話持ちかけようか」
 タケルは高揚した情動の勢いに任せてそういった。
 
「なるほどね、俺らもさぁ、そこまで考えてないわけはないんだ、問題なのは教授会で倫理的に認められるかなんだよ」
 数日後、タケルとアズミは○○医大に足を運んでた。
「そうなんですね、動物実験の規定が厳しくなっているですね」
「そうなんですよ、ips 細胞が実用化されるようになって、それを活用するのが推奨されてきて、一気に動物愛護団体との関係性をなくそうって動き出しているんだよ、うちらの界隈では何かとネックになる、揉め事になる団体だからね」
 タケルの同級生のワタルは厄介事を持ち込んで欲しくなさそうな渋い顔を見せた。
「でもさぁ、ウイルスの増殖や変異株が現れるメカニズムが解明できたらウイルスの脅威は消え失せるのは真理だろ、ワタル達には研究して欲しいなぁ、分かった、俺が検体になるよ、俺の身体を使ってくれよ」
「何いってんだよ、それこそ教授に即、脚下だよ、教授会にも事案としてもあげられないよ」
 
 数年後、タケルの死亡広告が新聞に掲載された。〝病気療養中にて急性心不全のため旅立たれました〟という、文句が添えられて。タケルは自分自身の正義感に囚われたのかもしれない。
 
 この世界からウイルスによる感染症は消滅した。人間は勿論、ペットの小鳥や犬、猫、養鶏、養豚、酪農、肉牛達が罹患することもなくなった。
 それは、新感染症予防法案、タケル法案という名の法律ができたからだ。
 
 しかし、アズミとワタルは一生を塀の中で暮らすことになってしまった。

 終
 
 あとがき
 
 コロナ禍の中、このような乱暴な物語を綴ったことで、不快に思う方もいらっしゃると思います。心よりお詫び申し上げます。

 しかしながら、現時点で唱われている感染予防対策は正しいと捉えております。また、とても重要なことは人流を抑えることと考えます。ですから、まだまだ、不必要な外出は避けた方がいいという私見を持っております。
 
 パンデミック以前の世界に戻ることはないと思いますが、〝私だけなら大丈夫〟と、考えてしまうことが少なくなればと願い、コロナ禍の終息を祈念します。



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