K.H 24

好きな事を綴ります

僕は何人もいる。みんなは独りなんだ。1-⑦

2019-12-20 11:20:00 | 小説
⑦カミングアウト。
 蒼一郎と森川組を撃退した後、組長室の外に居た組員2人は、頸髄損傷で四肢麻痺。大脳辺縁系を構成する海馬と扁桃体にも損傷があり、記憶障害もみられ、日中の2、3時間は介助されて車椅子で過ごす程度の状態。
 組長は、前頭葉を広範囲に挫傷し、自発的に行動が取れなくなり、言葉やその場の状況を理解する機能、道具を使う事も支離滅裂で、感情表現すら出来なくなった。
 一方、蒼一郎は、チタン棒の衝撃で脳に剪断力が加わり、びまん性軸索損傷を負い、植物状態となった。
 そうして、僕ら4人の共通する不安は無くなり、これまで通りの生活を送ってた。
「ねぇ、二郎君。看護師免許と助産師免許、いっぺんに取っちゃった方がいいかなぁ。」
 僕に梅木は相談してきた。
「色々経験してって考えるなら、看護師免許取って、看護業務を積んで助産師でも、ん、いっぺんに取った方がいいかな、助産師は看護師免許が必須だよね、いっぺんに取っちゃえば、卒業した後は、どっちでも働けるよ。」
 僕は答えた。
 「でもさぁ、いっぺんに取ろうとすると、両方不合格なんてリスクも高まるよね。」
 梅木は言った。
「そうだろうね。でも、翔子ちゃんなら出来るよ。」
 僕は言った。
「分かった、いっぺんに取る。」
 梅木は右手で拳を掲げそう言った。
 この頃から梅木は所属事務所にテレビ出演の仕事を現状から3割程度に減らして欲しいと嘆願してた。
 そうすると、必然的に僕と一緒に居る時間が増える。遊ぶため、SEXの回数を増やすため、しかしながら、相対的にそれらが増えてもおかしな話では無い。一緒に勉強する時間も増えるのだ。
 2人が目指してる道は、職種は違えど同じ医療界である。僕と梅木には、学力に大きな差がある。それは、僕が5人だったのが佐助が増えたから6人な訳で、これまで以上に差が開いた。
  歌音は、梅木の負けず嫌い、それを背負って、ストイックに努力できる事、そんな時は感情的になりやすい事、全て把握してる。長所でもあり短所でもある。そして、梅木が、更に開いた学力差を受け入れて、冷静に私達と勉強していけるのか、歌音は懸念している。いよいよ、梅木に我々モンスター6人衆プラスアルファをカミングアウトする時期に来たかな、とも考える歌音であった。
 みんなで検討する事にした。
 〝二郎、梅木とのお付き合い、続けられなくなるかも。〟
 歌音は僕に言った。
 〝えっ、どうして?〟
 僕は聞き返した。
 〝学力差が開き過ぎたでしょ。翔子ちゃん、焦っちゃって、落ち込んじゃうかも。国家資格だから人生を左右する事だから、距離を取りたくなるんじゃないかなぁ。〟
 歌音が言った。
 〝私もそう思う。勉強する時、自分が苦手な部分が得意な人とか、少しだけ自分より劣る人とか、グループでやった方がいいの。分からない事は聞きやす、分からない人に教え易いって環境だと、試験点数を伸ばし易くなるわ。〟
 アヤナミが言った。
 〝二人の言う事は分かる。それこそ、今、アヤナミが言った事を先に教えてあげたらいいんじゃないかな。〟
 一文字さんは言った。
 〝佐助、お前、走るだけの時期が来るかもな。〟
 シンジ君は言った。
 〝えぇ、寂しいなぁ。あの感触は手放したくない。でも、他のも試してみたい。〟
 佐助は答えた。
 〝やめなさい、佐助。〟
 アヤナミが言った。
 〝とりあえず、みんなの意見を参考に様子見るよ。マイノリティーは辛いなぁ。こんな僕でも他人の事をここまで考えるなんて、信じられないけど、これが現実か。〟
 僕は言った。そして、覚悟が出来た。
「激盛り親子丼お願いします。」
 満腹亭の食事券がまだあるから、チャレンジじゃないけど、食事行こうと梅木に誘われた。
「じゃあ、僕は、分厚い牛カツ重お願います。」
 店員の久蘭々に注文した。
「翔子ちゃん、食事券、後どれくらいあるの?」
 僕は梅木に聞いた。
「後、3,000円かな。もう一度はタダ飯よ。」
 梅木は言った。
「総額、どれくらい稼いだの?」
 僕は、また、聞いた。
「チャレンジメニュー全部制覇したから、25,000円分かな、満腹亭ではね。後、2軒分は、30,000だな。」
 梅木は答えた。
「凄い、流石女王だ。」
 そんな大食い話しをしてると、料理が運ばれて来た。今日は、チャレンジじゃないから味わって食べた。
「やっぱり親子丼、旨いなぁ。卵のトロふわがなんとも言えません。」
 梅木は言った。
「この牛カツ、暑さが3cmだって。柔らかいよ。味がしっかりしてる。」
 僕は言った。
「オリジナルのタレに漬け込んでるみたいよ。店長、絶対教えてくれないのよ。久蘭々ちゃんも分からないみたい。」
 梅木が言った。
「拘ってるだ。」
 僕は言った。
 なかなか、勉強の話しが出来ずにいると、歌音と代わった。
「翔子ちゃん、国家資格対策はいつから始めるの?」
 歌音は躊躇せず聞いた。
「来月から臨床実習だから、それが終わってからかな。どうしたの、気にしてくれてるの?」
 梅木は口の中を空にして言った。
「そりゃ、両方いっぺんにって言った手前、気にするさ。で、対策って具体的にはどうするの?」
 歌音は聞いた。
「グループ学習よ。5人かな。だいたい、定期試験の点数が近い人と、少し上の子、少し下の子でグループ作るの。一応、範囲が広いからね。耳学問も効果あるし。」
 梅木は答えた。
「しっかりしてるな、翔子ちゃん。昨日、考えてたんだ。今、言ったような対策方法を。」
 僕は歌音と代わり、そう言った。
「流石医学科ね。二郎君はどうするの。やっぱりグループ学習?」
 梅木は言った。
「僕は独りだよ。もう、去年からの五年分の過去問は解いたよ全て8割は取れた。」
 僕は答えた。
「えっ、バケモノ的。」
 梅木は言った。
「翔子ちゃんに言われるのか。ショック。翔子ちゃんも爆食いバケモノだ。」
 僕は言った。
「何だと、冷めたら不味くなるぞ。早く食べろ。」
 梅木が言った。
「ハハハ、怒った、怒ったの?」
 僕は笑った。
「ハハハ、ハハハ。」
 梅木も笑った。
 一旦、会話は止み、食に走った。僕が注文した牛カツ重は、よく旅館に茶器を納めてる円柱状の和柄の容器で、牛カツが分厚いのに加え、2層になってた。要するに、1番上に牛カツが乗ってて、次にご飯、その下に牛カツ、ご飯となっていた。僕はそうなってるのが分からず、ご飯を食べ進めると、ザクっと音がして気がついた。流石にこれは食べれないと判断し、梅木にお願いした。
「翔子ちゃん、食べきれなかったらお願いしていいか。」
 僕は言った。
「うん、いいよ。でも、お持ち帰りも出来るよ。」
 梅木は言った。
 しかしながら、味は抜群で、残してしまって、廃棄されると申し訳ないと思ってたから、お持ち帰りはありがたい。
 梅木は親子丼を美味しく食べ尽くして、牛カツ重の残りはお持ち帰りにした。
 2人で自然な流れでコンビニに寄り、1ℓの炭酸水を2本買った。僕が左手でそれを持ち、梅木がお持ち帰りの折詰を右手で持って、お互い空いた手を繋ぎ歩いた。
「親子丼、濃い目の味だった、さっぱりしたくなったか?」
 僕は左手に持った炭酸水を持ち上げて梅木に言った。
「いや、親子丼、お出汁が効いてて、あっさりだけどコクもあって、美味しかったよ。こないだの撮影の後に、ウイスキーもらったの、ハイボール良いなぁって思って。二郎君がカツだったから丁度いいでしょ。」
 梅木は言った。
「流石だ、ただの大食いじゃないな、翔子ちゃんは。」
 僕は言った。すっかり日は沈み、外灯の光りが足下を照らしてくれるも、満腹感も相まって、いつもよりゆっくりした足取りになった。言葉少なに。
「私、シャワー入るね。これよ、もらったウイスキー。呑んでていいよ。」
 梅木の部屋に着き、リビングのソファーの前のテーブルにあるジンビームの側に荷物を置き、梅木は言った。
「うん、分かった。」
 僕はそう言い、テレビをつけて、冷凍庫から氷を取り、グラスを2つ用意して、ソファーに腰掛けた。急遽、頭の中で検討会が始まった。
 〝この後、カミングアウトして良いんじゃないかな。〟
 歌音は言った。
 〝私は賛成。〟
 アヤナミは即答した。
 〝翔子ちゃん、2つの国家試験、いっぺんに通るよ。そんな気がする。〟
 シンジ君は言った。
 〝もう1回くらいは、抱きたいな。〟
 佐助は言った。
 〝おいおい、佐助、二郎はまだ若いんだから、そんな機会は直ぐ来るさ。ほんとに色欲ばかりだな。カミングアウトは賛成。〟
 一文字さんは、言った。
 〝分かった。じゃあ、僕も翔子ちゃんの後にシャワー借りて、ハイボール呑みながら、タイミング測ってよ歌音。〟
 僕は言った。
 〝大丈夫よ、任せて。翔子ちゃんと出会ってそろそろ一年が経とうとするでしょ。お互い、良い時期だと思う、どっちに転んでも。〟
 歌音は言った。
 そして、梅木がシャワーから上がり、僕もシャワーで汗を流して来て、2人でハイボールを呑み始めた。梅木は既に3杯目だった。
「さっぱりするよ、ハイボール。どうぞ二郎君。」
 梅木が僕のも作ってくれた。
「ありがとう、うん、旨い。」
 僕は、グラスの半分近く呑んでそう言った。
 梅木はテレビを見ながら呑んでいた。僕はドライヤーで髪を乾かして、残りのハイボールを一気に呑み、新しく2杯目を作った。いつカミングアウトするのか、緊張し、また、半分呑んだ。
「翔子ちゃん、そろそろいいかしら。」
 突然、歌音は僕と代わり、歌音のまま、梅木に話し出した。
「はい、歌音さん。大丈夫ですよ。」
 梅木は言った。
  「初めまして二郎君、私はユキです。宜しくね。驚いた?」
 梅木(?)が言った。
「はい、二郎代わるよ。」
 歌音が僕に言った。頭の中では、みんながコソコソ笑ってた。
「えっ、あっ、えぇぇ、ユキさん、で、すか?えっ、えぇぇ?」
 僕は混乱した。
「やっぱり、まだ、気づいてなかったんだ。アハハ、アハハ、私は杏です。中2の女の子でーす。」
 梅木(?)は表情、声色が変わってそう言った。
 〝大丈夫か、二郎、そう言う事なんだよ。翔子ちゃんも、俺たちと一緒だったんだ。俺も驚いたよ。それにしても、類は友を呼ぶんだな。〟
 一文字さんが言った。
 僕の周りの空気だけが止まった気がした。僕は、懸命に気持ちを落ち着かせた。府に落ちないような、嬉しいような、自分の全てを知ったのかどうか不安感も浮かんだ。
「翔子は、いつ気がついたの?」
 僕は暗い声で聞いた。
「二郎君のお兄さんの事件の後、ユキが教えてくれた。あの時は、怖いのと、二郎君の事が心配な気持ちに潰されてしまいそうになったから。」
 翔子がそこまで話すと、ユキと入れ代わった。
「私が判断したの、あの時、翔子をそのままにしてたら、閉じこもってしまいそうだったからね。そして、歌音ちゃん、一文字君にそれを伝えたわ。」
 ユキがそう言うと、翔子に代わった。
「ごめんなさい、二郎君。私達は治療して、今の3人に落ち着いた。ユキと杏と私とね。1時期は20人まで分離した。もう、あの頃に戻りたくないわ。」
 翔子は言った。
「いやぁ、参った。頑張る、この状況を受け入れるために。翔子ちゃん、僕の事、どこまで知ったの?」
 僕は言った。
「うん、歌音さんが二郎君をいちばんに支えて、一文字さんはインテリジェンスが高くて、シンジ君は武闘派、アヤナミは戦略家、佐助は性欲の塊って聞いてる。」
 翔子は言った。
「佐助、いやらしいわ。エッチよねぇ。」
 杏が代わってそう言った。
「みんなの事、知ったんだ。翔子ちゃん、少し頭の中で相談したい事があるから、待っててね。」
 僕は言った。
 〝みんな、自己紹介みたいな事したの?僕達が何故こうなったか、経緯も話したの?〟
 僕はみんなに聞いた。
 〝私が話すね。経緯までは話してないよ。あの襲撃の件は簡単に話したわ。どうやって仕留めたかはね。〟
 歌音が言った。
 〝だから、翔子ちゃんは俺を武闘派なんて言うだ。俺は気に入ってる、そんな呼ばれ方。〟
 シンジ君は言った。
 〝二郎、何か引っ掛かる事があるのか?〟
 一文字さんは言った。
 〝予測つくけど、それは解決したほうがいいわ。〟
 アヤナミは言った。
 〝うん、逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。〟
 シンジ君は言った。
 〝走らねえよ。二郎。〟
 佐助は言った。
 〝僕が、母親と父親を殺した事。それも伝えたいんだ、聞いてもらいたいんだ。みんな、知ってたでしょ。〟
 僕は言った。
 〝ああ、分かってた。じゃあ、きちんと二郎が翔子ちゃん達に、自分の言葉で話さないとな。〟
 シンジ君は言った。
 〝二郎、任せた。素直に自分の言葉で伝えなさい。気が済むように。〟
 歌音は言った。
 僕らはトランス状態に陥ってて、白眼を剥いたり、身体が不規則に揺れたりしてた。それが止まり、翔子に目を合わせた。
「翔子ちゃん、ユキさん、杏ちゃん、聞いてくれるかな。僕らがこんな状態になった経緯で隠してた事を。」
 僕は言った。
「うん、心して聞くわ。」
 翔子は言った。
「前に話したんだけど、僕が施設に入るきっかけが、母親の不倫相手の自殺、母親の後追い自殺が、僕が虐待されてたのが明らかになってって言ったんだけど、虐待されてたのは事実。でも、両親の自殺は嘘。僕が2人を殺したんだ。自殺に見せかけね。9歳の時だ。親を親だと思えなかったけど、殺したのは、後悔してる。だから、みんなと話して、人を殺すのは止めるって誓ったけど。だから、兄貴や森川組の連中の命は奪わなかった。」
 僕は言った。
「二郎君は、これからも人の命までは奪わないわ。私は信じる。私も信じる。うん、私も。」
 翔子、ユキ、杏の順に言った。
「9歳の時の事、二郎君はこれで整理出来たと思う。私達だから話せた事だと思う。蟠りが少しは溶けたかな。それで良いと思う。」
 翔子は、翔子自身の言葉でそうつけ加えて言った。
「うん、翔子ちゃんにも誓う。誰の命も奪わない事を。」
 僕は、命の大切さを再確認する事になった。
「実際には、俺が殺したのに二郎は俺を責めたりしないんだ。人間性のポテンシャルは高いんだと思う。でも、血縁関係者からあんな酷い虐めを受けたんだ。崩壊してもおかしくなかった。二郎を誇りに思うよ。」
 シンジ君が代わって、翔子たちに言った。
「シンジ君ありがとう。君がそんな事言ってくれるなんて、驚いた。」
 二郎は直ぐに代わって言った。
「そうなんだ。二郎君、苦しかったろうに。耐えたね。凄い。」
 翔子は言った。
「翔子は、お母さんのお腹の中にいる頃から虐待されててね。父親が母親にDVしてたの、殴られたり、レイプされたりで、翔子ちゃんを身籠った事が分かった直後は、少し治ったんだけどね。体型が変わって来るとまた始まった。臨月に入るとお腹殴られてた。だから、生まれる前から父親は怖かったのよ。だから、翔子が物心ついたら私は既に居てね。他にも沢山居たわ。思い出したくないね、翔子。うん、終わった事よ、もう。ユキには色々助けてもらった。大丈夫だよ。」
 ユキが翔子の経緯を話し、翔子はその苦しみを乗り越えたのを、落ち着いた表情で言った。
「二郎君、疲れたかしら?お互い、秘密を話す事が出来たね。今日は、これくらいでいいんじゃないかしら、ハイボール呑みましょ。」
 ユキと翔子が同時に話した。2人の声が重なるのが分かった。
「今の何?いっぺんにに2人で喋った?驚かしてくれるねぇ。資格試験も2ついっぺんに取れそうだ。」
 僕は言った。
「頑張らなきゃね。」
 翔子は言った。
 その後、満腹亭からお持ち帰りにした牛カツ重の残りは、カツとご飯を別にした。カツには粉チーズをかけて、トースターでカリッと焼いた。ご飯は、石鍋でキムチととろけるチーズを足して、石焼きビビンバした。
 僕と翔子はハイボールとこの2つをあてに、呑み直した。
「大食いは翔子ちゃんのオリジナルなの?僕は、みんなで代わりばんこするよ。」
 翔子に聞いてみた。
「私独りのチカラよ。二郎君ずるい、ずるい。」
 翔子は言った。
「いや、チームプレーですぅ。ONE TEAMなのさ。」
 僕は言った。
「あぁ、直ぐ流行り言葉使うぅ。でも、上手い、二郎君。」
 翔子はそう言った。
「ボトル空いちまったな。早っ、バドワイザーのロング缶あったよね。締めに丁度良いな。ライトビール。」
 僕は言った。
 お互いカミングアウトし合って、一時は緊張感ある雰囲気になったが、美味しくお酒を呑んで、すっかり和やかな雰囲気になった。
 その流れで、ベッドインすると、お互い、入れ代わって、複数プレイになった。佐助の色んな女性を抱いてみたいなんて、邪な性欲もみたされたようである。
 僕は、翔子を一生大事にしたいと思える夜になった。

つづく










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