東京オリパラが終了したが、オリンピックの年に必ず思い出すエピソードがある。
「池田敬子先生」をご存じだろうか。
池田先生は、元女子体操選手で、メルボルン・ローマ・東京のオリンピック日本代表で、1954年に開催された世界体操競技選手権では日本女子体操界初の金メダリストとなり「ローマの恋人」と呼ばれた日本女子体操の先駆者。
日本体育大学副学長・名誉学長を経て現在も指導者として多くの五輪代表選手を育てている方である。
10年以上前だが、池田先生のお話を聞く機会があり、その中で水泳の北島康介さんとのエピソードが特に印象に残っている。
池田先生と北島さんの関係は、北島さんが子供時代に池田先生が運営するスイミング教室に入会した時からという。
北島さんが2004年のアテネオリンピック男子100m平泳ぎで金メダルを獲り、レース後のインタビューで
「チョー気持ちいい」とコメントした有名なシーンの直前の事である。
その頃は北島さんの指導から離れてからかなりの時が経っていた池田先生が、自宅テレビで応援しようとしていた時、突然電話が鳴り、出てみるとなんと北島さんからの国際電話だった。
レースまで1時間を切っていたので驚いて「どうした!?」と尋ねると、北島さんは弱々しい声で
「先生、怖い。俺、勝てないかも」と言ってきた。
その言葉を聞いた池田先生は、痛いほど気持ちがわかったそうだが、心を鬼にしてこう告げました。
「このばかもの!自分を信じてやり遂げろ!」と。
究極のアスリート同志だからこそ言葉は多く要らなかったとの事。
結果は見事に金メダルを獲得した。
北島さんは、レース直前の追い詰められた心境で最後に頼ったのは子供時代に指導を受けた池田先生だったのです。
人間は必ず何らかの心の支えがあって生きているもの。その支えを大切にする心があればこそ自身も支えられているのだと思う。