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タイの沼は海ですか?

水曜日のマグカップ〜short story〜

時々こうして、古いマグカップを手にとって眺める事がある。
持ち手の部分で割れて、継いだ跡のあるマグカップ。

あれはまだ付き合い始める前。
たまたま彼と柄違いで買ったもの。
でも、彼の女絡みのトラブルで、いや結構な修羅場に巻き込まれて、買って早々に割れてしまったのだった。

その後、しばらくして、彼は謝りながら直したカップを渡してくれた。
彼がなぜ割れたカップをわざわざ店に持って行き、直そうと思ったのか、今でもわからない。
特別高い物でもない、量産品だったのに。

密かに想ってはいたけれど、彼とは当時まだ友達で。本気で気持ちを伝える覚悟なんて、自分にはなかったように思う。
なんとなくノリでペアマグカップにしたけれど、その先の未来なんて望んでもいなくて。
だから、割れたカップを見ても、どこかで「やっぱりな」と思っていた。

それから、何度も捨てようとして、でも捨てられなかったマグカップ。
今は、食器棚の奥に2つ仲良く並んでいる。

割れる前のカップと、割れて直したカップ。
両者は同じなのだろうか?
付き合う前の彼と、付き合ってからの彼は……?

答えが出そうで出ないフィロソフィー。
わかっているのは、どちらも痛いほど胸を熱くするということだけ……。

あれからもうすぐニ十年。
カップの継ぎ目を指でなぞりながら、彼の帰りを待つ間、久しぶりにこれでお茶を飲もうと決めた。
甘い香りと湯気の中に、ちょっとビターなあの頃を思い出しながら……。











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