読書-下川裕治著「世界の超長距離列車を乗りつぶす」【後編】
2018年09月19日 00時51分05秒
前回の記事で紀行作家下川裕治先生の新刊「世界の超長距離列車を乗りつぶす」のトークショーに参加した話を書きました。前回のトークショーの内容と一部重複しますが本の紹介と感想を書きます。
新潮文庫 7月28日発売 680円
本の内容としては、5章構成
第1章インド・ヴィベクエクスプレス ディブラガル~カンニャクマリ インド 4273km 4泊5日
第2章・中国青蔵鉄道 広州~ラサ 4980km 2泊3日
第3章・ロシア・シベリア鉄道 ウラジオストック~モスクワ 9259km 6泊7日
第4章・カナダ・大陸横断 バンクーバー~トロント 4466km 4泊5日
第5章・アメリカ・大陸横断 シカゴ~ロサンゼルス 4390km 3泊4日
という形で、それぞれの長距離列車の旅がまとめられています。
また本文の他に、章の終わりにガイドのような形で、路線図の他に予約方法、乗車中に実際にかかった食費がまとめられています。実際の旅行計画を立てる際の参考になりそう
第1章、インドは前回にかなり触れたので今回は簡潔に・・
この話をうちの母親にしたら、高校の修学旅行の際に旧型の3段寝台車に詰め込まれて、インドのように乗車率250%ではないものの、ベッドが足りず床で寝ている人もいたとか・・・。インドのエアコンなし列車は高度経済成長期の日本を感じられるのかも??
第2章、中国青蔵鉄道はなんといっても「中共政府によるチベット支配と青蔵鉄道の意義」を考えさせられますね。他の章に較べても「鉄道の背景」に関する記述が多いように感じますね。
鉄道趣味界(に限らず?)では政治的な話を忌避するむきもありますが、例えば日本でもJR7社分割や整備新幹線問題など政治を無視しては語れないもの多いです。鉄道と政治が切り離せないのはそれだけ鉄道が政治・経済・社会に対する影響力があり必要とされていたからこそ。ということを再認識します。
本書の中で「鉄道は航空機とバスの狭間で世界的に衰退産業である」という記述がありますが、鉄道が政治的でなくなった時が本当に鉄道の幕引きの時なのかもしれません。
第3章のロシア。シベリア鉄道は日本でも有名だからかWeb・書物での色々な人の旅行記を見ます。本書では2017~18年頃の「今」のシベリア鉄道旅行を感じます。
印象的なのは外は-20度でも車内は30度近いという記述。30度近い温度だと寝てる間も含めて結構汗をかきそうというか熱中症の危機が・・。7日間シャワーを浴びれないというのはトークショーでも語られてましたが、室温の高さを考えるとシャワーの件は思うよりも過酷かも
シベリアの旅は以前の「世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ」の本の中でも雄大な自然の中を行く列車旅として魅力的に感じましたが、シベリアの鉄道にはどこか惹かれるものがありますね。
第4章・第5章のカナダ・アメリカは、日本の「ななつ星」のような下川氏いわく「シニアのご褒美旅」のような豪華?寝台列車と沿線住民の生活列車が一つの編成となっている。
割安な座席車での大陸横断は長距離バス・飛行機の格安チケットと比較しても戦えるレベルの値段。その中で、体形的に飛行機やバスに乗れない人の需要に支えられて運行している。
この辺りの話は初耳でした。本やwebで見るアムトラックの乗車記でも、わざわざ座席車で大陸横断しようという人がそうはいないのか(高い)寝台車でご褒美旅的なものに偏ってる中で、「下川氏の旅」だからこそ見えるものがあるといった感がします。
アメリカの長距離鉄道(アムトラック)は死に体で国からの補助金頼みでの運行。というのはよく聞く話ですが、鉄道が世界的に斜陽産業という中で、これからの生き残り策としても興味深いです。
先日のトークショーでは中国・ロシア以外は「お勧め出来ない」「乗ってはいけない」という話でしたが、流石に乗車率250%のインドはともかく、カナダ・アメリカは是非乗ってみたいと思いました。
鉄道ファンなら一度は鉄道で北米大陸横断・・というわけでもありませんが、座席車で連泊とはいえ新幹線のグリーン車並の広い座席。夜は空いている座席を使ったり展望車で適当に寝る。と意外に悪くなさそうな・・。
ただ本を読んでいると供食体制にかなり問題があるようで・・。「お勧めできない」理由としてこれが大きいのかなと・・・。
インドやロシアのように駅での物売りからの調達や停車時間を利用しての駅近くのお店で買い出しも無理。お湯がなく頼みのカップ麺も不可と。更に食堂車など車内調達は高くていまいちと。なんか末期の日本のブルートレインを思わせるような話が
実際に乗る際はこの辺の上手い工夫を考えないとですね
余談ですが「食堂車も味はいまいち」だそうで・・シニアのご褒美旅的な寝台車の旅は食堂車での食事が料金に込み・・だそうですが、その食事が「あまり美味しくない食堂車の食事」とするとなんとも・・。1泊程度ならともかく、大陸横断なら安い座席車の方が割り切れていいかも・・と楽観的に思ってしまいますね。
本書で残念なのは実際に旅行した年月日がよくわからないこと。文中の記述から大まかな季節・時期などはわかりますが、列車の混雑具合、景色などは時期によって変化するもの。章末のガイドページなどに記録の意味でも乗車日を付記して欲しいなと思います。
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2018/9/19 00:51(JST)
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