講演会:2018年夏LRTフォーラム「まちづくりにおけるLRTの役割~宇都宮の事例を考える」
2018年07月25日 18時35分44秒
2018夏 LRTフォーラム「まちづくりにおけるLRTの役割~宇都宮の事例を考える」
に誘われまして参加してきました。
主催はNPO「横浜にLRTを走らせる会」。毎年LRTフォーラムを開催しているようで、私が参加するのは2015年夏以来です。
https://yaplog.jp/kiyop/archive/2475
2015年の際は横浜での導入を視野に入れた上で・・という形でのテーマ設定でしたが、今回は2022年の開業を目指し6月に着工した宇都宮でのLRT計画がメインテーマ。
今回も参加費1000円ながら学生は500円という非常にありがたい設定でした
講演は4部構成
その1 基調講演1「宇都宮LRT これまでとこれから」(55分)
宇都宮共和大学特任教授・宇都宮大学名誉教授の古池弘隆氏
その2 基調講演2「交通未来都市宇都宮 LRTによるまちづくり」(45分)
古田信博氏 宇都宮市副市長
休憩をはさんでその3 特別報告「横浜都市交通計画の改定について」(30分)
橋詰勝彦氏 横浜市都市整備局 都市交通部都市課長
その4 主催者から「都心臨海部への信用乗車方式導入の提案」(15分)
小田部明人 横浜にLRTを走らす会 副理事長
横浜の公共交通活性化をめざす会 事務局長
その後に会場からの質疑応答という構成でした。
以下各部ごとに紹介と感想を記します
基調講演1「宇都宮LRT これまでとこれから」
まず宇都宮にLRTが計画されるようになった経緯として、90年代初めに新交通システム(当時は主にモノレールを想定)導入の検討がはじまったこと。
その後、2000年代になってLRTが視野に入るものの、2003年3月に「新交通システム導入基本計画策定調査報告書」がまとめられ、LRTを軸とした総合交通体系の必要性が明記されるが、採算性として当初は赤字になることが試算。その後の反対運動の論拠になる。当時の制度では公設民営や上下分離は不可能であった。
その後、宇都宮市・栃木県でLRT導入に向けて動くものの、当初(2007年頃)はバス会社・工業団地(特に本田研究所)・中心商業街の反発が強い。中心商業街では「車で来るお客がいいお客」といった考え方など。
2013年に宇都宮市商工会議所が「LRT事業推進に向けた要望書」を提出。また隣接する芳賀町が「芳賀工業団地までの延伸」を求める要望書を提出。芳賀町が加わったことで、宇都宮市単独から「栃木県県央地区の計画」となり県が応援しやすくなった。
一方で2014年に入りLRT反対派の活動も活発に。「民意なきLRT導入を阻止する会」が3万512にんの署名を集め住民投票条例の制定を請求(→最終的には住民投票条例は成立せず)
2016年、宇都宮市都市計画の決定・運輸審議会の答申による国交省の認定を経て軌道事業の特許が取得される。2018年に工事施行認可が決まり5月28日起工式。6月に着工(工事開始)となった。
県央地域交通インフラ宇都宮駅西側地区での東武宇都宮線との直通、東側では真岡鉄道との接続、他JR日光線・烏山線との接続・直通運転も今後視野に。
また知事選・市長選といった選挙選がLRT賛成・反対で争われてしまった点など。
特に2016年の市長選挙ではLRT推進派の予想に反し、LRT推進の現職市長がLRT反対を訴える新人候補(野党共闘)に僅差で辛勝となった。NHK出口調査ではLRTに62%が反対。高齢者ほど反対だった。
LRTのメリットを訴える市長の演説も賛成派だけに繰り返し行っていたのではないか?といった反省点も。
といった内容でした。なおこの第1部に関しては政治的にデリケートな内容が含まれるためにyoutubuでの講演録画の公開は行わないとのこと。参加者による録音・動画撮影も遠慮願いたいとのことでした。
その2 基調講演2「交通未来都市宇都宮 LRTによるまちづくり」
まずは宇都宮市の概要として北関東最大の50万都市であること。大谷石・餃子・JAZZ・カクテルを名物として盛り上げていることなど。北関東3県は車社会であり、栃木県は自動車保有率が全国2位。移動手段としての自動車利用が増加傾向であり、25~64歳までほぼ8割以上が車移動であり殆ど歩かないこと。65~69歳でも3分の2は自分専用の車を保有していることなど。
現状、同じ都市規模の他都市(長崎・松山・熊本・鹿児島)などと較べ自動車分担率が10%以上低く、地価(平均路線価)も宇都宮が低い。
「公共交通を選択できる都市にしたい」こと。
郊外部の地域内交通(デマンドなど)では13地区で運行。23万人をカバー。目指す都市像として、拠点間を結ぶ鉄道・LRT・バスを地域内交通で補完する形としたい。
LRT沿線のバス路線再編を行い、(LRT運行で不要になる)企業送迎バスの人員・車両をもちいてバス25両・運転手30名で支線バス等150便の増便を計画。LRTを利用できないエリアでもバスが便利にする(最終バスの21時台から23時台への繰下げ・運賃引き下げ)
自動車だけが便利な交通ではなく、徒歩・自転車・公共交通も便利な街に。
公共交通も移動の選択肢として考えられる街に
飲み会がある日ぐらいは車でなく公共交通で通勤できるように(最終繰下げ等・現在では飲み会のある日も無理)
車を捨てろとは毛頭言わない。10回のうち1回ぐらいは公共交通を使って欲しい。
コンパクトシティ化も考えていない(昭和大合併時の旧市町村の中心部は核とする)
LRT反対運動にも言及。
反対派の主張は誤解が殆どだが分かりやすく拡散しやすい。その為LRTに無関心(LRTとは何かを知らない)な層が反対になびいてしまった。一方でLRTのメリットの説明や誤解を解くには時間がかかり難しい。だが丁寧に説明すればわかってもらえる。
例えば東側で458億円と言われる事業費をLRTよりも福祉・医療などにお金を使うべきだ。との反対の主張も、実際には国からの用途指定の補助金で、宇都宮の医療福祉など他には使えない。宇都宮市の負担は年最大13億円程度とのこと。
特に2016年市長選の結果(辛勝)からも、合意形成や丁寧な説明が不足していたことは大きな反省点であること。
2017年の「LRTの早期着工を目指す市民大会」では、会場の県総合文化センターの客席数を超える3000人が集まり、市民にLRT期待への機運が広がっていることを実感。特に市職員のモチベーションアップになった。
この項に関しては、現在バスで790円の区間(宇都宮駅~本田技研)が400円と約半額になる。との説明が特に印象的でした。約15kmで400円なので都市鉄道の運賃としては高めですが、バスの半額を打ち出したのは非常にインパクトがあります。これは上下分離や公設民営により実現できるとのこと。
合意形成に関しての感想として、SNS等の普及で個人の発信力が強くなっている昨今、個人の立場での趣味人・研究者が宇都宮LRTの早期実現に期待するがあまりに「コンパクトシティ」や「車社会からの脱却」「公共交通復権」を大上段に構えすぎて、反対派の誤解を煽ってしまっていること。「誤解により反対を訴える個人」を発見して揶揄・嘲笑するなど「火に油を注いでいる」ような例も散見されます。
また特にTwitterのように字数制限が厳しいSNSツールでは丁寧な説明自体が難しいと言えます。
そういった意味で今回の講演会のように「賛成派に向けた丁寧な説明」の重要性や、宇都宮LRTの成功を願うならばこそ、個人の立場とは言え発言に留意するべきだと感じました。
その3 特別報告「横浜都市交通計画の改定について」
平成20年に策定された「横浜都市交通計画」から10年が経過し平成30年の改定に関する概要説明。
平成42年(2030年)頃を目標とする。
横浜市内の1日当たりバス乗車人員は平成22年を谷として復調傾向だが平成8年からの20年間で2割減少していること。提示された表では16年度の減少が大きくみなとみらい線開業の影響も伺えます。
日本の訪日外国人数は年々増加しているが横浜は頭打ち、チャンスを逃しているのではないか?
基本方針として
路線バスの維持・充実として連接バス購入に補助金
タクシーサービスの活性化としてICT活用(タクベルアプリなど)
福祉系と連携した地域交通サービス
歩行者空間・自転車の利用環境
バリアフリーの推進
この項に関しては概要的な内容に終始しまた既出的なものあり、その2の宇都宮LRTの講演のインパクトが大きかった分印象に残りづらかった感があります。
印象的だったのは、横浜市内は起伏が多く「自宅から最寄りバス停までの徒歩経路」上に大きな高低差を抱える場所が多くその対策が必要である点。今までバスの利用促進といってもバス停までのアクセスには言及されてこなかった分、今後の展開が気になるところです。
また「都市計画道路の併用率まだ50%程度。今後も整備を進める」という趣旨の発言がありましたが、人口減少社会と言われる中で新規の道路整備には疑問(特に新規軌道系交通ではよく言われる)もありますが、講演中で触れられた自転車通行帯の整備。
自転車の車道走行が義務化された一方で自動車運転者から見れば自転車が邪魔になっている現状で、単に道路を新設するのではなく自動車運転者への意識改革、自動車優先ではない自転車通行空間を確保した上での道路整備に舵を切れるのでしょうか??
「都心臨海部への信用乗車方式導入の提案」
主催者「横浜にLRTを走らせる会」から、横浜都心臨海地区での高度化バスシステムでの信用乗車導入を提案と、信用乗車とはなにか実例などを紹介
実例として海外事例。及び富山・広島・西鉄バスでの国内事例(後払いだがICカード利用者は係員のいない扉での降車が可能)
まとめの中で、横浜で導入の際は各停留所への券売機設置、および安価な共通乗車券の導入の必要性にも言及
この後質疑応答で、私から信用乗車方式に関して質問
信用乗車の実例として、今回の講演では触れられていないJRローカル線の事例(県内では鶴見線・相模線・御殿場線など)主要駅では駅で改札、無人駅では車掌が集札したりしなかったりで信用乗車と言える。これらの実例は参考になるのではないか。
また広島の全扉降車ではICカード限定だが1日乗車券など企画券類はどうなのか?極論すれば1日券は運賃支払い済みなのでどの扉から乗って何処で降りても自由と言える。ICカードに限定しているのは、乗客同士の相互監視を利用しているといえるが、乗客同士のトラブルの原因になる懸念がある。
宇都宮での信用乗車の導入は考えているのか?
といった内容
回答としては
広島に関しては、現在1形式(グリーンムーバーREX)のみでの試行段階だが今後他形式車両にも拡大する際には、1日券等の対応も必要になるのではないか?
宇都宮に関しては、ICカードに関しては全扉降車は行う。企画券・1回券に関しても車内移動を極力減らしたい観点から、全扉降車を導入する必要がある。
→「車内移動をなくしたい」を強調していた感だが、長距離利用に配慮して座席数が多めにした車両の導入を計画しているのかもと感じた。
他の質疑の中で出た話として
宇都宮ではICカードは利用率8割を目指す。流通系ICは通信速度の観点から車上では対応できない。券売機での乗車券購入ならば・・。宇都宮LRT独自のハウスカードを導入し、ハウスカード+交通系IC対応で考えている。
スピードアップに関しては、開業時は軌道法の40km/h制限の影響を受けるが、将来的には50km/h以上にスピードアップしたい。スピードアップすれば運用効率が良くなり同じ編成数(17編成+イベント用車2編成)で増発が出来る。
架線レストラムは現在まだ技術的に成熟していないので初期開業区間では採用せず様子見。西側地区延伸の際は検討したい。
コンパクトシティ・選択と集中に関して。一極集中はあわないという議論が優勢。昭和大合併前の旧自治体中心部は核とする。
以上が概ね今回の講演の要旨でした。途中休憩をはさみ3時間20分ほどでしたがあっという間の時間でした。
LRT検討ブームと言われて久しいですが、今回の講演は非常に明るい、将来に期待が持てる内容でした。
長年の紆余曲折があった分か宇都宮市側が非常によく検討し、既存の鉄軌道の常識を打ち破っているように感じたのも印象的でした。上下分離に関しても今までは既存運営事業者に対する救済策のような形で言及されることが多かったものの、いよいよ利用者本位の形で利用されることになるのは好例と言えます。
またバスに較べて半額近い運賃を設定し新幹線の初電・最終に対応した運転時間帯など非常に積極的に攻めの姿勢を打ち出しているのは非常に期待できます。一方で「反対派の人達にも丁寧に説明すればわかってもらえる」というのは、このような思い切った利便性第一の積極的な姿勢があってのこそのことだと思います。
宇都宮LRTの開業・成功で、他の都市でも「LRT検討ブーム」から一歩進んでLRT実現に向けて具体的な動きや新規開業に繋がることが期待できます。
一方で宇都宮の場合、既存事業者が絡まない全くの新規路線だからこそ出来たのかも?とも感じます。宇都宮に続けと既存鉄軌道事業者が絡んでLRTを新設する都市が出た場合、ここまでの意識改革が出来るのかどうか?実力が試されることになりそうです。
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2018/7/25 18:35(JST)
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