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月華抄 北園俊治

栴檀は双葉より芳し~あるフルート製作者の最初期の頭部管~

 おそらく、'70年代中頃の製作ではないかとされる作品。
 1954(昭和29)年早生まれの秋山氏は、18歳で、創立して3年ほどのミヤザワフルートに入社。22歳頃から頭部管の製作に携わられ、それから1~2年を経て刻銘させてもらえるようになったと仰せなので、ちょうどその頃に製作されたもの。
 秋山氏の作品と確認のできる、ほとんど最初期の頭部管。

 ご縁のあり、ある愛好家の方から、頂戴することに。
 ほとんど、こちらで手入れをする必要のないほど美しい状態で戴き、感謝。
 (若干の磨きはかけました。)

 たいへん貴重なもので、アキヤマ・フルートの歴史資料として保管させて戴きます。

 おそらく、材質は、当時の標準的な銀素材のAg900。旧東ドイツのHelmuth Hammigなどに使われた、いわゆるコインシルヴァー。
 10%ほどの銅を含み、倍音の美しい材質。



 ケースはこちらで用意したもの。




 クーパーカットの流行る前の、クラシックな歌口。
 オールドフレンチの音の追究への、意識せざる黎明かもしれない。


 リップ・プレートの裏に、"AKIYAMA"の刻印。
 一字ずつ彫られているところから、年代を推測。


         胴には、"The Miyazawa Flute"の刻印。


       クラウンのすぐ下には、"AC2"と型名の刻印。



 クラウンも、シンプルながら美しい造形。

 栴檀は双葉より芳し。音質は素晴らしい。
 やはり、今日に通じるものあり。
 もっとも、胴部管の先端までしか入らず、擦り合わせを要しますが。 

追記 6月19日
 
 秋山好輝氏の製作された現在の頭部管(Louis Lotの改良型、OFS+K18LR反射版)(上)と、氏が駆け出しの23~24歳頃…ミヤザワフルート時代に製作された、頭部管(Ag900)(下)。



 氏の刻銘入りとしては処女作に近い頭部管を、現在のアキヤマフルートのNo.137の胴体(Ag944巻管)に付けてみる。
 ほんまは、全然、入らなかったのを、JEUGIA三条APEXのリペアマン某Y氏に、一か八か絞り込んで擦り合わせをしてもらった(笑)。
 当時の作品の方が作りはモダンなので(笑)、低音域を含めてよく響く。音色は、オールドフレンチを追究した現在の巻管の方が美しい。




 ときに、現代版Louis Lotとはよくいったもので、19世紀のフレンチの音を、当時の材料を使い、古態を忠実に模しながら、かつ現代に要求される性能を満たすという、二律背反を見事に両立させた、今日の秋山氏作の頭部管。
 楽器の鳴りやすい季節を迎え、たゞちょっと、胴体の方が負けてきたかな、という感じ。fで吹き込みすぎてしまうと、どうも分離Fのあたりがじりじりと雑音…また診察して戴こう。
 胴体は、16年前に英国の若手奏者(Lotユーザー)によって秋山氏に発注されたもの。欧州から、巡り巡って帰国し、僕の手許に渡ってくるとは。さすがに、お疲れの出たか…(笑)。



 さては、タンポの調整紙のじりじりか…!?
 先輩同僚のムラマツの楽器を実験台に(笑)、自分で全タンポ交換をした時に、鳴りまくった経験が…😓 

 追記 6月26日
 
 当初は、アキヤマフルート歴史資料、のつもりで戴いた頭部管ながら、ミヤザワフルートに入社されて駆け出しの頃の、処女作に近い、この作品('70年代半ば)は、演奏してみると素晴らしい。今のより…(笑)、あ、いや、栴檀は双葉より芳し、とはこのことぞかし。
 あの時代のAg900(Coin silver)の妙味というべきかも。それによるHelmuth Hammigの音と、巻管のLouis Lotの音とは、独仏の音楽性の違いの先入主を除くと、芯の美しさにおいては、僕は相通じるものを覚える。
 この頭部管も、クーパーカットでフルートの音が荒れる前の、自然な歴史を継承しているというべきか。



追記 令和5年3月5日

 譲渡のため、ヤフオクに出品しております。

追記 令和5年3月16日

 只今、落札をして戴いた、東播磨の、次の継承者の許へ届きました。
 「アキヤマフルート」のチラシをさりげなく同梱するあたり、僕も、つくづく義理堅くお人好し。
 そういう人間なのです。
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