一条きらら 近況

【 近況&身辺雑記 】

テレビ設置騒動記

2024年09月29日 | 最近のできごと
 新しいテレビを買った。故障したからである。
 故障しなくても、古くなったから買い替えようと、以前から決めていた。
 転居以降、家電量販店へ何度も行ったが、エアコンやパソコンやプリンターや洗濯機やカーテンなど必要な物を買いながら、テレビはそのうちそのうちと延ばしていた。
 すると、ついにテレビが故障してしまった。
 テレビが故障したのは、初めての経験である。今まで5台ぐらい買い替えたが、きっかけは、古くなったからとか、もっと大きなモニターで見たいとか、引っ越したからということだった。どの時も、故障はしていなかった。テレビ故障の初体験である。
(ああ、ついにテレビが壊れちゃった!)
 ビデオレコーダーの故障の時と同じくらいパニック状態になり、
(ずいぶん酷使しちゃったものね)
 そう呟くと、ちょっぴり悲しくなった。ごめんなさいね、マイ・テレビちゃん。
 急に全く見られなくなったわけではない。録画のドキュメンタリーを見ている途中で、突然、音声が消えた。あれっと思い、数秒待っても、音声が出ない。
〈戻る〉ボタンを押し、再び〈再生〉ボタンを押すと、音声が出て正常になった。
 最初は、その状態が起こるのが、時々であり、毎日というほど頻繁ではなかったし、1日に1回だけなのである。
 けれど、たとえば報道番組などの再生で、画面は見ずに音声だけを聞いている時、急に音が消えてしまうと、キッチンでの用事を中断し、テレビの前に来て〈戻る〉ボタンを押し、〈再生〉ボタンを押さなければならない。1日に1回ではなく、今後はそれが頻繁になっていくことは予想できる。
 テレビの故障の始まりは、音声が出なくなることというネット記事を読み、
(やっぱり壊れちゃったんだわ)
 直す方法なんてないわと諦め、ようやく買いに行くことを決めた。
 家電量販店へ行くのは、いつもワクワクする。デパートへ行く時と同じくらいの浮き浮きワクワク感に包まれながら、30度以上の暑い日中、汗を拭き拭き出かけた。汗かき体質のため、毎年、夏は汗との闘いである。猛暑の夏に限らない。
 今年の夏も、汗と闘いながら、頻繁に外出した。
(こんなはずじゃなかった)
 と、顔の汗を拭きながら何度も呟くのは、昨夏は、きっと来年はエアコンの涼しい部屋で映画を観たり読書したり、毎日のんびりできるはずと思っていたからである。
 メモ・ダイアリーを見ると、8月は何と15日も外出したと気づき、驚いた。春や秋ならともかく、猛暑酷暑の真夏である。特に午後から気温は上昇し、夕方になってもおさまらない暑気に包まれるといった日々、ついに〈頭痛の予兆〉を感じた。
 と言っても、立ち止まるとか、あ、痛いという呟きはなかった。正確には頭痛という痛みではなく、痛みが起こりそうな予感であり予兆と言いたくなる感覚なのだった。
 その日は新宿へ出かけた帰りで、最寄り駅前のスーパーに寄らずに帰宅した。
(今日は炎天下を歩き過ぎちゃったわ)
 つくづく反省した。必要に迫られての買い物があり、新宿の南口から西口へと歩き、数時間後に東口へと歩き、数時間後に南口へと歩き回ったりした。炎天下の道路も駅構内も気温は高く、汗を拭きどおしだったと思い出したし、早くレストランで休みたいと歩き疲れてもいた。
(頭痛なんか起きたら大変)
 と、慌てた。3年前、首の寝違いを起こした時、初めて頭痛を経験したことを思い出した。
 自宅に向かって歩きながら頭に浮かんだのは、〈熱中症〉という言葉だった。熱中症の症状に頭痛があったような気がしたのだ。
 次に頭に浮かんだのは、身体は1年ごとに衰えるということだった。真夏の頻繁な外出が、昨年大丈夫だったから今年も大丈夫とは限らない、身体は歳月と共に老化して衰えていくということだった。持病も基礎疾患もなく、風邪やインフルエンザやコロナに感染もせず、関節痛もなく入院経験もないからと健康を過信してはいけないということもだった。
 私はこの世に生を受けたばかりの時から、約8年間、虚弱体質の時期が続いた昔のことが、そんな時は、いつも脳裏に甦る。この時も、そうだった。
(頭痛なんか起きたら大変)
 その呟きを繰り返しながら、夕食は済んでいるから、早く入浴して歯磨きと肌と髪の手入れをして、録画のビデオは見ずに、早くベッドに入り、スマホのニュース速報を読んで早く眠らなくちゃ――と、それらの自分の行動を一つ一つ思い浮かべていると、精神状態が少し安定してきた。
 ところが新しいテレビを買いに行く決心のワクワク気分に包まれたものの、まだ真夏日のような日々が続き、毎朝パソコンに向かうと天気予報のサイトを見る習慣があるが、
 ――外出は控えて―― 
 ――外出は炎天下を避けて――
 というようなメッセージの表示がある日ばかり続く。
 さらに、居住区から〈熱中症警戒アラート〉の通知メールが頻繁に届く。
(熱中症にならないようにしなくちゃ)
(頭痛なんか起きたら大変)
(猛暑の暑気に包まれながら歩くのは身体に良くないわ)
 そう思いながらも、数日後、日中の気温は30度以上だが思いきって出かけた。音声が消えるたびテレビの〈戻る〉ボタンを押し、再び〈再生〉ボタンを押すことに嫌気がさしてきたし、早く新しいテレビを買いたくなったからでもあった。
 テレビを買った後、他のフロアをいくつか見て回り、3時間半ほどして店を出た。前回は新宿で夕食をすませたが、その日は自宅を出た時から早く帰るつもりで、夜遅くにはならなかったので、電車を降りて最寄り駅前のカフェでパスタの食事をして、2軒のスーパーに寄って帰宅した。
(今日は家電量販店だけにして良かった)
 入浴しながら、つくづく安堵した。夕方まで気温は高かったが、先日のような頭痛の予兆もなく、熱中症にもならずにすんだ。
 翌週、テレビが届けられたが、思いもよらないできごと、全く想像もできないようなハプニングが、その日、待ち受けていたのである。  〔続く〕


落胆の歯科医院

2024年08月25日 | 最近のできごと
 歯科医院の待合室ではなく、診察室の片隅で待つように言われ、やがて医師が声をかけながら姿を現した。
 診察申込書のチェックを入れた項目の、私の虫歯の詰め物のレジンがはがれた箇所を医師は見たり、
「今はレジンも進化してるから、はがれないですよ」
 とか、他にも二言三言のやり取りの後、診察台に移るように言われた。
 中高年の歯科助手さんが来て、口すすぎ台に紙コップを置き、私の胸の上に、紙製のエプロンをかけた。
 診察台を倒されて、私の身体は水平に近い角度に横たわる姿勢になった。
「40年とはよく保(も)ちましたね」
 傍に来た医師がそう言いながら、椅子に腰を下ろした。
 歯磨きは現在と同様、起床時、朝食後、昼食後、夕食後と1日4回していたが、私の人生で生活が大きく変わった時期の数年間、砂糖をたっぷり入れたコーヒーを5杯も6杯も飲んでいて虫歯になってしまったのだ。
 その後、2回ぐらいは虫歯になったが、中高年のころ、クリーニングで初めて行った歯科医師から、
「甘い物は好きじゃないんですか?」
 と質問されたことがある。
「いえ、好きです、チョコレートとかケーキとか」
 そう答えた。あの時の医師は、颯爽としたイケメン・ドクターだったと思い出した。
「口を開けて」
 治療器具を手にして医師が言った。
「はい」
「麻酔はしませんからね」
「はい」
 答えながら、急に不安感に襲われた。痛みに人一倍弱い私は、麻酔しないで痛みに耐えることになるのかと恐怖に包まれた。
 医師が治療器具を使い始めた。
(怖い~)
(痛いの嫌~)
(どうして麻酔してくれないのかしら)
(や、やめて~)
(帰る~)
 と、もうパニック状態。
(来なければ良かった、痛いの嫌い、帰りたい~!)
 ところが――。
 治療器具を医師が使っている間、痛みは全く感じなかった。
 治療は、5分ぐらいで、終了。
 そんなに早いと思わなかった。しかも、少しの痛みもなく、である。
(何て名医の先生!)
 感動した。
 治療台を起こされ、
「口すすいで」
 医師がそう言った。
「はい」
 水が入った紙コップを手にして口に触れさせた瞬間、
(あれ?)
 一瞬、手が止まったが、思いきってブクブクして、持っていたハンカチで口を拭いた。 
 医師が歯科助手さんに手鏡を持って来るように言い、その手鏡を渡されてレジンの修復の歯を見たら、両隣の天然歯と色もほとんど同じで、
「わあ、きれい。もう終わりですか?」
 思わずそう言うと、
「終わりです」
 医師が淡々と答えた。
「早くて上手ですね」
 私は言った。
「クリーニングはしてますか?」
「引っ越しで慌ただしかったので、1年近く行ってないんです」
「歯石はあまり付いてないみたいだけど、1年も経ってるなら、次回、しましょう」
「はい」
 礼を述べて診察室を出た。
 少し待ってから、受付カウンター前で治療費を支払った。
「次回の予約は……」
 と、予約の準備をしながら歯科助手さんが言いかけたので、
「いろいろ雑用があって今週来週はバタバタしてるので、落ち着いたらネット予約します」
 そう答えた。
「ネット予約ですね、わかりました」
 歯科助手さんがやさしい微笑を浮かべて言った。
 歯科医院を出て、小さな解放感に包まれながら、
(あそこは、もう行かない)
 そう決めた。理由は、紙コップである。
(あれは間違いなく、新品の紙コップじゃなかった)
 変な匂いはしなかったし、見た目ではわからなかったが、新品の紙コップは新品の匂いと感触がするものである。それが、なかった。
 私が神経質過ぎるということもあるが、神経質だからこそ新品と使い回しの紙コップの違いが、わかるのである。
(あの紙エプロンも使い回しだったかも)
 患者は緊張しているし、わからないと思っているかもしれないが、変な匂いや汚れの色が付いてなくても、神経質な患者にはちゃんとわかるのである。医師が採算を考えての指導なのか、歯科助手が仕事をサボったのか、水ですすいで乾かしたのか、わからないけれど。
 スーパーで買い物して帰宅後、入浴して歯磨きもして何度も口の中をすすいだり、うがいしたりしたのは言うまでもないこと。
(早くて上手な歯科医師で、やさしく感じの良い歯科助手がいても、不衛生な医院には行きたくないわ)
(どこの歯科医院に、クリーニングに行こうかしら)
 駅前商店街の路地を歩き回りながら、ここにもあそこにもと、頻繁に眼に触れる〈歯科〉の看板。
(明日から、またネットであちこちの情報を閲覧しなくちゃ)
 こうして私の歯科医院探しが、また始まったのである。


転居後の歯科医院

2024年07月21日 | 最近のできごと
 何度もホームページを見ていて初めて行く、その歯科医院のドアを開けて入った。
 虫歯の詰め物の治療が目的だが、歯科医院に初めて入る時はいつものようにワクワクする。
 歯科医院に限らない。内科でも他の科でも、診療所でも病院でも、初めて行く医療機関は決まってワクワクするような気分に包まれる。
 もちろん緊張感もあるし、痛い思いをするのは嫌だとか、理想的な医療機関ではなく、とんでもない医院や病院かもという不安もちょっぴりある。 
 けれどワクワク感のほうが強いのは、言ってみれば、好奇心のせいかもしれない。
 ドアを開けた私を見て、受付の席に座っていた中高年女性が、「こんにちは」と感じの良い口調で声をかけてきた。
「こんにちは」と、私も明るく言って受付のカウンターに歩み寄る。
「初診です。予約はしてないんですけど」
「えーと、この後3時から予約が入っていて……」
「あ、じゃ」
 ホームページからネット予約は可能だったが、初めて行く歯科医院も美容院も〈予約〉が嫌いなため、すませていない。もし予約でいっぱいなら、もう1軒その近くの歯科医院に行こうと決めていた。
 けれど歯科助手の女性が、「ちょっと先生に聞いて来ます」と言って、治療中の歯科器具の音がしている診察室へ行き、間もなく戻って来た。
「大丈夫です。これに記入して下さい」
 と、紙と台紙とボールペンをカウンターの上に置いた。
 名前や住所などの個人情報を記入し、受診の目的にチェックを入れて、受付へ。
 他に患者の姿はないが、予約制だからかもしれない。予約なしの患者がいないのは、大雨の日だからかもしれない。または歯科医院の数が多い地域だからかもしれない。
 などと考えながら、5分ぐらいだろうか、思ったより早く診察室へ呼ばれた。
 すると、すぐに治療台へ上がるのではなく、歯科助手女性から部屋の隅に案内され、小さなテーブルと椅子が2つあるコーナーで少し待つようにと言われたので、椅子に腰を下ろした。
 前の患者の治療が終わって、カルテとか請求書とか、私の保険証と診察申込書に医師が眼を通す時間と想像されたが、待合室より少し長めで10分くらい待った。
 そのコーナーの壁に、歯科医師の所属の歯科医師会とか団体とか専門医や認定医の証明書とか肩書きなどが書かれたポスターが貼ってある。
 私の経験ではそのようなポスターが待合室に貼ってある歯科医院は、3軒に1軒ぐらいだろうか。それを見ると、何か誇らしげな印象をちょっぴり受けてしまうが、以前、歯科医院の選び方という記事を読んだ時、そういう医院は避けたほうがいいということだった。私は特に避けた経験はないが、その日の私は、ある本を読んでいたせいで、そうしたい歯科医師の心理が想像された。
 転居後の本の整理は、本棚に本を並べていく作業だけではなく、あと1度だけ読んで捨てるということだった。不要な本の整理は転居前にダンボール6コを2回、合計12箱を中古本店に送って売った。現在は本棚に入りきれない本の断捨離である。海外のドキュメンタリーや刑事コロンボ・シリーズなど、あと1回読んでは捨てることを繰り返している。その中の1冊が『わたしは悪い歯医者』で、著者は現役の歯科医師。その本が、あと1度読んだら捨てる本に積み重ねてあって、
(ちょうどいいわ、歯科医院に行くから、これ読もうっと)
 と、眼にしたタイトルを見て手に取ったのである。
 買って読んだのが15年か20年ぐらい前だったが、面白く読んだという記憶があった。もう1度読んだら捨てるから1冊減ると思ったりもした。
 2度目に読んでみたら――。
(そういうことだったのね)
 今まで謎だったことが、溶けたり、納得したり、理解できたりして、面白くもあり、一気に読んだ。
 謎というのはいくつかあって、たとえば、〈医師等資格確認検索〉という厚労省のサイトで検索したことが何度かあるが、最初のページに、
 ――医師、歯科医師の資格を確認することができます。――
 と書かれていて、
   職種  医師 歯科医師
   性別  男性 女性
   氏名
 と表示された欄に、選択してチェックを入れたり、医師名を入力したりして検索ボタンをクリックすると、次ページに、
 ――〈検索結果  1件(備考に*がある場合は詳細表示があります)〉――
 ――番号 職種 氏名 性別 登録年 備考―― 
 それらが表示されるのである。私がこのサイトを利用するのは、医師資格が間違いなくあるかどうかではなく、医師になって何年ぐらいのベテランかを知りたいためである。
 そのページを見るたび、
(職種が、医師と歯科医師に分かれてるって、どういうこと?)
(歯科医師も医師なのに、わざわざ分けてあるなら、内科とか眼科とか耳鼻科とか外科とか分けてないのは、どうして?)
(医師と歯科医師は違うのかしら、どう違うわけ?)
 と、謎だった。歯科医師の数が多く、同姓同名も少なくないということだろうかなどと思ったり、
(歯科医師と、内科医師や整形外科医師って、雰囲気がどこか違う感じ)
 などと思ったり、
(歯科医師は内科医師などに対してコンプレックスがあるような気がする)
 などと思ったり、
(歯科医師ではない医師は歯科医師を見下(くだ)してるみたいに想像される)
(口コミを読んだり人の話を聞いたりすると、たいていの人は歯科医師を軽く見ているみたいな感じを受ける)
(内科の医師のほうが患者から尊敬されてるみたいな感じもするし……)
 それらの謎や疑問が、その本を読んだら、溶けたり納得できたりしたのである。
(そういうことだったのね!)
 内科などの医師と歯科医師はスタートの時点での相違があったのだ。親が歯科医師で後継者になるという人を除き、最初は大半の歯科医師は歯科医師ではない医師を志望していたらしい。けれど学力、学業成績によって、歯科医師になる選択をしたということらしい。
 私はずっと、歯科医師になるような学生は、歯科というジャンルに興味を持ち、歯のトラブルをかかえる患者を救いたいという目標があったと想像していた、その医師の目標を持つスタート時点ということである。
(そう言えば……)
 と、思い当たることがあったり、
(そういうことだったのね)
 という言葉を、その本を読みながら、何度繰り返したかわからない。
 私が〈医師等資格確認検索〉という厚労省のサイトを知ったのは、その本を読んでしばらく経っていたので、気がつかなかったのだ。
(内科とか整形外科の医師と、歯科医師は、やっぱり雰囲気が少し違うのは、そのせいだったのかも……)
 読み終えた後、いろいろ興味深く面白い本だったので、捨てるのがちょっと惜しくなった。 〔続く〕






雨の日の外出

2024年06月23日 | 最近のできごと
 先日、最寄り駅近くの歯科医院へ出かけた。
 前歯の虫歯の詰め物の修復である。〈C1虫歯〉に詰めてあったレジンが、はがれてしまったのだ。その虫歯の箇所が痛くもないし、しみることもない。
 すぐに歯科医院へ行けない事情があり、けれど放置していたらしみるかもと不安になり、フッ素が多く入っている〈チェックアップ〉という歯磨きを通販で買って、夜の歯磨きの時に軽く磨いていたら、その後も全くしみなかった。
 すぐに歯科医院へ行けないのは、どこの医院に行こうかと、来る日も来る日もネット記事で情報集めしていたからである。
 コンビニより多い歯科医院と言われるように、最寄り駅へ向かって歩いて行くと、10数メートル間隔でと言えそうなくらい、あちらにも〈歯科〉こちらにも〈歯科〉の看板だらけ。
 外出時には、その看板や外観を見たり、在宅日はネットの口コミやホームページを見ては、
(どうしよう、ここにしようかナ、他の医院にしようかナ)
 と、先月の月末近くから迷いに迷っていたのである。
 転居したら、あちこち歯科クリーニングに行って、医師と歯科衛生士と受付の人たちに接し、良さそうな医院を見つけようと思っていたのである。
 そのうちそのうちと〈明日できることを今日やるな〉で延期していたわけではない。不幸中の幸いは、前歯といっても上唇を少しめくらなくては見えない箇所の小さな虫歯だから、他人の眼には見えないことだった。他人には見えなくても、毎朝、洗顔の時に鏡を見ながら、
(まさか虫歯が広がってないわよね)
 と、ドキドキするほど心配で、上唇をチョンとめくってみると、茶色に着色した部分は同じか、毎夜、フッ素高濃度配合(1450ppmF)の歯磨きで少量洗口をきちんと守っていたせいか、虫歯の茶色部分が薄くなってきたような気がした。
(さ~すがライオンね、歯科グッズは、ぜ~んぶライオンだもンね、絶大の信頼のメーカーだもンね!)
 なんて呟いたものの、
(そんなわけないわよね、レジンがはがれちゃったのだから)
 見慣れてきたせいかもと思い直した。
 あの歯科医院にしようと決めてからも、なかなか行けないのである。今日は新宿へ出かけるし、今日は美容院へ行くし、今日はスーパーへ買い物だし、今日は電話がかかってくるし、今日は笹塚へ行く用事があるし、今日は昨日出かけて疲れちゃったし、今日は家の中でやることがたくさんあるし、今日は歯科医院へ行く気分じゃないしと、来る日も来る日も自分にいろいろ言い訳しながら、パソコンに向かうとブックマークしてある歯科医院が今日は休診じゃないかしらとか、行こうかどうしようかウダウダウダウダと迷い続けたが、一番の理由は、
 ――今日は歯科医院へ行く気分じゃないわ――
 ということだった。
 それが、大雨の降る日、何故か行く気分になったのである。よりによって雨が降っている日にと、自分で自分の心理が不思議。
(今日、行こうっと、あそこの歯科医院、行こうっと!)
 もうその日はワクワクするくらいテンションが上がっていた。何事も気分で行動することの多い私だが、ついに歯科医院へ行く気になったその日まで、半月余り経ってしまったと気づく。
(どんな歯科医師かしら? どんな歯科衛生士や受付の人たちかしら、やさしい人がいいナ、優秀でやさしくて感じの良い人ばかりがいいナ)
(雨だから患者はきっと少なくて待たされないわ)
 まだ小降りにもならない昼下がり、傘をさして歩きながら小さなショルダーバッグに健康保険証を入れたのを確かめ、浮き浮きワクワク自宅を後にした。
 最寄り駅へ向かう道を歩きながら何軒もの歯科の看板はもう見ないで、ついに、決めてあった歯科医院に着いた。 〔続く〕


最近の心境

2024年06月02日 | 最近のできごと
そろそろ梅雨入り。雨の日は嫌い。まず気分的に、ああ雨と落ち込む。雨の降る音を、風情があるなどと感じたことはない。若いころからずっとだが、雨の日はやたらと眠くてダルいのである。意欲も低下。何もしないでソファかベッドで横になってスマホかKindleかテレビか長電話。
 運動不足を自覚しながらも、毎日のルーティーンのストレッチやテレビ体操だけは欠かさない。外出もしたくない。まるで自律神経失調症みたいに、ダルくて眠くて、何かの意欲が湧かない。それでも食べたり飲んだりだけは変わらない。家事は運動になると、テレビで専門家が言っていたが、いつもより身体を動かすのも億劫でダルいのに、コーヒー飲みたい、紅茶飲みたい、ごはん食べたい、お腹が空いたと私の脳が身体に命じて、ソファやベッドから勢い良く起き上がる。
(じっとしてたってエネルギー消費してるからだわ!)
 自動的に消耗している基礎代謝のせいだと気づく。


以前居住のマンションも出入りするたび、エントランスの傍の満開のツツジが眼を楽しませてくれたが、現在居住のマンションはそれより少し広い面積の生け垣と、裏庭というか中庭というか、そこにもツツジが満開に咲いていた。
 ツツジが終わりかけると、その傍の高木に白い小花がたくさん咲いたが、何という名の樹木か知らない。
 今月は紫陽花の季節。
 紫陽花は雨を思わせる花ということらしい。
 梅雨の時期は嫌いだが、ブルーの紫陽花が好き。
 ベランダでミニ・トマトを栽培しているという話を姉から聞き、私も試してみたいなと思っている。ただし、トマトは普通サイズが好きで毎日食べているが、窓を開けた時の観賞用に楽しめるかもしれない。


フルーツコーナーで真っ先に眼を惹かれたイチゴの季節も終わった。スーパーへ行くたびに買っていたイチゴ。私は大粒のあまおうが大好きで、買う店は2軒のどちらかに決めていた。食材の買い出しが週に1度、新宿など電車で出かけた帰りに週1、2度だから、毎日のように食卓を見て浮き浮き。
 1パック買うと3日は美味しい、という時期は短く、2日で食べきらないと少しずつ傷んでしまう日々に。
 やがて、店頭でパック越しに見ても、
(う~ん、鮮度がちょっと……)
 と、手に取るパックを選ぶ時間が、かかるようになった。何度も、あれこれ手に取るのはマナー違反に思うものの、パックを裏返してみると、やはり鮮度と傷みの箇所が見える。
 そこで、あまおうを諦めて、とちおとめを見ると、パック越しに見ても、
(あ~ら、鮮度がいいわ!)
 と、パックを裏返しても問題なく、買って来るようになった。あまおうとは甘味が微妙なところだが、予想以上に美味しい。
 あまおうよりとちおとめのほうが鮮度が高い理由が、テレビの番組を見てわかったような気がした。
 物流の2024年問題がテーマの情報番組だったが、もうすでに始まっているらしく、福岡産のあまおうと栃木産のとちおとめでは運送の所要時間の違いがあったのだ。1日違えば鮮度も違うのは無理もないこと。
 週に1度行く、〈開かずの踏切〉を越えた、駅の反対側のスーパーでも、電車での外出の帰りの成城石井でも、新宿のデパ地下でも、あまおうよりとちおとめのほうが鮮度が高くなってきて、やがて、とちおとめの鮮度も落ち気味の時期になり、ついに店頭からイチゴが消えた。
 ――と、思っていたら、あるスーパーに、イチゴのパックが棚の上にあり、
(あああっ、イチゴ!!)
 思いがけなくてササッと近寄って見る。
(やよいひめ。イチゴっぽいネーミング。食べたことないわ)
 群馬産。手に取る前にパッケージ越しに見て選ぶ。選んだパックを裏返してみると、表側より小粒が多い。
 イチゴの種類は多数あり、全部食べてないから一概には言えないけれど、小粒は甘味が薄い。
 鮮度も良く、傷みもなさそうなので、1パック買った。
 イチゴの味はする、それなりの美味しさ。
 最寄り駅とは逆方向にあるスーパーで、月に2回ぐらい行く。通りに面して、広いキャベツ畑や、昭和の雰囲気の商店やクリニックや飲食店などがポツリポツリとあったり、森のように鬱蒼と樹木が繁った家か施設かわからないし建物があるのかどうかも不明の場所など、眺めながら歩いて行くと新鮮な気分に包まれる。もう少し距離があれば散歩コースになるかもしれない。
 初めてその通りを歩いていて交差点に来た時、マップで見ていたもう1軒のスーパーへ行くつもりだったが、右か左かわからず、通りかかった高齢女性に聞いた。ポシェットをかけていただけの女性で、この辺りに住んでいそうな人という直感は当たった。すぐ教えてくれて、途中まで私も行くと言うので少しお喋りしたが、毎日、夕方、この辺りをウォーキングしていると微笑んでいた。おっとりしている雰囲気で、平穏で幸せに暮らしているように想像された。
 今年の冬みかんが終わった時期に、清見オレンジを産地直送で買って美味しく食べた。1箱25コ詰めで、毎日夕食後に1コ食べていたが、最後まで鮮度は落ちず美味しかった。
 産地直送は〈JAタウン〉で買うが、以前、キウイフルーツ、りんご、みかんも箱詰めで買ったことがある。
 りんごやみかんは1か月美味しく食べられたが、キウイフルーツ30コ詰めは、
(国産のキウイフルーツって、こんなに美味しい!)
 と、食べるたびに呟いたのは20数日ぐらい。届いた時は、追熟が必要という説明書が同梱されていたが、早く食べたくて追熟前から固いキウイフルーツを数日間、食べていた。なくなるころは熟し過ぎで美味しさ不足となった。
〈JAタウン〉でイチゴは冷凍かゼリーなどで販売されているが、それらはあまり食欲をそそられない。最近、買って来るのは、甘夏、キウイフルーツ、小玉スイカ。それと朝食べるバナナ、時々、グレープフルーツや桃など。最近、フルーツもスイーツもよく食べるのに、太らないのである。果糖の摂り過ぎで太った時期もあるが、駅までの往復早歩きや体操&ストレッチや家事の運動の時間が、以前より長くなったためだと思う。
 

転居の数か月後、区役所から特定健診の案内書類が送付されて来た。
 受診の有効期限が3月で、受けないうちに過ぎてしまい、書類は捨てた。
 すると、最近、また特定健診の案内書類が送付されて来た。受診の有効期限は来年3月になっている。
 その有効期限内に体調が悪くなったら受けようと思い、捨てないで保管してある。
 前居住区の時は、5月にクーポン券付きの書類が送付され、有効期限は8月の末だった。
 居住区によって、そんなに違うものなのかと不思議。
 親しい人に話すと、
「体調が悪くなったら健康診断どころじゃないでしょ、病院へ行くでしょ普通、かかりつけ医に診察してもらうでしょう」
 と、呆れられ、それもそうだわと思った。
 その日は就寝時まで〈かかりつけ医〉という言葉が脳にイン・プットされてしまった。
(転居前の〇〇区には、ちゃんといたのに)
(いつ体調が悪くなっても診てもらえるって安心してたのに)
(地球の反対側みたいに遠く感じられる所で開業したから、行けなくなっちゃったし……)
(そうだわ、かかりつけ医を探さなくちゃ)
 いざという時、ちゃんとカルテがあって、診察してくれるかかりつけの医師を探そうと決心した。