皆さまありがとうございます😊
写真は旅行会社さまから春川近郊のものをお借りしております。ありがとうございます😊
その年の秋、ヒョンスは黄金色に輝く木立を病室から眺めていた。彼ははがんを患い、春川の病院に入院していた。医師からは余命は数週間だと告知されており、残していく妻ギョンヒや娘のユジン、ヒジンのことが心配でならなかった。ヒョンスはベッドサイドに置いたラジオから流れるクラッシック音楽番組を聴いていた。するとアナウンサーが『韓国の有名なピアニストのカンミヒさんの曲です』と言ってピアノ曲が流し始めた。その曲は何という曲かわからなかったが、ミヒらしく情熱的でありながらも、どこか冷たい感じのする演奏だった。ヒョンスは枕にもたれかかると、静かに目を閉じてその曲を聴き続けた。記憶はずっと昔に戻り、ミヒとの思い出を辿り始めた。
ミヒと初めてあった日、ヒョンスはミヒのことを天使だと思った。ピアノを弾いている彼女は、今まであった誰よりも美しかったし気高かった。ヒョンスは一目で彼女に恋をしてしまった。しかし、恥ずかしくて恥ずかしくてしばらくは近づくこともできなかったのを覚えている。そのうちミヒが自分に好意を持っていることに気が付いたが、初めのうちは信じられなかった。それは自分は無学で平凡な少年だったし、彼女は神様に選ばれた特別な人間だと思ったからだ。住む世界が違いすぎる、そう思った。しかし、話してみると彼女はとてもまじめでひたむきな少女だった。気位は高かったが、誰よりも情熱的で努力家で才能があって、、、ヒョンスはそんなミヒを応援していた。ピアニストになる夢をかなえてほしいと思っていた。
しかし、高校と言う楽園から卒業した後は、厳しい現実を突きつけられた。ヒョンスは生活を維持するという現実を直視しなけければななかった。彼は弟妹を1人前にすることに集中した。一方でミヒは大学で夢に向かってひたむきに努力していた。はじめのうちは純粋に応援していたヒョンスだったが、いつしかミヒの夢と自分の現実的な夢とは大きな隔たりがあることを知った。二人は住む世界が違いすぎた。ヒョンスは自分がミヒの夢の一部になれないことを痛感していた。ミヒはやがてピアニストになるだろう。その時、自分はミヒの隣で何をしていればいいのだろう。家族を捨ててミヒとピアノの演奏旅行に同行している姿など、とても考えられなかった。ヒョンスは少しづつ二人の関係を悩むようになっていたが、ミヒの前ではそんな姿を出さないようにしていた。不安や悩みを口にすることはできなかった。幸いにもミヒは自分のことで精いっぱいらしく、ヒョンスの悩みにはまったく気が付かないようだったが。やがて二人の関係はミヒの両親の知るところとなり、当然ながら交際を猛反対された。焦ったミヒはヒョンスに結婚を促すようになった。時には『子供を作ってしまおう』とさえ言うようになった。しかし、ヒョンスは結婚するまで関係を持つつもりはなかったので、彼女には指1本触れなかった。今思えば、傷が浅いうちに別れればよかったのだと思う。しかし、ヒョンスはそうしなかった。ミヒの情熱に押しきられて、婚約指輪を渡し、両親にあいさつに行ったのだった。その結果両親にはずいぶんひどいことを言われて追い返された。しかし、ヒョンスを落ち込ませたのは、ミヒの両親の言葉ではなかった。自分の本当の気持ちに気が付いたからだった。ミヒに対する気持ちは『憧れ』であり『好き』ではあったけれども、『愛している』のではないということだった。両親が自分との結婚に猛反対したのも、自分の言葉に真実がないと本能的に感じ取ったのだろう。ヒョンスはミヒに本当のことを言えずに苦悩した。そんな時だった、ミヒがオーストリアに留学すると言い出したのは。こうしてヒョンスとミヒは1年間離れ離れになった。
その年の秋、ヒョンスは黄金色に輝く木立を病室から眺めていた。彼ははがんを患い、春川の病院に入院していた。医師からは余命は数週間だと告知されており、残していく妻ギョンヒや娘のユジン、ヒジンのことが心配でならなかった。ヒョンスはベッドサイドに置いたラジオから流れるクラッシック音楽番組を聴いていた。するとアナウンサーが『韓国の有名なピアニストのカンミヒさんの曲です』と言ってピアノ曲が流し始めた。その曲は何という曲かわからなかったが、ミヒらしく情熱的でありながらも、どこか冷たい感じのする演奏だった。ヒョンスは枕にもたれかかると、静かに目を閉じてその曲を聴き続けた。記憶はずっと昔に戻り、ミヒとの思い出を辿り始めた。
ミヒと初めてあった日、ヒョンスはミヒのことを天使だと思った。ピアノを弾いている彼女は、今まであった誰よりも美しかったし気高かった。ヒョンスは一目で彼女に恋をしてしまった。しかし、恥ずかしくて恥ずかしくてしばらくは近づくこともできなかったのを覚えている。そのうちミヒが自分に好意を持っていることに気が付いたが、初めのうちは信じられなかった。それは自分は無学で平凡な少年だったし、彼女は神様に選ばれた特別な人間だと思ったからだ。住む世界が違いすぎる、そう思った。しかし、話してみると彼女はとてもまじめでひたむきな少女だった。気位は高かったが、誰よりも情熱的で努力家で才能があって、、、ヒョンスはそんなミヒを応援していた。ピアニストになる夢をかなえてほしいと思っていた。
しかし、高校と言う楽園から卒業した後は、厳しい現実を突きつけられた。ヒョンスは生活を維持するという現実を直視しなけければななかった。彼は弟妹を1人前にすることに集中した。一方でミヒは大学で夢に向かってひたむきに努力していた。はじめのうちは純粋に応援していたヒョンスだったが、いつしかミヒの夢と自分の現実的な夢とは大きな隔たりがあることを知った。二人は住む世界が違いすぎた。ヒョンスは自分がミヒの夢の一部になれないことを痛感していた。ミヒはやがてピアニストになるだろう。その時、自分はミヒの隣で何をしていればいいのだろう。家族を捨ててミヒとピアノの演奏旅行に同行している姿など、とても考えられなかった。ヒョンスは少しづつ二人の関係を悩むようになっていたが、ミヒの前ではそんな姿を出さないようにしていた。不安や悩みを口にすることはできなかった。幸いにもミヒは自分のことで精いっぱいらしく、ヒョンスの悩みにはまったく気が付かないようだったが。やがて二人の関係はミヒの両親の知るところとなり、当然ながら交際を猛反対された。焦ったミヒはヒョンスに結婚を促すようになった。時には『子供を作ってしまおう』とさえ言うようになった。しかし、ヒョンスは結婚するまで関係を持つつもりはなかったので、彼女には指1本触れなかった。今思えば、傷が浅いうちに別れればよかったのだと思う。しかし、ヒョンスはそうしなかった。ミヒの情熱に押しきられて、婚約指輪を渡し、両親にあいさつに行ったのだった。その結果両親にはずいぶんひどいことを言われて追い返された。しかし、ヒョンスを落ち込ませたのは、ミヒの両親の言葉ではなかった。自分の本当の気持ちに気が付いたからだった。ミヒに対する気持ちは『憧れ』であり『好き』ではあったけれども、『愛している』のではないということだった。両親が自分との結婚に猛反対したのも、自分の言葉に真実がないと本能的に感じ取ったのだろう。ヒョンスはミヒに本当のことを言えずに苦悩した。そんな時だった、ミヒがオーストリアに留学すると言い出したのは。こうしてヒョンスとミヒは1年間離れ離れになった。
ヒョンスはその1年の間、ほとんど自分からミヒに連絡を取らなかった。そして前よりいっそう木工所の仕事に精を出した。大工の知り合いのところへ行って建築についての勉強も始めた。毎日が生き生きとし始めて自然と笑顔になることが多くなっていった。そんな時だった、ギョンヒと出会ったのは。ギョンヒは行きつけの食堂で働いている店員だった。彼女はミヒのようにきれいではなかったし、派手でもなかったけれど、一緒にいると安心できる、そんな女性だった。ヒョンスはいつのころからかギョンヒに好意を持つようになっていた。それはミヒと出会った時のような強烈な恋心ではなかったけれども、穏やかに静かに育んでいく愛情だった。ヒョンスは食堂に寄ると、たわいもない日常の小さな出来事を楽しく話せた。時には自然に疲れや愚痴を話すこともできた。彼女とは、毎日毎日の小さな喜びを一緒に積み重ねていくことが出来るだろう。どんな悲しみでも共に手を携えて越えて行けるだろう。そしてお互いの夢を語り合い、尊重できる。彼女といると、自分らしくいられる。自分らしく生きられる。こうしてヒョンスはギョンヒと一緒に家庭を作りたい、と思い始めるのだった。
そんな時だった。ミヒから帰国するという連絡があった。ヒョンスは意を決して待ち合わせの場所である教会に行った。教会についてヒョンスは思った。神様の前で決してうそをついてはならないと。久しぶりに会うミヒは今までで一番美しかった。ステンドグラスから落ちる木漏れ日はミヒの白い肌を際立たせていた。そして黒い髪は光で艶々と輝き、美しい顔の周りを縁取っていた。どこかから『主よ人の望みの喜びよ』が厳かに聴こえており、音色が相まってヒョンスは思った。『ミヒは天使だ』と。しかし、地上の人間は決して天使と結ばれることはない。天使は天使であり、あがめる者だが、ともに人生を歩んでいくものではないのだ。こうしてヒョンスはミヒに別れを告げた。あの時のミヒの悲しそうな顔を決して忘れないだろう。そして、それからの修羅場は人生で最も辛いことの一つだった。
主よ人の望みの喜びよ
ヒョンスは窓の外に舞い踊る黄金色の葉を見つめた。今でもあの当時のことを思い出すと、ミヒには申し訳ない気持ちでいっぱいになる。彼女は今幸せでいるだろうか。自分よりずっとステキな誰かと幸せであってほしい。彼女は素晴らしい人なのだから。そして自分が天に召されたとき、本当の天使に会えるのだろうか。天使というのはミヒのような姿なのだろうか。ヒョンスはそんなことを想ってフッと苦笑いをした。癌になったのも、ミヒをあんな風に捨ててしまった罰が当たったのかもしれないな。今となっては残り少ない人生を省みて、静かに涙を流すのだった。ラジオからは『主よ人の望みの喜びよ』が厳かに流れ続けた。