エンビシキチョウ(Enicurus leschenaulti frontalis) White-crowned Forktail
エンビシキチョウのチャームポイントは何と言ってもその桜色の足である。
実はこれほどに淡色の足の鳥は他にあまり居ないのではないだろうか。
ダナンバレーにはキセキレイも生息しているけれど、エンビシキチョウはそれよりもっと“セキレイ的な”位置づけの鳥。
彼らは道路上という開けた環境では茂った林内よりも餌の虫が見つけやすい場合があることを良く知っていて、毎日こうしてメインロードに出てきては餌を探して歩く。
体型は台湾で見たシロクロヒタキのロングボディ・バージョンといった感じ。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/1st Jan, 2013】
ズアオヤイロチョウ(Pitta baudii) Blue-headed Pitta
2013年、元日。例年の私ならば実家へ戻り伊豆沼にでも行こうかと考えているところだが、今年はジワジワと暑い原始の森のど真ん中で新年を迎えた。
ここはマレーシア、ボルネオ島の中央部東の熱帯雨林。今朝は、ここ数日には珍しく雨が降っていない。
キビタイヒヨドリの声をBGMに暗い森へと踏み入ると、タチの悪い吸血昆虫ヌカカが腕じゅうにまとわりついてきた。しかし長袖を着込むと暑くて頭がくらくらしてくるため、仕方なくヌカカに献血してやりながら歩いた。
トレイルを歩いてしばらくすると、十数メートル先から美しく、それでいて少し哀しげにも聞こえる特徴的な声がした。もちろん聞いた途端すぐにビビッときた。ズアオヤイロチョウの声だ。
こいつの声なら私でも真似できる。私が口笛で声を返してやること数秒後....「フィユゥ~」とリアクションがあった!
距離を測りながら、足音を立てずにそっと歩く。相手の声が相当近くに感じる場所まで踏み込み、姿勢を低くして待つ。
「フィユゥ~」.....「フィユゥ~」.....
私とこの鳥の会話が何度か続いた後、真っ暗な林内で何か動いたと思った次の瞬間、鮮烈な空色と高級絨毯のような赤色を併せ持つ、ズアオヤイロチョウのオスが姿を現した。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/1st Jan, 2013】
コシラヒゲカンムリアマツバメ(Hemiprocne comata comata) Whiskered Treeswift
コシラヒゲカンムリアマツバメの飛翔形は美しい。
長い翼と尾でしなやかに風を切り、スーッと実に無駄の無い飛び方をするのである。
カンムリアマツバメの仲間は断崖や洞窟に営巣するアマツバメ類と違い、林縁などで餌をとることに長けているため、こうして木にもよくとまる。
飛翔を停止する際には翼を目一杯広げてブレーキをかけた状態でフワッと枝にとまり、そのままほんの数秒間翼を広げたままバランスをとる。
この時に見える高速で飛翔しながら虫を捕食することに特化した細長い翼は、格好いいの一言に尽きる。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/1st Jan, 2013】
クロアゴヒメアオヒタキ(Cyornis caerulatus rufifrons) Large-billed Blue Flycatcher/female
クロアカヤイロチョウを見た興奮が冷めやらぬままに暗いトレイルを歩いていた私は、とある鳥を見て一気にクールダウンした。Blue Flycatherであることははすぐに見て取れたが、種まではすぐに分からなかった。
例え海外での鳥見でも、ちゃんと予習さえすれば見た瞬間に殆どの鳥はわかるけれど、たまに自分の辞書に載っていない鳥が出ることももちろんある。
こういう鳥のことを人は「ワカンネードリ」とか「クエスチョンドリ」など呼び、仲間内でああでもないこうでもないと議論を醸す。このワカンネードリの出現も鳥見の醍醐味の一つで、答えに辿り着いた時はとても嬉しい。しかし分かるまでは延々と頭を悩ませ眉間にはシワがよりっ放しになる。
さて、上の写真の鳥がこの時見たワカンネードリ。
ジズはボルネオヒメアオヒタキの雄の幼鳥または第1回冬~夏羽だった。理由は喉の橙色が腮まで達していたことと、背面は青色だが頭部は茶色で、体形や止まり姿もマレーシアヒメオヒタキとは違ったからである。
しかし識別が怪しい鳥をフィールドで断定してしまうのは危険だと思い帰ってからよく考察してみた。
Blue Flycatcherの中でミヤマヒメアオヒタキ、コビトヒメアオヒタキ、マングローブヒメアオヒタキは生息域が違うため頭の隅には置いてはおくが選択肢から外して考える。マレーシアヒメオヒタキは先述の通り違うとして、残りはボルネオヒメアオヒタキかクロアゴヒメアオヒタキとなる。
両者の幼鳥は頭部にコサメビタキの幼鳥のような顕著な鱗模様がある(クロアゴヒメアオヒタキの幼鳥に関しては下嘴の大部分が黄色になる)ため、考えられるのは雄の第1回冬~夏羽か、またはクロアゴヒメアオヒタキに関しては亜種C. c. rufifronsの雌ということも考えられる。
しかし私の持つフィールドガイドのBIRDS OF BOREO(Susan M., 2009.)にはクロアゴのrufifrons雌は喉から腮にかけてが白く描かれていた。これは私がはじめボルネオヒメアオヒタキと思った理由だった。
ここで背面の青色に注目すると、雄成鳥の青味よりも明らかに控えめな青色であることに気が付く。コルリのような青だ。ボルネオヒメアオヒタキやクロアゴヒメアオヒタキの雄は背面が茶色の幼羽から換羽する際には鮮やかに青い成鳥羽がモザイク状に出現するため(三列~初列は除く)、このように一様に鈍い青色になるとは考えにくい。
そんな時、ロッジの売店で何気なく、私の持っていないPhillipps' Field Guide to the Birds of Borneo(Quentin P., 2012.)を立ち読みしていると、クロアゴヒメアオヒタキのrufifronsの雌の背面は一様に暗青色に描かれているではないか(喉の色はちゃんと見るのを忘れた)。
やっとこれで殆ど解決と思いきや、写真の個体は足が肉色をしていることに気が付いてしまった。これではここまで考えてきたことが総崩れとなってしまう。BIRDS OF BOREOにはBlue Flycatcherの足は皆黒色に描かれていたからだ。
けれど色んな画像を見ているうちに、クロアゴヒメアオヒタキに限らずヒメアオヒタキ類の足の色は黒~肉色までバリエーションがあることが分かった。まったく、これが図鑑を全部信じてはならない良い例だ。
嘴は大きく太め、頭部は褐色。腮から下尾筒までは淡橙色、このうち胸は橙色味が強く腹は白色味がありこのコントラストがある。背面は肩羽~大雨覆まで暗青色、三列~初列は褐色で暗青色味が少しあるようにも見える。尾羽下面の色は前ボケのため不明。
結局のところ、クロアゴヒメアオヒタキの雌成鳥ではないかと私は思う。
キムネハナドリモドキ(Prinochilus maculatus) Yellow-breasted Flowerpecker
キムネハナドリモドキは胸から腹が黄色でそこに緑の縦斑が入り、結構綺麗な鳥。頭頂には良く見るとオレンジのパッチがある。ハナドリの仲間は頭頂にだけ赤やオレンジがあるものが割りと多い。
オオキミミクモカリドリ(Arachnothera flavigaster) Spectacled Spiderhunter
こちらはオオキミミクモカリドリ。アイリングは顕著に太く、耳の黄色いパッチも端がまとまってばらけない。
キミミクモカリドリと比べてみると違いが良く分かる。
ルリノドハチクイ(Merops viridis viridis) Blue-throated Bee-eater
歩いてロッジへと戻る頃にはもうお昼になっていた。
フライングキャッチをするタイプの鳥にとって電線は良い止まり木になる。
この時はルリノドハチクイとリュウキュウツバメがいた。リュウキュウツバメは連続飛翔で虫をとるが、休息をかねてフライングキャッチ式の採餌をする時もある。
リュウキュウツバメ(Hirundo tahitica javanica) House Swallow
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/31th Dec, 2012】
クロアカヤイロチョウ(Pitta ussheri) Black-and-crimson Pitta
今日は朝から晴れていて、気温も高い。雨季の今、この状況はとても貴重なグッドコンディションだ。
キャノピーウォークウェイから降りてしばらくメインロードを歩くと、ふいにすぐ近くの藪から少し儚げな声が聞こえてきた。
「ヒューーーーィッ」
これを聴いた私は車に轢かれそうになった猫みたいにビクっとなって固まり、そしてこみ上げてくる、はやる気持ちを精一杯抑えて自分を落ち着かせた。危なくこの鳥の名を叫んでしまうところだった。
スローな動作でその場にしゃがみ込む私。
一定の間隔で鳴くsongを聴きながら待っている時には震えがおさまらなかった。
しばらくしてふいに、込み合った藪の中に横たわる倒木の上に鳥のシルエットが上った。
クロアカヤイロチョウだ....!
まず双眼鏡でこの鳥を見た私は、あまりの美しさに絶句した。
上背は深いガーネット色の紫、その色は背や三列に至るまでにはグラデーションで藍色、深い青色へと変わる。雨覆にかけてその青色が急激に淡色になると同時に金属光沢を帯び、炎色反応をも思わせる羽色となっている。胸から下尾筒にかけては深紅が覆い、高級感さえ醸し出す。
このピッタは以前、後頭が赤いムラサキヤイロチョウと同種で別亜種の関係だったが、近年別種になった。
Noisy, Blue-wingedに続き、このピッタは私の人生の中で見た3種目のヤイロチョウとなった。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/31th Dec, 2012】