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「コンビニ人間」村田沙耶香

2023年10月18日 | 本 レビュー

「コンビニ人間」2018/9/4

村田沙耶香

主人公は古倉恵子36歳

コンビニバイト歴18年、未婚、彼氏なし

大学1年の時に始めたコンビニバイトを、そのまま卒業後も続けている。

コンビニの「店員」でいるときのみ、世界の歯車になれる。

 

この本を読んで、かなり心が痛くなりました。

普通って何だろう?

 

主人公の恵子は愛情深い両親と妹との4人家族

恵子が幼稚園の頃、公園で小鳥が死んでいたことがある。

他の子供たちは泣いていたが、恵子は素早く小鳥を掌の上に載せて

ベンチで雑談している母の所へ持って行った。

そして母に「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」と言って

母や回りにいた大人をぎょっとさせてしまう。

 

小学校に入ったばかりの時は、男子が取っ組み合いのけんかをして騒ぎになったとき

「誰か先生読んで来て!」「誰か止めて!」悲鳴があがり

そうか、止めるのか、と

そばにあった用具入れを開け、中にあったスコップで暴れる男子のところへ走って行きその頭を殴った。

先生に怒られても、恵子は何を言われているのかわからなかった。

 

教室で女の先生がヒステリーを起こして教卓を出席簿で激しく叩きながらわめき散らしたときは

黙ってもらおうと思って先生に走り寄って、スカートとパンツを勢いよく下した。

若い女の先生は仰天して泣き出して、静かになった。

隣のクラスの先生に事情を聞かれた恵子は

大人の女の人が服を脱がされて静かになっているのを、テレビの映画で見たことがあると説明した。

 

(本文より)

「なんで、恵子にはわからないんだろうね……」

学校に呼び出された母が、帰り道、心細そうに呟いて、私を抱きしめた。

 

父も母も困惑してはいたものの、私を可愛がってくれた。

父と母が悲しんだり、いろんな人に謝ったりしなくてはいけないのは本意ではないので

私は家の外では極力口を利かないことにした。

 

必要なこと以外の言葉は喋らず、自分から行動しないようになった私を見て

大人はほっとしたようだった。

(本文終わり)

 

恵子の両親はすごいなあと思った。

たとえば私が子供の頃、上記に書かれたようなことをしてしまったら、

うちの親だったら頭ごなしに叱るだろう。

しかし恵子に悪気がないのだという事を、少なくとも両親は理解していた。

 

恵子は「どうすれば『治る』のかしらね」と両親が相談しているのを聞き

自分は何か修正しなければならないのだなあと思った。

カウンセリングに連れていかれたこともあった。

 

でも、これってたぶん本人の生まれながらの特性で、治せるものでもないんだろうなと私は感じた。

同時に恵子がその特性をひどく拗らせないですんだのは、

困りながらも愛し続けてくれた両親のおかげでもあるのだと思った。

 

大学を卒業後、就職せず、コンビニでアルバイトを続けることや

結婚も出産もしないということが、そんなに変なことなんでしょうか?

ちゃんと、実家を出て自立してるんだし...

 

私からみたら、バイトとはいえ、同じ職場で18年も働き続けることがすごいと思う!

私は正社員も経験していますが、仕事は結構転々として、アルバイトも含め一番長いところで7年でした。

それにコンビニの仕事って幅が広そうで、いくらマニュアルがあるからって

簡単な仕事とも思えなくて、私は未経験です。

 

話の中ですごくむかついたのが、友人の家でバーベキューをしていた時のこと。

14,5人ほど集まった中で結婚していないのは、恵子の他に2人だけだった。

 

近況報告をする中で、恵子の番が来て、コンビニでアルバイトしているというと

友人の1人から「ああ、パート?結婚したんだねー!いつ?」

恵子が「ううん、してないよ」と答えると

友人が「あの、え、それなのにアルバイト?」と戸惑われ

恵子が「うん。ええと私は身体が……」と答える。

(恵子は妹からのアドバイスで、身体が弱いからアルバイトをしていると言い訳するようにしている)

すると友人の旦那さんが「え、でも立ち仕事でしょ?身体弱いのに?」

と怪訝な声を出した。

恵子が「ええと、他の仕事は経験がないので、体力的にも精神的にも、コンビニは楽なんです。」

と答えた恵子を友人の旦那さんは、まるで妖怪を見るような顔で見た。

友人の旦那さんはさらに「え、ずっと……?いや、就職が難しくても、結婚くらいした方がいいよ。

今はさ、ほら、ネット婚活とかいろいろあるでしょ?」

 

別の友人の旦那さんが「うんうん、誰でもいいから相手見つけたら?女はいいよな、その点。

男だったらやばかったよ」

恵子に婚活サイトに登録しろと言い、みんなで写真撮ろうとか言ってくる(そういう写真は受けがいい?)

恵子が「それって、やってみるといいことありますか?」と素朴に質問すると

「いや、早いほうがいいでしょ。このままじゃ駄目だろうし、焦ってるでしょ、正直?

あまり年齢いっちゃうとねえ、ほら、手遅れになるしさ」

もうここまでくるとセクハラじゃないですかね?

公開処刑みたいで、すごくすごく気分が悪くなりました。

なんで、他人のことがそんなに気になるんだろう?

普通という枠の中に入れたがるのはどうしてなのだろう?

多様性が叫ばれる中、ちょっとでも枠組みから外れた人間は、結局生き辛い世の中ってことなのか...

🍀

🍀

🍀

恵子はコンビニの元同僚だった白羽という男性と行きがかり上同棲することになる。

と言っても男女の関係ではない。

白羽と一緒にに住んでいることを、うっかりコンビニの店長に話してしまってから

またたくまにそのことがバイト仲間に広がり、なんだかみんなうれしそうだ。

そして恵子は知らなかったのだが、どうやら皆、たまに飲み会をしているようで

急に恵子にも来いと誘ってくるようになるのだ。

 

これって恵子も「普通の人間」として認められたってことなんでしょうか?

(いや、普通の人間てのもよくわからないですが…)

それにしても、なんだか寂しくないですか...今まで仲間外れにされてたってことでしょう?

 

白羽はいわゆる「ヒモ」ってやつで、恵子にコンビニを辞めさせて就職しろと言う。

そして俺を養ってくれということらしい。

恵子は白羽と住んでいれば、一応普通の人間として、世間から認めてもらえる。

白羽はもう働きたくない。女に寄生することをずっと願ってきたのだという。

恵子に意地でも寄生し続けるというんだから、とんでもないヤツだ😠

しかし恵子は、白羽が何を言っているのか、さっぱりわからない...

 

あんなに頑張って続けたバイトも辞めるときはあっけなかった。

結局バイトってこういうもんなんだろう..私も経験あります。

 

その後、派遣の面接へ行くため白羽は恵子を送ってくれた。

早めに着いたので、白羽はトイレへ行くという。

公衆トイレなどあったかなと思ったら、白羽はコンビニへ入って行った。

恵子もトイレに行っておこうと、コンビニへ入った。

そのとき恵子にコンビニの声が流れ込んできたのだ。

そしていつの間にか商品の陳列を整えはじめ、

レジにいた女の子は勝手に恵子のことを、本社の社員だと思い込んでいた。

 

トイレから出てきた白羽に見つかり恵子は店の外へ連れ出されたが

結局恵子は、面接先へ断りの電話を入れ、コンビニ店員として生きて行くことを選ぶ。

そこに白羽は必要ないのだ。

 

一応この話、私はハッピーエンドだと思っています。

私は夜中のコンビニが好きです。

たまにフラッと買い物に出てスウィーツを買ってきたりします。