勝手に書評

私が読んだ本の書評を勝手に行います。

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い / ジョナサン・サフラン・フォア

2012-06-02 | 小説
タイトル : ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
著者 : ジョナサン・サフラン・フォア / 近藤隆文訳
出版社 : NHK出版

---感想---
トム・ハンクスとサンドラ・ブロックが共演して映像化された同名の映画の原作。

いやぁ、私にとっては難解でした。「ヴィジュアル・ライティング」と言われる、紙面上の工夫(印刷上の工夫)が色々となされているんですが、それも難解さを和らげるどころか、むしろ、かえって読みにくくなったり・・・。もう少し分かりやすく、読みやすくするという選択肢は無かったのかなぁ。

内容的には、9.11で父を失った少年が、父の残した遺品の謎を探る旅をしながら、様々な経験をしていくという、良いテーマだとは思うんですけどね。加えて、実は、父方の祖父は第二次大戦時にドレスデン空襲を経験しているという設定で、ドレスデン空襲は9.11になぞらえられている様です。選んだテーマ的には、中々いいと思うんですが・・・。

文章的な読みにくさ、印刷上の読みにくさ、難点は色々ありますが、中々興味深いテーマを選んだ作品だと思います。

真夏の方程式 / 東野圭吾

2012-05-26 | 小説
タイトル : 真夏の方程式
著者 : 東野圭吾
出版社 : 文藝春秋

---感想---
東野圭吾のガリレオシリーズ。

この所、東野圭吾と言えば、新参者でおなじみの加賀恭一郎シリーズが多かったのですが、久しぶりの湯川学登場です。って言うか、はじめ、加賀が出てくると(なぜか)思い込んでいて読んでいたので、いきなり湯川が出てきて面食らいました(苦笑)。

これまでのガリレオシリーズでは、湯川は草薙や内海から頼まれて事件に取り組んで行きますが、この作品では、その“約束”を破って、湯川自ら事件に取り組むという形態を取っています。そう意味では、これまでのガリレオシリーズとは一線を画しています。加えて、これまでのガリレオシリーズでは、曲がりなりにも犯人を検挙して事件が解決されていますが、この作品では、そう言う点もこれまでとは異なっています。それらの違いから、これまでのガリレオシリーズとは違うテイストの、中々面白い作品に仕上がっています。

ところで、作中、デスメックと言うJAMSTECを彷彿させる独法が行う海洋調査に対して、環境保護運動を(一部)地元住民が行うと言う設定があります。その中で、環境保護と開発の両立を巡る「開発と環境保護を両立させるならば、その双方について同等程度の知識が必要である。一方だけを重視するのは傲慢だ。相手の仕事や考え方をリスペクトしてこそ、両立の道も拓ける」と言う湯川の発言が、実際の世界にも当てはまるのでは無いかと思われて、非常に興味深かったです。これって、いまの原発と再生可能エネルギーを巡る騒動にも当てはまりますね。

久しぶりのガリレオシリーズ。中々良かったです。

ヒート / 堂場瞬一

2012-05-20 | 小説
タイトル : ヒート
著者 : 堂場瞬一
出版社 : 実業之日本社

---感想---
堂場瞬一のスポーツ小説シリーズ最新刊。今度の舞台は、マラソンです。

ここ数年、東京マラソンとか、大阪マラソンとか、市民参加型の都市マラソン流行ですが、この物語が舞台のマラソンは、そう言う市民参加型のマラソンとは一線を画す世界記録樹立を目指す一流のマラソンになっています。確かに、お祭り騒ぎのマラソンとは異なる、とことん記録にフォーカスしたマラソン大会があってもいいかもしれません。ただ、それが知事の思いつきというところが、「本当に有りそう」と言う思いにさせるところですね(苦笑)。

舞台が神奈川県と言う事で、箱根駅伝にも触れられています。箱根駅伝は正月のイベントとしては確かに見応えがあるんですが、大学の宣伝の場であったり、その後の選手の陸上競技活動に繋がらないという箱根駅伝の功罪も、本作ではタブー視せずに触れられています。勇気あると思います。

堂場瞬一の作品に共通ですが、この作品も、最後のクライマックスは読者の想像に任せると言う書き方になっています。賛否ある書き方だと思います。時々だと、そう言う伏せた結末もいいんですが、ことごとくそう言う結末だと、ちょっとなぁと言う気もしてしまいますね。

小説・震災後 / 福井晴敏

2012-05-03 | 小説
タイトル : 小説・震災後
著者 : 福井晴敏
出版社 : 小学館文庫

---感想---
タイトルにある“震災”とは、もちろん、3.11の東日本大震災の事。一般市民の生活に焦点を当て、日本の「未来」について語っている作品。

福井晴敏と言えば、『亡国のイージス』とか、『戦国自衛隊1549』とか、『終戦のローレライ』とかの、戦争モノ・自衛隊モノが強い作家のイメージですが、この作品はそれらの作品群とは一線を画しています。原発事故を下敷きに、親子のあり方、日本人のあり方を描いており、ある意味非常に重い、そして、含蓄のある作品になっています。

読んでいて、最近の原発を巡る騒動にも関連して「そうだよなぁ。」と思うことしきりです。原発の再開にしても全面廃止にしても、もはやエネルギー議論というよりイデオロギー論になってしまっていて、本当に日本の「未来」を考えた議論になっているのかが疑問です。作中の「未来を返せ!」と言う少年のセリフを、もっとちゃんと考える必要があると思いました。

タイトルは地味ですが、内容は重厚で充実しています。考えさせられました。

コラプティオ / 真山仁

2012-03-31 | 小説
タイトル : コラプティオ
著者 : 真山仁
出版社 : 文藝春秋

---感想---
“リーダーシップ”あふれる総理大臣が登場したことにより将来への希望の兆しを見せる日本。しかし、その希望の兆しが虚像だったら・・・。

元々は、別冊文藝春秋に連載していた同名の小説らしいのですが、3.11東日本大震災の発生とそれに伴う福島第一原発事故を受け、内容を大幅に加筆修正して刊行されています。3.11をベースにしていますので、事あるごとに3.11が語られますし、福島第一原発事故も語られています。加筆修正前の作品を知らないのですが、これほどの加筆だとすると、ほとんど違う作品になってしまっているのではと心配してしまいます。

“有限実行”“リーダーシップ”を旨とする政治家は、一人二人と頭に浮かばないわけではないですが、冷静に考えて彼らはデマゴーグあるいは、究極のポピュリストではなかったでは無いのかな?と思うこともあります。上手く、選挙民をのせていますよね。その意味では、我々有権者は、もっと冷静に考えて、判断する必要があるのかなとも思いました。

最後の結末が、読者の想像に任せるような描き方になっていることについては、私は、ちょっと微妙。せっかくなんだから、もっとはっきりと描けなかったんですかね?

サヴァイヴ / 近藤史恵

2012-03-10 | 小説
タイトル : サヴァイヴ
著者 : 近藤史恵
出版社 : 新潮社

---感想---
サクリファイスシリーズ第三弾。『サクリファイス』の外伝として描かれた短編をまとめた作品。『サクリファイス』の時は、バリバリのサスペンスと言う感じでしたが、二作目の『エデン』、そして本作『サヴァイヴ』と作を重ねるに連れ、サスペンスと言うより、一種の青春小説のような装いを強く感じます。

とは言うものの、内容をよく整理してみると、この『サヴァイヴ』は『サクリファイス』よりも時間的に前の軸で描かれていますね。『サクリファイス』ではいけ好かないとして描かれていた人物たちも、若かりし頃は、若いなりに悩み、成長してきたんですね。

初めからひとつの作品として書かれたと言う感じではなく、基本的に外伝的短編を集めた作品なので、当然、登場人物・時間軸は関連しているので全く無関係というわけではありませんが、それぞれのチャプターがかなり独立しています。そういう意味では、独立して読めるので読みやすくもあり、いきなり違う話になるので読みにくくもあり。

それほど分量があるわけではないので、一気に読むことが出来ました。なんとなく、サクリファイスシリーズは打ち止め的な感じもするんですが、四作目ってありうるんですかね?

バーにかかってきた電話 / 東直己

2012-02-11 | 小説
タイトル : バーにかかってきた電話
著者 : 東直己
出版社 : 早川書房

---感想---
2011年の大泉洋主演映画『探偵はBARにいる』の原作。

『探偵はバーにいる』と言うのは、この『ススキノ探偵シリーズ』第一作のタイトルだが、映画はこちらの『バーにかかってきた電話』を下にしています。映画を見ているので、“俺”の声が大泉洋で聞こえてきて仕方ありません(笑)。でも、この“俺”の雰囲気、大泉洋でいいのかもと思ってしまいます。

この『バーにかかってきた電話』の出版は1993年ですが、フィリピンのベニグノ・アキノ氏暗殺のことを「去年」と描写しているので、物語上の時間軸は1984年頃と思われます。

飄々とした“俺”が主人公な割に、この物語の結末は、非常に悲しい結末になっています。ハードボイルドの話としては、それはそれでいいかもしれませんけどね。

原作がある映画の場合、原作が先かor映画が先かと言う悩ましい問題がありますが、この作品の場合、どちらが先でも、大丈夫だと思います。もちろん、映画化に際して、原作と設定が異なる所が幾つかありますが、それは許容範囲。そういう意味で、テンポよくあっという間に読んでしまいました。

謎解きはディナーのあとで2 / 東川篤哉

2012-02-04 | 小説
タイトル : 謎解きはディナーのあとで2
著者 : 東川篤哉
出版社 : 小学館

---感想---
2011年本屋大賞受賞作品『謎解きはディナーのあとで』の続編。

第一作の軽妙な登場人物達のやり取りは続いています。一作目が話題になった分、二作目となる本作でが期待が高まり、かなり苦しい作りになると思いましたが、なんとかこなしています。ですがやっぱり、影山の毒舌には、最初の時ほどのキレは無いかもしれませんね。毒舌のバリエーションをもっと増やす必要があるかと思います。

例によって、短篇集であるわけですが、最後に収録されている話は次回に続くのみならず、違う展開が期待できる伏線(と言う程では無いかもしれませんが)が仕掛けられていますが、三作目はあるんでしょうかね? でも、この作品の良い所は、登場人物達が飄々としているところにあるので、あまりドロドロするような話は、この作品にはそぐわないかと思います。そうならない事を望みます。

密室の鍵貸します / 東川篤哉

2012-01-21 | 小説
タイトル : 密室の鍵貸します
著者 : 東川篤哉
出版社 : 光文社

---感想---
『烏賊川市シリーズ』第一弾。「千葉の東・神奈川の西」にあると言う烏賊川市。普通に考えると、江戸川区とか、浦安とかのあたりになりますが、どうなんでしょうね? 作中では、特に重要でもないからとそれ以上の追求はされていません。

語り口が軽妙。軽~い感じで描かれていながらも、しっかりと推理小説の基本的なところは抑えて描かれているところは、中々素晴らしいと思います。しかも、物語で起きる様々な出来事が、その後につながる伏線になっているとはね。

ハードボイルドとは一線を画す、中々面白い作品です。

マスカレード・ホテル / 東野圭吾

2012-01-14 | 小説
タイトル : マスカレード・ホテル
著者 : 東野圭吾
出版社 : 集英社

---感想---
一つの場所・時間に、様々な人が集う模様を描く物語を“グランドホテルもの”と言うらしいのですが、物語のクライマックスに向けて、様々な出来事が発生し、雰囲気を盛り上げていくこの物語は、まさしく“グランドホテルもの”です。

ウィキペディアによれば、この物語の舞台となったホテルのモデルは、水天宮のロイヤルパークホテルだそうです。物語の中では“東京駅近く”と描かれていたので、帝国ホテル?ペニンシュラ東京?とか思っていたんですが、ロイヤルパークホテルとは・・・。確かに、地下鉄の駅が直結していると描写されてはいましたが、まさかね。

いやぁ、それにしてもホテルって、本当に色んな人がいるんですね(笑)。物語の中で描かれているのは、もちろんフィクションでしょうが、完全に作者の創作なんでしょうかね?しかも、無関係と思われたある出来事が、実は、この物語の核心に迫る出来事だったというのは、「おおぉ、そう来たか。」と思わされてしまいました。上手いですね。

非常に面白い物語です。ラストシーンも、結構好きです(笑)。