看板に惹かれてふらりと立ち寄った陶磁器展。

そこだけ季節を飛び越えたかのような
たくさんの、花、花、花。
作家は葉山有樹さんという方だそうだ。
普段使いの器ではなく、芸術品としての壺や香炉が並んでいた。

葉山さんは著述家でもあり、
フィンランドの自然をモチーフにした物語も上梓している。
親をなくし、迷宮の森を彷徨うトナカイの子どもと、
道案内するダンゴムシの話だ。
展示会場には、象徴的な場面を焼き付けた磁器のタイルも
並んでいた。
上の作品(パンフより)は物語とは関係ない別の作品だが、
北欧の神秘的な自然と、陶磁器から放たれる青色は、実に良く同調する。
何より、こんなに緻密に描かれた文様を、私は見たことがない。
(紫陽花の香炉は・・・いつ使われるのだっけ)
あまりに季節が遠くて、そんなことを考えてしまったその目の前に、
直径10cmほどの、氏の作品の中ではたいへん小ぶりな香炉が飾ってあった。
上も下も、どこを見ても、青や緑、赤系の紫陽花で埋め尽くされている。
係の人が、わざわざ鍵を開けケースから出してくださった。
「焼く前に、コバルトまたは天然染料を溶いたもので一筆一筆、
線を描いていくのですが、仕上がりと違って表面がざらざらしているので
普通は筆がひっかかったりかすれたりして、こんなに細かい線は描けないのです」
片手に載るほどの、小さな香炉でも、きっと気が遠くなるほどの作業量なのだろう。
さらに、焼くとかなり縮むそうなので、
描いた線と線の間はとても細くなる。
そこに、緑や赤などのほかの色をのせていくというのだから・・・・・・。
会場を出る直前に、葉山さんと会うことができた。
ご年齢は今年50歳。スラッとして物静かな感じだが、表情は柔らかい。
会話にはならなかったが、
こちらから、素敵なお品を見せていただいたことへのお礼を申し上げたら、
優しい、とても優しい、
夕暮れどきにぽっとマッチの火がともったような
笑顔になって、
私はその笑顔に会えただけでも、ここに来てよかった、と思った。

葉山有樹さんの展示は17日(月)まで、
銀座三越にて。
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この日の私は・・・

1月のうちに、と思っていた城間栄順さんの紅型の帯。
着物は約6年前、初めて誂えた松煙染の紬。
銀座を出てから神楽坂の「きもの英」さんの催事にも顔を出し・・・

「福袋」企画で、とても可愛い襦袢と草履をゲット。
この話はまた後日・・・。
(英さんの催事は本日15日まで)