
相変わらず、暑い一日。
本塩沢の単衣に、仁平幸春さん作の「月と わんこ」帯を締めた。
そろそろ、こうした梨地や塩瀬の帯も、登場させたい時期。
「月と わんこ」帯は6年ほど前、銀座「もとじ」さんを通して誂えたのだが、
「あの柄が似合う人はなかなかいない」
何年か経ったある日、
当時のご担当者さんが私にそう、ささやいた。
褒め言葉と嬉しく受け止めつつ、ホントに“もの”にできているかな
ずっと、似合う自分でいられるかな、と自問しながら、
こんにちに至っている。

夜の歌舞伎座。ライトアップされて。
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さて、築地へ行く前に、銀座・和光で開催中(~10/14)の
書道家 矢萩春恵(しゅんけい)さんの展示を観てきた。
前の週に、安倍晋三総理が鑑賞した旨、報道されていたので、
お名前にピンときた人も多いかも知れない。

半世紀以上、文字が持つ表情や心を書道という手段で
表現してきた矢萩さん。
その筆致は一見、自由奔放だが、文字や文章が持つ「世界観」を
誠実に、存分に、あらわしている。
今回の展示のテーマは「お・ん・な」。
上の作品「女」は展示会場入り口に、飾られているもの。
「それぞれの時代を駆け抜けた女性たちの色褪せることのない珠玉の言葉の数々を
“墨魂”込めて書の世界で表現してみました。
歴史の大きなうねりに翻弄されながらも切なく、哀しく、美しく、愛らしく生きた
“おんな”の情感に私なりに迫ってみたのです。」(和光HPより)
平塚らいてう
「元始女性は太陽であった」
宇野千代
「行動することが生きることである」
林芙美子
「私はうんうん唸ってすごして来ました」
などの言葉を、本人が喋る声、フレーズ、抑揚を書にしたら
こうなるのかな、と思わせるさまざまな筆致で表現している。
あるときは力強く、あるときはくねくねと、
墨の色も薄かったり赤味があったり、グラデーションになっていたり。
-字は、書いた人の人柄を語る-なんて聞いたことがあるけれど、
自分の名前すら綺麗に書けない私にとって、
他人の、それも偉人、著名人の言葉に、
本人の人となりを重ねあわせ、さらに言葉そのものが持つ表情も加え
表現するというのは、超人的な才能に思える。
展示には、特に出典のない字も数多く、
私は、自分の名前にも入っている「美」という作品が
とても魅力的だった。
漢字にも見えるし、ひらがなの「み」にも見える、
なめらかで可愛らしい作品。
そして最も心に迫った作品は、
偶然にも、矢萩さんが和光HPにて「特に好き」とコメントしたものと同じ、
樋口一葉の言葉を書いたものだった。
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せつなる恋の心は尊きこと神のごとし
色に迷う人は迷えばいい
情に狂う人は狂えばいい
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この名言を含む8行114字。
達観と開き直り、若さゆえの潔さと頼りなさが共存したような
細めで少し輪郭の硬い、でもこぢんまりとはせず外へと向かう筆致で
書かれていた。
そこに優しさはあまり感じられず、冷笑的にすら思えるのだけれど、
それが樋口一葉の生き様。と、突きつけられたような気がしてならなかった。
会期残りわずか。ご興味のある方はぜひご覧になってみてください。
和光の当該展示の紹介ページはコチラ。