◆第5回句会全作品/19名(2月4日~11日)◆
No.1 小口泰與
犬ふぐり利根の川瀬のきらきらと
届きたる加賀の和菓子や春兆す
草むらを塒とせしか春の雪
山風の尖りしなかや水草(ミグサ)生う
百千の鵙の鳴き声冴え返る
利根川の濁り初めるや蕗の薹
我が影のひと田越えけり蕗の薹
あかあかと日の登りたる余寒かな
出目金の目玉で廻り春兆す
紅梅に雨の切先定かなり
警察犬避けあい駆ける春野かな
榛名湖の波の薄刃や春浅し
外(ト)に出づや春の香りのそこかしこ
山川も祝福せりや雪解を
春光や牧草のゆれ大揺れに
田一枚越えし我が影春兆す
春星の榛名の空のかぎりなし
指栞して初虹を見に出づよ
尻焼きの川湯に入るや春兆す
梢鳴る風音かたし新社員
恋猫や星を小出しに榛名富士
ゆらゆらと日差し揺らぐや磯遊
子が駆けて孫が追い抜く春の山
産土の三山見るや山笑う
No.2 小川和子
薄氷張る池の面に一枝載せ
観梅に来て居し人と会釈する
鍋囲みおれば遠くに「鬼は外」
一枚を羽織り朝東風吹く中へ
確かなる地の胎動よ浅き春
ものの芽に雨の等しく降り注ぐ
枝はみな陽につやつやと桜芽木
桜花芽樹下に仰げば空近き
秩父嶺をはるか連ねて木の芽風
No.3 佃 康水
狛犬の睨みを被し雪積もる
立春の陽を入れ歳時記入れ替える
福の豆受けて明るき音鳴らす
梅東風や海見る丘に牛の鳴く
春満月窓を額とし灯を落とす
膝折りて瀬戸海眺む春の鹿
No.4 藤田洋子
五色幕堂に巡らし節分会
節分の豆を炒る手も弾みくる
節分の星へ開けたる窓一つ
雨上がる土の匂いの二月来る
踏みしめて二月の畦の湿りくる
黒々と二月の畝も雨のあと
No.5 今村征一
湖西晴れ湖南も晴れて春立ちぬ
春立つといふハミングのやうな日に
紅梅の瑞枝に光る雪しづく
寒明けと云ふ節目にも似たるもの
会釈して僧衣去り行く余寒かな
雪催鏡花ゐさうな主計町
透明にして神水の薄ごほり
迷はずに選びたる道冬芽立つ
悴むや小さな嘘が尾を曳いて
一生を記しある墓標雪間草
働く灯ビルに重ねて春立ちぬ
逃げやすき日を奪ひ合ふ猫やなぎ
止まれば車体が雪に埋もれさう
実朝の海凪ぎ霞む富士遥か
雪捨ての場となる川の散歩道
病む母に十歩は遠し下萌ゆる
手ぐすねを引いて糶待つ頬被
天狼の鋭き瞬きにある余寒
No.6 多田有花
寒明けのビルを受け止め空真青
春立つ日日当たりのよき坂下る
立春のビルに触れにし雲一片
朝の雨宿して梅の開き初む
春淡き濡れし落葉を踏みてゆく
呼ばれては鳴き交わしやがて引鳥に
冴返る中に紅梅開きゆく
天を指す梅の小枝に冴返る
寒戻る梅の蕾はためらわず
紅梅のうつむき加減二三輪
梅林に蕾ほころぶ気の満ちて
寒戻る風に竹林ざわめける
立ち寄りて書店を出れば春夕焼け
神域の竹に囲われ余寒かな
稜線の木々のはっきり春早し
暁の後の春眠心地よし
春浅き窓開けるて見る山の木々
竹林に陽は隠れたり春の夕
No.7 古田敬二
観世音紅梅つぼみの裂け初め
くぐりけり山門古びて雪しずく
玄関の生け花にある蕗の董
近寄れば紅梅確かに咲く構え
立春や陽を抱くようにシャツ干され
春の雪載せて刈り込み真四角に
観世音紅梅つぼみの裂け初め
玄関の生け花にある蕗の董
参詣の境内に舞う春の雪
冴え返る伊吹の風を受ける耳
春浅し小枝の先はみな光る
彷徨うがよく見えており春の雪
枝先に眩しき光りの芽
五六寸街を転がる春の雪
切り株の年輪数え二月来る
春の潮引きし運河の壁光る
春耕や引き抜く草の根の強し
洗われし色となる森春きざす
No.8 小西 宏
節分や蕾いっぱい白椿
語らいつつ日脚伸びたる土手のジョギング
節分の夕日にビルの頬赤々
会う度に今日立春と枝仰ぐ
立春の風なき海の月に膨らむ
富士の影ぼんやりとあり春立つ日
寒明けのひかり随所に水の音
なまめかし春の風吹く森の香り
森の影浮かべて紅き夕霞
地衣纏う桜木立や春初め
岩海苔の褐(かち)や越後の酒を酌む
新調のジョギングシューズ草萌える
No.9 津本けい
八つ手の実鉄砲玉に詰めし日も
立春の光どこへも満ちわたり
寒明けや高き梢のうす青く
大空に膨らみ確と桜の芽
葉をこぼる雫豊かに浅き春
梅ひらく薄曇る日に柔らかく
風花や山青く晴れ川も晴れ
連山をはぐれ雪雲覆いけり
淡雪の舞っては止みて満の月
下萌に我が影乗りて柔らかし
星煌めく空よりふわり雪が降る
あの家もこの公園も梅ふふむ
No.10 桑本栄太郎
草萌や背丈伸び居り豆の蔓
サックスの春の聞く珈琲館
蘆の芽や池の陽射しの石の島
薄氷や風の形のそのままに
春雪の峠越えれば在所かな
つまみ見るつぼみ未だし丘の梅
No.11 黒谷光子
隣村へ踏みつけられし雪の橋
軒下の雪は背丈をとうに越え
雪溶けるリズムよき音耳安し
紅梅の幹も花芽もほのと紅
早春の空晴る一曲謡う間に
春雪の伊吹ここより真正面
春雪の竹撓らせて弾ませて
春雪の窓辺明るく陽を反らす
外出を止め句誌を読む春の雪
門前を誰ぞ過ぎ行く春の夜
人声の過ぎて水音春の夜
残雪に届くかそけき夜の灯り
No.12 迫田和代
山間の野にやんわりと春陽さし
岬より春風の吹く港町
窓際の梅が開くよちらほらと
香に溢れ明るく咲いた梅の花
行き帰り佇んで見る紅梅よ
街中に春が顔出す軽やかに
No.13 足立弘
青空に梅の蕾の紅をさす
早朝の土手の散歩や猫柳
枯芝にはや草しかと芽を出せり
No.14 河野啓一
大通り行けばそぼ降る春の雨
春禽の声にようやく目覚めたる
町中のビルも霞みて雨上がり
透き通る朝の冷気や春浅し
春禽の声空に満ち鄙の宿
能勢の里メジロホオジロあまた来て
雪のなか春待つ北の人つよし
水仙花束ねられたる白い香よ
雪雲の遠くへ去りて紅椿
この山河健やかにあれ明日は建国日
紅梅の膨らみ遅き庭であり
花馬酔木少し茜に佇みて
八咫鴉神話のありて建国日
三山に囲まれ古都の春浅し
温かきデイのあいさつ春の朝
No.15 川名ますみ
雪嶺へ飛行機雲の一直線
かがやかに陽のさす山に雪少し
雪少し朝日のそそぐ山襞に
青空と残雪ひかる道を往く
雪晴の道の四方にひかりあり
甲斐よりは残雪の富士銀色に
雪晴に明か棚田の弓形を
桃苑や木の根もとより雪解くる
朝空へ花芽の紅き並木道
No.16 祝恵子
鐘楼の横に並びし梅開く
夕日差す春と思わば柔らかし
春雨にそれぞれ畝の水溜まり
No.17 藤田裕子
一木を雨滴きらめかせ山椿
遠山に春雪新し旧道ゆく
低木を夏柑の黄の撓むほど
No.18 井上治代
数本の切り株白し風冴ゆる
雪晴れの空へ明るき鳥の声
雲間より青空のぞき春立ちぬ
No.19 高橋秀之
冴え返る朝の太陽眩しけり
煌々と橋の明かりや冴え返る
対岸にクレーンが一基冴え返る
※選者の選は、下記の要領でお願いします。
①上記全作品からお選びください。
②特選5句をお選びください。その中の1句にコメントを付けてください。
③選句期間は、2月12日(日)午前0時~正午です。
④選句は、下の<コメント欄>にお書き込みください。選者名もお忘れなきよう、お願いします。
※選句は、多少の遅れがあっても、許されますが、その場合は、ご一報ください。
節分の豆まきは、子どもたちにとってはとても楽しい行事の一つです。そして豆を炒る大人にとっても、転がり弾む豆の動きや翻る手に、春の訪れを目前に控えた喜びが感じられるのでしょう。立春を待つ思いを「豆を炒る手」に込めて捉えた季感が嬉しく伝わってきます。
★門前を誰ぞ過ぎ行く春の夜/黒谷光子
★湖西晴れ湖南も晴れて春立ちぬ/今村征一
★春星の榛名の空のかぎりなし/小口泰與
★鍋囲みおれば遠くに「鬼は外」/小川和子
幾筋もの畝に柔らかに降り注ぐ春雨、その潤いのある畝土にこれからの作物の生長を思い、明るい春の訪れを感じます。
★紅梅の幹も花芽もほのと紅/黒谷光子
★青空に梅の蕾の紅をさす/足立弘
★能勢の里メジロホオジロあまた来て/河野啓一
★雪晴れの空へ明るき鳥の声/井上治代
竹に積もった春の雪が突然重さで落ち、撓んでいた竹が弾んで、立ち戻ったのを偶然見られかのでしょうか。竹と雪の弾み舞う景を想像しています。
枝はみな陽につやつやと桜芽木/小川和子
膝折りて瀬戸海眺む春の鹿/佃 康水
寒戻る梅の蕾はためらわず/多田有花
洗われし色となる森春きざす/古田敬二
春が来た、それは光から、その情景と気持ちの明るさを
すらっと詠まれています。気持ちのよい御句です。
★梅東風や海見る丘に牛の鳴く/佃 康水
★春浅し小枝の先はみな光る/古田敬二
★立春の光どこへも満ちわたり/津本けい
★薄氷や風の形のそのままに/桑本栄太郎
★岬より春風の吹く港町/迫田和代
湖のある所は何処も湖西湖南と言うのでしょうが、やはり琵琶湖を想像しました。立春の近江の情景を大きく美しく詠まれていると思います。
★梅東風や海見る丘に牛の鳴く/佃康水
★春浅し小枝の先はみな光る/古田敬二
★下萌に我が影乗りて柔らかし/津本けい
★薄氷や風の形のそのままに/桑野栄太郎
さぞお干しになったシャツはよく乾いたことでしょう。暖かい春の陽にあたったのですもの。陽を抱くように とお詠みになられた作者の感性がいいですね。
踏みしめて二月の畦の湿りくる/藤田 洋子
春立つというハミングのような日に/今村 征一
軒下の雪は背丈をとうに越え/黒谷 光子
春淡き濡れし落葉を踏みてゆく/多田 有花
震え上がるほどの寒い日が続いていますがその寒さに耐えながら蕾は何時でも花開く構えが満ち満ちています。見て居ると元気を貰い春が待ちどうしいです。
★地衣纏う桜木立や春初め 小西 宏
★対岸にクレーンが一基冴え返る 高橋秀之
★春雪の竹撓らせて弾ませて 黒谷光子
★朝空へ花芽の紅き並木道 川名ますみ
晴れ渡った大空に一直線に伸びる飛行機雲が雪嶺に向かってゆく。飛行機雲が気持ちのよい景色を引き立ててくれています。
★雪晴れの空へ明るき鳥の声/井上治代
★春浅し小枝の先はみな光る/古田敬二
★春雪の竹撓らせて弾ませて/黒谷光子
★星煌めく空よりふわり雪が降る/津本けい