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金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の公表について(金融庁)

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の公表について

金融庁は、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告 -資本市場における好循環の実現に向けて-」を、2018年6月28日に公表しました。

「有価証券報告書における開示を念頭に、その他の開示(会社法開示、上場規則、任意開示等)との関係にも配意しつつ、企業情報の開示の包括的な検討を行った」(「はじめに」より)という報告書で、30ページほどのものです。

書きぶりからすると、有報等の金融庁所管開示ルールの改正につながりそうな項目と、会社側の改善努力にお任せの項目があるようです

大きく、「Ⅰ.「財務情報」及び「記述情報(非財務情報)」」、「Ⅱ.建設的な対話の促進に向けたガバナンス情報の提供」、「Ⅲ.提供情報の信頼性・適時性の確保」、「Ⅳ.その他」に分かれています。

最初の「Ⅰ.「財務情報」及び「記述情報(非財務情報)」」は、「記述情報」の方に重点が置かれています。

「投資判断に必要と考えられる記述情報が、有価証券報告書において、適切に開示されることが重要である。」(2ページ「基本的な考え方」)

具体的には以下の項目を取り上げています。

・経営戦略・ビジネスモデル

「我が国においても、経営方針、経営環境及び対処すべき課題等の開示を行うに当たっては、企業の目的と経営戦略、ビジネスモデルについて、取締役・経営陣が積極的に自らコミットしてその見解を示すことが必要である。また、投資家が適切に理解することができるよう経営戦略の実施状況や今後の課題もしっかりと示しながら、MD&A や KPI、リスク情報とも関連付けて、より具体的で充実した説明がなされるべきである。」

・経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)

MD&A は、...経営のトップレベルが早期から関与し、経営者としての説明責任を果たしていくことが求められる。」

セグメント分析に際しては、経営管理と同じセグメントに基づいて、セグメントごとの資本効率も含め、セグメントの状況がより明確に理解できるような情報が開示されることが必要である。」

資本の財源及びキャッシュ・フローに関する情報については、投資判断に不可欠な情報であり、どこからどのように資本やキャッシュを調達しているのか、経営戦略の遂行上、調達した資本やキャッシュをどのように設備投資や研究開発に振り分けていくのか、といった情報がより実効的に開示されるべきである。」

会計上の見積り・仮定は、投資判断・経営判断に直結するものであり、経営陣の関与の下、より充実した開示が行われるべきである。」

・リスク情報

「経営者視点からみたリスクの重要度の順に、発生可能性や時期・事業に与える影響・リスクへの対応策等を含め、企業固有の事情に応じたより実効的なリスク情報の開示を促していく必要がある。」

・その他

(1)人的情報等

「各企業が、投資判断や対話における必要性に応じ、法定・任意開示でより充実した情報を適切に開示することが求められていると考えられる。」

(2)重要な契約

「投資家の投資判断や対話において重要であると考えられる契約の内容について、海外の実態を把握しながら、各企業により適切な開示を行うよう促していくことが求められる。」

(3)分かりやすい開示(米SECの「Plain English」や英FRCの「Clear& Concise」に対応する論点)

「各企業が、法定開示書類等において、投資家にとって重要な情報を十分かつ正確に、また適時に分かりやすく提供するため、更なる取組みが行われていくべきである。」

(これでは具体性に欠けると思ったのか)この大項目のまとめとして、ガイダンスの策定などを求めています。(どこで策定するのでしょう?)

「開示内容や開示への取組み方についての実務上のベストプラクティス等から導き出される望ましい開示の考え方・内容・取り組み方をまとめたプリンシプルベースのガイダンスを策定すべきである。」

「我が国の開示内容の充実を図る上でも、...適切な開示実務の積上げを図る取組みが求められる。」

「Ⅱ.建設的な対話の促進に向けたガバナンス情報の提供」では、以下の論点を取り上げています。

・役員報酬に係る情報

「役員の報酬プログラムの開示において、固定報酬、短期の業績連動報酬(賞与)、中長期の業績連動報酬(ストックオプション等)それぞれの算定方法や固定報酬と短期・中長期の業績連動報酬の支給割合、役職ごとの支給額についての考え方を定めている場合にはその内容など、報酬の決定・支給の方法やこれらに関する考え方を具体的に分かりやすく記載することを求めるべきである。また、役員報酬の算定方法に KPI等の指標が関連付けられている場合には、その指標と指標の選定理由、業績連動報酬への反映方法や、報酬総額等を決議した株主総会の年月日等についても記載されるべきである。」

「トータルシェアホルダーリターンなどとも関連付けながら報酬プログラムに基づく報酬実績について、当期の報酬額に決定した理由、当期の KPI の目標値と実際の達成度、固定報酬と業績連動報酬の支給割合を定めていない場合には当期の支給割合の実績、役職ごとに支給された報酬の状況等が開示されるべきである。」

「算定方法の決定権者、その権限や裁量の範囲、報酬委員会がある場合にはその位置付け・構成メンバー等の情報とともに、その実効性を確認できるよう、取締役会・報酬委員会の具体的活動内容などについても開示を求めるべきである。」

「連結報酬総額1億円以上の役員に関する報酬総額等の個別開示を求める現行制度については、企業価値の向上に貢献した経営陣に対して、それに見合った報酬を提供していくべきとのコーポレートガバナンス上の要請に合ったものとなっていない可能性があり、再考の余地がある。」

・政策保有株式

「資本コストをかけリスクをとって株式を保有する以上、政策保有に関する方針、目的や効果は具体的かつ十分に説明されるべきである。また、政策保有株式の保有について、その合理性を検証する方法や取締役会等における議論の状況について開示を求めるべきである。」

個別の政策保有株式の保有目的・効果について、提出会社の戦略、事業内容及びセグメントと関連付け、定量的な効果(記載できない場合には、その旨と保有の合理性の検証方法)も含めてより具体的に記載することを求めるべきである。」

(ほかにもいくつか提案がなされていますが省略)

・その他のガバナンス情報の充実と提供

「両書類(有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書)の記載内容の整理については様々な意見が聞かれる中、今後の投資家と企業との間の対話等において、両書類の特色を踏まえ、望ましい情報提供のあり方についての意見交換が行われ、それを踏まえた情報開示の工夫が積み重ねられることが期待される。」

「Ⅲ.提供情報の信頼性・適時性の確保」は、会計や監査に関する事項が含まれています。

具体的には以下のような論点です。

・会計監査に関する情報

「会計監査に関する情報の充実に向け、企業が適正な監査の確保に向けて監査人とどのような取組みを行っているかに加え、米英において開示が求められている、監査役会等による監査人の選任・再任の方針及び理由並びに監査人監査の評価、監査人の継続監査期間、監査業務と非監査業務に区分したネットワークベースの報酬額・業務内容が、我が国でも開示されるべきである。」

「監査業務と非監査業務に区分したネットワークベースの報酬額・業務内容については、企業側の負担も勘案し、重要性も考慮しながら記載すべきである。」

「会社法上開示されている、監査人の解任・不再任の方針、監査役会等が監査報酬額に同意した理由、監査人の業務停止処分に係る事項について、有価証券報告書でも開示されるべきである。」

監査役会等の活動状況(監査役会等の開催頻度・主な検討事項、個々の監査役等の出席状況、常勤監査役の活動等)の開示を求めるべきである。」

・開示書類の提供の時期

(1)年度開示

「各企業において、...有価証券報告書の株主総会前提出への取組みが求められる。」

「引き続き、有価証券報告書と事業報告等の共通化や一体化に関する取組みの進展が期待されるところ、政府はこうした取組みを行おうとする企業を積極的に支援することとされている。」

(2)重要情報の公表タイミング

「各企業においては、...重要な情報のより速やかな公表に向けた取組みが進められるべきである。」

(3)四半期開示

「現時点において四半期開示制度を見直すことは行わず、今後、四半期決算短信の開示の自由度を高めるなどの取組みを進めるとともに、引き続き、我が国における財務・非財務情報の開示の状況や適時な企業情報の開示の十分性、海外動向などを注視し、必要に応じてそのあり方を検討していくことが考えられる。」

(4)沈黙期間

「企業において沈黙期間の短縮や沈黙期間中の対話への更なる積極的な対応が行われるとともに、アナリストにおいても決算以外の情報についての企業との対話が適切に実施されるよう関係者への理解の浸透を図るべきである。」

「Ⅳ.その他」では、EDINETの改善や、英文による情報提供についてふれています。

いわゆる有識者会議を批判的に取り上げたコラム記事。

有識者という名で議論すればそれでいいのか問題(Yahoo)

「広く社会の中では有識者の知見をありがたく拝聴して参考にするという行事が催されております。

 実際、私も公式・非公式を問わず会合には呼ばれるのですが、官公庁系の有識者会議だけでなく企業系の会議や第三者委員会のような会合では結論ありきの議論をアリバイ的に被せる目的で開催されるものも多いのが実情です。議事録と報告書の落差を見てびっくりすることも多く、その会議や会合で出た議論とは無関係の結論で文書に掲載されてしまうならば出席しなかったことにさせてください、とお願いすることも少なからずあります。」

「有識者の知見というとなにやら偉そうに聞こえますが、その人選を間違えれば専門外の人を呼んでしまうことでテレビのワイドショーにありがちな勘違いコメンテーターの適当な発言とまったく同じことになってしまうわけでして、これは有識者を選び出す側の見識が大きく問われる問題でもあります。」

今回のディスクロージャーワーキング・グループは、比較的専門家の割合が高い方だとは思いますが、残念ながら、会計士は1人しかメンバーに入っていません。

コメント一覧

AY
官公庁系の有識者会議だけでなく企業系の会議や第三者委員会のような会合では結論ありきの議論をアリバイ的に被せる目的で開催されるものも多いのが実情です。
その通りです。担当当局役人の食い物になっているのです。
議題が繰り返されて先送りされており新たな議題はほんの少しです。

真剣に議論すればすぐに終わる問題が縦割り行政をよいことに同じ議論を繰り返しています。
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