米財務会計基準審議会(FASB)が、時価会計の適用除外となる金融資産の対象を広げる緩和策を決定したというNIKKEI NETの記事。
この記事とこの記事のもとになっている4月3日の日経朝刊の記事には明らかな間違いがあるので、まずその間違いを指摘したいと思います。(日経記事で会計処理をする会社はないので、いくら間違ったことが書いてあっても実害はないと思いますが、念のためです。)
・そもそも、「時価会計の適用除外となる金融資産の対象を広げる」という決定は行われていません。日経以外の報道やFASBの公表資料を見ても、そのような改正は行われていません。あくまで、時価(公正価値)の算定方法を見直したという改正であり、今まで時価を適用していた資産について時価を適用しないということではありません。
・4月3日の記事では以下のように書いています。
「現行ルールでも「市場取引が活発でない」場合には、評価額の算定について金融機関の裁量を認めている。新基準はこうした事例の定義を明確化し、金融機関が例外措置を活用しやすくした。例えば「売り注文と買い注文の価格差が大きい」「十分な頻度や量の取引がない」などの場合は時価評価しなくても済むとした原案を大筋了承した。」
この段落の最初の部分では、「評価額の算定」の話だといっているのに、後の方では、時価評価する資産の範囲の問題にすり替わっています。これが意図的だとしたら悪質です。
・減損処理に関して4月3日の記事では以下のように書いています。
「一方、現行ルールでは「満期まで保有する」と区分している金融商品などについても、市場価格が大幅に下落すれば損失を計上する減損処理をしなければならない。FASBは、金融商品の価格が回復するまで金融商品が低いことを示せば、満期時に予想される損失だけ計上し、時価による評価損を計上しなくて済むよう基準を変更した。」
しかし、米国基準は「市場価格が大幅に下落すれば損失を計上する」という会計基準ではありません。一時的でない減損が生じた(other-than-temporarily impaired)有価証券を損失処理するという方法なので、日本のように下落が大幅になるまで放っておいていいというわけではなく、また30%とか50%とかいった数値基準もありません。
また、「満期時に予想される損失だけ計上し、時価による評価損を計上しなくて済む」という箇所も不正確です。FASBの資料によれば、時価まで評価減するけれども、評価損の金額を分割し、信用の劣化による部分は損益計算書に、それ以外の部分は包括利益計算書に計上(日本流にいえば資本直入)するということのようです。理屈はよくわかりませんが、信用劣化による評価損は、貸倒引当金繰入と同じ性格のものですから、その部分は損益計算書にもっていく、それ以外の流動性の低下などによる下落については(目立たないように?)包括利益計算書に直接計上するということなのでしょう。
When an entity does not intend to sell the security and it is more likely than not that the entity will not have to sell the security before recovery of its cost basis, it will recognize the credit component of an other-than-temporary impairment of a debt security in earnings and the remaining portion in other comprehensive income.
FASB、時価会計基準の緩和を承認
こちらは同じNIKKEI NETに掲載されている記事ですが、ウォール・ストリート・ジャーナルの配信記事であるためか、「時価会計の適用除外」といった間違ったことは書いていません。日経の記事と読み比べてみてはいかがでしょうか。
SUMMARY OF BOARD DECISIONS(FASBのサイトより)
4月5日現在、確定した改正基準は公表されていない模様ですが、4月2日の審議会の結論がこのページに出ています。
米国の金融商品の評価に関する会計基準が銀行の圧力で甘くなってきていることはたしかですが、それだけ米国の銀行が取引の活発でない資産を多く抱えているということなのでしょう。
Analysts see little impact on US banks from mark-to-market rule
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