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「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」の公表

実務対応報告第26号「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」の公表

企業会計基準委員会は、実務対応報告第26号「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」を2008年12月5日付で公表しました。

公開草案のときの記述とダブってしまいますが、この「取扱い」の概要は以下のとおりです。

報告書が対象としている振替は、次の3つのケースです。

・売買目的有価証券からその他有価証券への振替

・売買目的有価証券から満期保有目的の債券への振替

・その他有価証券から満期保有目的の債券への振替

これらのうち、満期保有目的の債券への振替については、「稀な場合」であって、満期保有目的の債券の定義及び要件を満たした場合には、振替が認められます(現行基準では振替不可)。売買目的有価証券からの振替の場合は、さらに、「企業がもはや時価の変動により利益を得ることを目的としないことを明らかにし」という条件も加わります。

その他有価証券への振替については、「稀な場合」であって、「企業がもはや時価の変動により利益を得ることを目的としないことを明らかにして保有目的区分を変更した」場合には、振替が認められます(現行基準では有価証券のトレーディング取引を行わないこととした場合には、すべてを振替)。

「稀な場合」とは、「想定し得なかった市場環境の著しい変化によって流動性が極端に低下したことなどから、保有する債券を公正な評価額である時価で売却することが困難な期間が相当程度生じているような稀な場合」(5項、9項、13項)を指します。

(公開草案のときにも書きましたが、この「稀な場合」の定義は非常にわかりにくいものです。例えば、「公正な評価額である時価」という言葉がありますが、そもそも「公正な評価額ではない時価」というものが時価の定義上ありうるのでしょうか。また、銀行が公正な評価額は100円であると主観的に判断している場合で、100円では売却できないが80円であれば売却できるという場合は、これに該当するのでしょうか。また、「相当程度生じている」という言い回しも少し変です。)

いずれの振替のケースも、時価での振替になります。振替時の評価差額は、売買目的有価証券からの振替の場合は、損益に計上するのに対し、その他有価証券からの振替の場合はその他有価証券に係る評価差額として純資産の部に計上(税効果会計適用)し、満期までの期間にわたって償却原価法に準じて損益に振り替えます。

また、保有目的区分の変更に関し、追加情報として、一定の注記を行うこととされています。

以上のような振替は、本実務対応報告公表日から2010年(平成22年)3月31日までの適用となります。また、2008年10月1日までさかのぼって振り替えることが可能です。

ただし遡及適用には条件があります。

「経営管理上、本実務対応報告公表日前において、最近の市場環境を踏まえてトレーディング取引の対象としないという意思決定又は満期まで保有するという意思決定を既に行っており、それを確認できる場合には、当該意思決定を行った時点(ただし、当該意思決定が平成20 年10 月1 日前に行われているときは、平成20 年10 月1 日に行ったものとみなす。)から、本実務対応報告を適用することができる。」(18項より)

今回の取扱いには、珍しく2名の委員が反対しています。(当サイトにいただいたコメントによれば、ひとりは大手監査法人に所属する著名な会計士だそうです。)

ひとりの委員は、保有目的が変更された場合には変更を反映させるように会計処理すべきだが、今回のように緊急的な対応ではなく中長期的に検討すべきである、このような見直し方は経営者のモラルハザードを招き、会計基準設定主体への信頼性を著しく損なうおそれがあると述べています。

もうひとりの委員は、保有目的変更は経営管理上の意思決定の時点において会計処理すべきであるが、そうした意思決定のための検討が本実務対応報告公表の前に行われていることはほとんど想定されない、それにもかかわらず、公表前の意思決定に適用すると定めることは、事実関係と必ずしも合致しない適用日を選択できるとの誤解を生じさせ、経営者のモラルハザードを助長する懸念があると述べています。

いずれももっともな指摘だと思います。特に後者の指摘は、監査人の立場からも重要です。今回の「取扱い」では、「意思決定を既に行っており、それを確認できる場合」遡及適用できるとされていますが、10月1日時点で会社として意思決定を行っていたかどうかをどうやって確認すればよいのでしょうか。実際には満期まで保有するか早めに損切りするか迷っていたかもしれないのに、関係する書類をバックデートしたり、10月1日時点で満期保有を決定していたかのような確認書を作ったりして、つじつま合わせをさせることになるのではないでしょうか。あくまで緊急避難的な取扱いなのですから、むしろ、公表日以後の意思決定であっても遡及適用できるとした方が、会社の責任者・担当者にうそをつかせない(監査人に対しては職業的懐疑心に反してみえすいたうそに目をつむらせない)ですむだけはるかにましです。(反対している委員は遡及適用自体に反対しており、指摘の趣旨は違いますが・・・。)

(補足)

公開草案に寄せられたコメントがASBJのサイトに掲載されています。コメントに対するASBJの考え方も載っています。

http://www.asb.or.jp/html/documents/exposure_draft/comments/reclassification2.php

理論的なものから単なる陳情まで、さまざまなコメントが寄せられています。

また、決議を行った委員会の動画も掲載されています。反対意見については最後の5分ぐらいでほんの少し議論されています。賛成の委員からは記録の操作は犯罪であるという発言もありました。

http://www.asb.or.jp/html/minutes/20081204/20081204_webcast.php
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