多くが減益見通しだが、下方修正リスクは残る
地方銀行の2021年3月期の業績予想の状況を取り上げた記事。
その中で、ふくおかフィナンシャルグループの前期(2020年3月期)決算がおもしろいと思いました。多額の貸倒引当金計上の背景にはからくりがあったようです。
「ある地銀の行員が決算内容を見て「そこまでやるか」と思わず驚いたのは、ふくおかフィナンシャルグループ(貸出残高は約16兆円)だ。
地銀上位の福岡銀行など4つの地銀を傘下に持つ同社は、2020年3月期に614億円(2019年3月期は51億円)もの与信費用を計上した。そのうち、87億円がコロナの影響を加味した予防的引き当てで、418億円が将来の景気悪化に備えた「フォワードルッキングな引き当て」としている。
見積もり方法を変更し多額の引当てを行ったことから、2021年3月期の与信費用は58億円と大きく減少する見込みだ。ふくおかFGが活用した「フォワードルッキングな引き当て」とは、2019年12月に金融庁が「金融検査マニュアル」を廃止したことで新たに可能になった手法だ。
これまで金融機関は、融資先の倒産実績など過去のデータを参考に与信費用の見通しを算出してきたが、リーマンショックのような景気悪化が将来起こった時にも対応できるよう、先行きのリスクも反映した。福岡銀行の財務担当者は今回の引当てを「コロナウイルス以前から、検討を続けてきた」と説明する。だが、コロナの発生を受けて将来リスクをより厳しく見ただろう。」
「ただ、巨額の与信費用を計上しても赤字転落は回避した。ふくおかFGは十八銀行を経営統合したことで、2020年3月期に1174億円の「負ののれん益」を計上しているからだ。この一時的な利益のおかげで、純利益は1106億円(前同比547億円増)を確保している。」
引当金と負ののれんは、一応、別個のことがらなのでしょうが、負ののれんの使い道として、引当金を増やしたようにもみえます。
決算短信では、貸倒引当金の見積り変更について以下のように記載しています。
「(会計上の見積りの変更)
貸倒引当金の見積りの変更
当社の銀行業を営む連結子会社は、過去の一定期間におけるデフォルト件数から算出したデフォルト率等に基づき、貸倒引当金を計上しており、景気悪化等の将来の事象に基づく損失の発生可能性に対しては、主に自己資本の充実を図ることで備えてまいりました。しかしながら、こうした将来のリスクを定量化し、貸倒引当金に反映させることが、より景気変動に左右されない貸出運営を可能とし、資金繰り支援をはじめとした安定的で適切な金融仲介機能の発揮につながると考え、その手法及び体制の検討を進めてまいりました。
当連結会計年度末において、当社の銀行業を営む連結子会社は、将来の景気変動に伴う債務者の財務状況の推移を予測し、これをデフォルト率等に適切に反映させるための合理的な見積りが可能となったことから、貸倒引当金に関する見積りの変更を行っております。
この見積りの変更により、当連結会計年度末の貸倒引当金が41,784百万円増加し、当連結会計年度の経常利益及び税金等調整前当期純利益は41,784百万円減少しております。」
見積りの変更というよりは、会計方針の変更(将来リスクを定量化し引当金に反映させる方法への変更)なのではないでしょうか。そうだとすると、本来は過年度に遡及して修正すべきでしょう。
例えば、繰延税金資産の回収可能性に関する基準の変更の際には、変更による差額について過年度遡及か見積り変更で当期損益処理かが議論されていましたが、こういうのは誰も議論しなくて、銀行が勝手に判断できるようです。(金融庁や会計士協会も容認している?)
ちなみに、金融庁やASBJが「追加情報」注記として書くことを推奨している、会計上の見積りに用いた仮定に関する具体的記載はなされていないようです。有報では書くのでしょうか。
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