サイバーエージェント、子会社がアフィリエイト広告で不適切会計
サイバーエージェント(東証プライム)が、子会社「CyberOwl(サイバーアウル)」の不適切会計処理に対する社内調査結果を発表したという記事。(3月26日に社内調査委員会設置を発表していました。→当サイトの関連記事)
「サイバーアウルは、広告が成果につながった場合に広告主から報酬を受け取る「アフィリエイト広告」で、確定した売上高に成果の予測を見込んだ金額を計上していた。この売上高で、事業部門の責任者である取締役の1人が予測部分について計上根拠を改ざんしていたという。不正計上の額は年々大きくなり、売上高と営業利益への影響額は20年9月期の4千万円から、24年9月期には17億5900万円に膨らんだ。取締役は解任したという。」
不正計上額がどんどん大きくなるというのは、こわい。
過年度決算を訂正するそうです。
「サイバーエージェントは、影響額について過去の決算短信などを訂正する。同社の25年9月期決算への影響は軽微だという。」
サイバーエージェント子会社、不正な売上高を計上 5年間に渡り 財務に最大17億円の影響(ITmedia)
「CyberOwlではアフィリエイト広告を提供しており、その成果報酬は、確定した売上高に加えて成果の予測を見込んだ概算金額が含まれる。しかし、概算計上の根拠となる一部の係数について、CyberOwlの取締役1人が2020年から改ざんしていたと判明。また、この人物は事業担当取締役と経営管理担当取締役を兼任しており、管理・監視体制も不十分な状態だった。」
「サイバーエージェントは5月15日に、過年度の有価証券報告書と四半期報告書、内部統制報告書の訂正報告書を提出し、決算短信と四半期決算短信の訂正を行う予定。またこの件の責任を取るため、 サイバーエージェントの藤田晋社長などの月額役員報酬を3カ月間30%分減額するなどの対応を取る。なお、この事案に関与したCyberOwlの取締役1人は解任となった。」
会社のプレスリリース。30ページほどの報告書も添付されています。カネはあるはずなのに、あえて「社内」調査委員会に調べさせたというのが興味深い点です。
当社連結子会社の不適切な会計処理に起因する社内調査委員会の調査報告書受領および過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出見込みに関するお知らせ(サイバーエージェント)(PDFファイル)
報告書によると、問題の子会社は、100億円程度の売上の会社のようです。
概算計上に関する説明部分(一部抜粋)。(ASP:アフィリエイト・サービス・プロバイダ)
「CybeOwl の事業部担当者は、代理店やASPとの間で、アフィリエイトの対象や成果条件・単価・目標件数等の詳細内容を決定している。
売上計上のトリガーとなる成果の定義はアフィリエイトプログラムの内容により様々であり、アフィリエイト広告に誘導されたユーザーが、広告主のサービスに申込みをすることで成果の確定とする場合(以下、成果の一態様として使用する場合に 「発生」という。)もあれば、クレジットカードにおいてはカードの発券、カードローンにおいては契約の締結(以下、成果の一態様として使用する場合に「成約」という。)や出金事実(以下、成果の一態様として使用する場合に「出金」という。)を成果の確定とする場合もある。」(報告書10ページ)
「成果が確定した実績値を把握するプロセスは、アフィリエイトプログラムの内容によって異なる。例えば、成果の確定が発生の場合は、CyberOwl がASPの管理画面に直接アクセスして実績を把握することができるが、成果の確定が成約や出金のように ASP の管理画面で成果を把握できない場合には、クライアントから実績データを別途メール等で受領することにより実績を把握することになる。」(同上)
「CyberOwl では月次決算を翌月3営業日までに行っていたところ、アフィリエイト報酬の成果が確定したことを確認する広告主の承認行為(以下「承認」という。)が、広告主の事情により承認されるべき月に実施されず翌月に実施されることがあったことから、業績管理を適時正確に実施する観点から、承認されるべき月の未承認額である概算額を概算計上し、翌月に概算額が承認された場合に相殺する (概算額は毎月洗替計上し、翌月に承認された概算額を翌月の概算額から控除する) 運用を開始した。...
その後、 ...においては、2016年11月には広告主である甲社の成果が出金となり、2019年8月には乙社の成果が成約となり、2022年8月には丙社の成果が成約となり、順次、成果が発生から成約又は出金とユーザー行為のうちより後ろの行為に変更されたことを受け、月末の発生件数から成約件数又は出金件数を予測して概算計上する必要が生じていった。なお、成果となりうるユーザー行為の発生から出金までのリードタイムは、 ...で概ね2か月、 ...で概ね3~ 4か月であることから、成果が発生から成約又は出金に変更された場合には、概算額が確定売上高となるまでには当該月数がかかることとなる。そのため、概算計上を行う場合には、リードタイムや承認率といった予測値を見込む必要があり、各月の売上高及び売掛金には当該見込み要素が含まれることとなる。」(同11~12ページ)
会社が「発生」と呼んでいる段階で、サービス提供義務は完了したから、あとは、確率的に決まる変動対価の問題ということで、概算計上していたということなのでしょうか。「成約」や「出金」の段階で収益認識を行えば、概算計上の必要はなく、処理が簡単のようにも思われますが...
不正な概算計上の方法は...
「B氏は、2020年第3四半期には、経営会議で決定されたマーケティングメディア事業部の着地数値に、各月の会計帳簿に計上する数値 (「財管PL」と呼ぶこともある。) を一致させるためだけに、根拠のない不正な概算額を計上するようになった 。」(同12ページ)(詳しい説明の部分は省略)
会計帳簿への計上は経理担当者でしたが...
「前述(1) ウのとおり、CyberOwlのアフィリエイト報酬を会計帳簿に計上していたのはB氏ではなく、経理担当者であるサイバーエージェントが業務委託するG氏であり、 B氏からG氏に対して、会計帳簿に計上する数値 (財管PL)を管理PLに合わせるように毎月の概算額を伝え、G氏がそのままシステム②に計上していた。具体的には、毎月の概算額は、B氏が、管理PLに合わせるよう、当月の売上高の実績値から前月の概算額を控除し、着地数値に合わせるように、当月の概算額を差額で算出し、以下のB氏と G氏との間のやり取りを経て計上されていた。...」
概算計上額が膨れあがり、経理担当者の方は危機感を抱いていたそうです。
「前述のとおり、B氏からG氏に対しては概算額の数値のみが伝えられるだけであるため、G氏はB氏に対して裏付け資料を複数回要求したものの、後述 (3) の内部監査で提出された2024年2月及び6月とB氏が自ら提出してきた2024年9月の一部のドメイン (カテゴリー) の虚偽の想定承認率をもとにした資料が提出されたのみであった。 また、概算額は年々金額が増加し 2024年には月10億円を超え多額となっていったことから、G氏において危機感をもっていたが、2024年4月以降はサイバーエージェントの内部監査が実施され概算計上は監査対象とされていたことから、監査状況を見守りつつ内部監査室と必要な範囲で連携をとっていた。もっとも、後述 (3) のとおり、 内部監査の結果として内部統制は有効と評価され、直ちに概算計上が是正されることはなかったため、2024年11月以降本件発覚までの間に、G氏において、改めて、是正にむけて自らサイバーエージェントの経理部門に問題提起したり、サイバーエージェントのアフィリエイト事業担当者にアフィリエイト報酬の実態をヒアリングしたりするなどして、是正する方向に動いていた。」(同14ページ)
内部監査は何をやっていたんだとなるのでは。
不正の動機は...
「B氏が本件を開始したきっかけは、CyberOwl の経営会議で報告する着地数値とB氏が担当していたアフィリエイト事業の実績値について、特に金融分野の実績値がコロナの影響による消費需要の変動等によってブレ幅が大きく、着地数値に大幅に到達しない実績値となることもあり、着地数値を下回る実績値を正直に報告できなかったことからである。
また、CyberOwl においては、アフィリエイト事業の業績が好調であることにより、 新規分野への進出や投資のためのキャッシュエンジンであると認識されていたことから、経営会議やマネスト等において、A氏にアフィリエイト事業の業績が順調であることを見せる必要があったことも、概算計上することにより管理PLや会計帳簿上の数値のみをよく見せるといった本件を実行し続ける動機となっていた。」(同15ページ)