会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

「合意された手続」について(会計・監査ジャーナル5月号より)

会計・監査ジャーナル(会計士協会の機関誌)2009年5月号の「監査業務モニター会議報告」という記事によると、モニター会議(会計士協会の審査会をさらに外部からモニタリングする組織)で合意された手続が問題になったようです。

「公認会計士が作成したいわゆる”アグリードアポン”報告書によって不適切と思われる株式交換比率等が用いられ、会社買収が行われたケースがあった。”アグリードアポン”であっても、公認会計士が行う場合には投資家の判断に影響を与えるものであるため、何らかの指針が必要と思われる。実態分析の上、ガイダンスの検討をしてほしい。」

これに対して、協会側は、「公認会計士等が行う保証業務等に関する研究報告」の公開草案で合意された手続を取り上げていることを述べています。さらに以下のように述べています。

「保証業務と「合意された手続」との大きな相違点は、合意内容を十分理解している合意当事者以外の者に当該報告書を提示すべきでないという点にある。合意当事者間においてのみ利用可能なものとの位置付けである。しかし、「合意された手続」による業務が公認会計士の名称の下で行われることが多く、かつ、「合意された手続」の趣旨を逸脱した利用がみられることから、協会会則や倫理規則の趣旨、精神に反する場合もあり、今後とも、個別の監査事案の関連事案として、その状況に応じて監査業務審査会で取り上げていくことになる。」

研究報告(公開草案)はこちらのリンクです。
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/ht.html

公開草案では、合意された手続について、以下のようにいっています。

「合意された手続の目的は、公認会計士等が業務依頼者及び必要である場合には実施結果の利用者等の関係者との間で合意された手続を実施し、その実施結果を報告することである。

 公認会計士等の報告は、合意された手続の実施結果の事実に関してのみ行われ、いかなる結論も報告しない。このため、利用者は公認会計士等から報告された手続及び実施結果に基づき、自らの責任で結論を導くことが予定されている。また、実施結果報告書は、実施すべき合意された手続の関係者のみにその配付が限定される。それは、これらの手続が採用された背景を知らない者は、実施結果について誤った理解をする可能性があるからである。」

合意された手続では、手続の種類や範囲の決定は依頼者の責任で行い、それが適切なものかどうかについて会計士は責任を負いません(もちろん合意した手続を合意したとおり実施する責任はあります)。また、「結果」と「結論」がどうちがうのかは微妙なところもありますが、要するに数値が一致しているかしていないかといった、ほとんど判断の要素がない「結果」を報告するだけです。

モニター会議で取り上げられた事例は、資産評価に絡む業務だったようです。評価について専門家に依頼するというのは、どういう方法を適用するのか、どういうデータを用いるのか、といった判断を専門家が行うという点に依頼する意味があるように思います。そもそも合意された手続になじむ業務だったのかは疑問に感じます。「合意された手続」という形式で会計士は責任をとらず、しかし、専門家がやった業務ということで一定のお墨付きが与えられるというのでは、たしかに「無責任」といえるかもしれません。
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