会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

企業の虚偽記載に関連した監査の制度上の諸問題─監査時間確保の観点を中心として─(トーマツ)

シリーズ「監査とその周辺」第3回 企業の虚偽記載に関連した監査の制度上の諸問題─監査時間確保の観点を中心として─

前証券取引等監視委員会委員の福田眞也氏(会計士協会元常務理事、トーマツ元パートナー)による解説記事。

「監視委員会の活動等によって事後に虚偽記載が発見された場合に必要な訂正報告書等に係る監査に対する現行制度の問題等を考察」し、「監視委員会が告発等を行った主な虚偽記載の問題について検討」しています。

一部抜粋します。

監査に関連して会計士が刑事罰に問われる例について

「監査を実施した公認会計士が刑事罰に問われるのは、虚偽の有価証券報告書等を提出し金融商品取引法違反に問われた取締役等の共犯としてであり、過去に監視委員会が発行会社の取締役等の共犯として刑事告発した事件が5件ある・・・。なお、商法監査特例法の規定による涜職罪 (現行会社法第967条1 項3号の贈収賄罪)で会計監査人が有罪判決を受けた例がある。 監査を実質的に実施しなかった会計監査人の監査報酬が、わいろと認定された。」

5件というのは、フットワークエクスプレス(株)、(株)キャッツ、カネボウ(株)、(株)ライブドア、(株)プロデュースです。記事に表が示されています。(旧)商法監査の「わいろ」は三田工業でしょう。

訂正報告書の監査の問題点について

「①最長5年間の財務諸表等を訂正する必要があるが、その間に監査人が交替している場合も多い(監査法人が解散しているケースもある)。交替した監査人が、短期間に自分で監査していない事業年度の財務諸表等の監査を遡って実施することは監査手続の実施面でも、時間的にも困難である。また、前任の監査人が訂正する事項のみ監査して再度監査報告書を提出することは、 訂正内容によっては会社の内部統制の信頼性にも疑問が生ずるケースも多くまた後発事象の監査の問題があり引受けないケースも多い

②不適切な取引や会計処理の存在が疑われる状況が発生すると、 弁護士や公認会計士を構成員とする第三者委員会を設置して調査を行うのが一般的となっている。・・・

過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出に関しては、第三者委員会の調査期間、訂正した報告書等の作成作業、 監査実施の期間を確保して提出する必要がある。 第三者委員会が設置されるタイミングにもよるが、 監査実施のため十分な期間が確保されているとは認められないケースも多い。 特に監査において第三者委員会の調査に不十分な部分を発見しても再調査の実施時期が確保されていないため、第三者委員会の報告通りになっているケースもある。」

問題が起きた会社なのだから、本来は通常より時間をかけて再監査すべきなのに、不十分な監査となっているようです。第三者委員会の結論に引きずられるのも問題です。

オリンパスの場合はどうだったのでしょうか。粉飾グループのメンバーのPCにかろうじて残っていた資料で、取引を復元したと報じられていますが、そんないい加減なもので監査ができるわけもありません。

訂正命令が出された場合について

「監視委員会の勧告後15 日目に関東財務局から5 事業年度分の訂正有価証券報告書等の提出命令が発出され、 その提出期限は発出日の7日後になっている。 発行会社の監査人は5事業年度の間に2 回変更され、 変更前の監査法人2法人はすでに解散しており監査は一層困難になっている。 このケースのように訂正に承服しないケースや、 訂正報告書の訂正命令の取消の行政訴訟を提訴するケースもあり、提出命令の発出前に訂正報告書の監査の準備がされているとは考えられないこともあり、 提出期限の監査に与える影響は多大である。」

自主的に訂正する場合よりさらに厳しい状況のようです。結局、訂正命令が理不尽だと考えても、争うのは難しい仕組みになっています。

循環取引について

「循環取引を仕組んだ上場会社は、循環取引で計上した利益や中間に入った企業への手数料を処理するため、有形、無形の固定資産を過大に計上する等の会計処理が行われることになる。その段階になると有形・無形固定資産の監査手続きで発見される可能性も高くなるが、監視委員会が循環取引の端緒を掴んだのは地道な銀行調査からであり、取引そのものや帳簿記録からではない。端緒及び更なる銀行調査や反面調査及びその後の強制調査により入手した発行会社の帳簿記録等から循環取引及び虚偽記載の全貌を把握している。

事後処理としての有形・無形固定資産の過大計上を監査で発見することは可能であるが、 銀行調査や反面調査を行えない公認会計士の監査において循環取引を発見することは極めて困難と考えられる。 循環取引の中間に入った企業には売掛金や買掛金等の残高が残っていないため、監査上の重要な項目にはならないのが一般的である。 」
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「会計監査・保証業務」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事