日産ゴーン事件のケリー氏の刑事裁判での東大教授の証言を取り上げた記事。
ケリー被告側からの証人である、東京大学の田中亘教授は、虚偽記載ではないと証言しています。
「「虚偽記載ではないと考えます」――。
東京大学の田中亘教授はそう証言した。4月22日、東京地方裁判所104号法廷でのことだ。」
「金融商品取引法は、「虚偽記載」と「不記載」を明確に分けている。投資家の判断に影響を与えるような重要な情報について、虚偽の数字や文章を書くのが虚偽記載、書かないことが不記載である。田中教授の見解は後者だ。」
「法廷での証言から、虚偽記載ではないという田中教授の考え方はこうなる。
日産の有報に書かれた「支払われた報酬は」という文言から、一般投資家は「既払いの役員報酬額が書かれているのだな」と読む。未払い分を含めた役員報酬のすべてを開示すべきと解釈されている内閣府令の趣旨を一般投資家は熟知していないだろうから「既払いの報酬はこのくらいかな」としか考えない。
機関投資家などプロの投資家ではどうか。内閣府令を熟知したプロの投資家ならば、「支払われた報酬は」と書いてあっても「報酬はすべて支払い済みであり、他に未払い報酬はないのだろう」と推察するかもしれない。
とはいえ「支払われた金額は」という書き方に、プロの投資家ならば違和感を覚えるかもしれない。その場合でも「もしかしたら未払い報酬は不記載であり、本当はあるのかもしれない」と慎重になり、他の自動車メーカーに分散投資するなどして開示に不備があるリスクを低減しようとする。だから、未払い報酬が不記載でも大きな影響はないというのが田中教授の見解だ。」
当局側の証言は...
「田中教授が出廷する2日前、証券取引等監視委員会の谷口義幸・開示検査課長が証言台に立った。かつて役員報酬の個別開示を企画立案した官僚であり、日産の有報を虚偽記載だと判断した責任者だ。2012年から2015年には東北大学で教鞭を取った経験もある。
谷口氏の説明はこうだった。「(日産の有報に記載された)『支払われた報酬』というのは、前置きのような文章だと一般投資家は理解する。前後の文脈から、そして総合的に見れば、内閣府令で求められている報酬(受け取るもしくは、受け取る見込みの報酬)が記載されていることは明らかだから、一般投資家は未払い報酬を含むと読む」。一般投資家が内閣府令を“熟知”しているという前提である。」
会計士的常識からすると、重要な情報(例えば重要な注記事項)が記載されていなければ、それは、虚偽記載(監査論的には虚偽表示)であり、「虚偽記載」と「不記載」を分けて考えることはあまりないとおもいますが、金商法が両者を区別し、刑事罰の有無という違いを設けているのであれば、法律家としては厳密に解釈する必要があるのでしょう。
また、「支払われた報酬」という文言については、会計の知識があるひとであればたしかに発生主義的に考えることが多いでしょうが、例えば、源泉所得税は報酬が発生しただけでは生じず、実際に支払われるときに納税義務が生じるように、「支払」と「発生」を区別して考える場面もあり得ます。役員報酬開示にしても、例えば役員退職慰労金のように、引当金繰入により細切れにされた金額より、実際に支払う金額を開示した方が、インパクトが大きくなるケースもあり、支払いと発生のどちらが適切かということは一概にはいえないでしょう。
内閣府令の文言も、発生主義だと明確に書いてあるわけではなく、個別開示導入の際のパブコメ対応のなかで金融庁の解釈として、会計上の費用計上額を開示するということが示されただけで、それが、一般投資家はもちろんのこと、専門家も含めて周知されているとは思えません。
なお、当サイトの見方は、ゴーン氏の退任後報酬は、法的な手続を経ていないものだから、そもそも発生すらしておらず、(当局と同じ解釈を採ったとしても)開示対象ではないのではないかというものです。
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きんちゃん
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