財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関する適時開示を行った事例です(最近の事例で、当サイトで取り上げていないもの)。
1.ウェッズ(東証スタンダード)
財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ(PDFファイル)
「(1)当社従業員による不正行為について
本件不正行為は、東京国税局による税務調査により発覚し、以降当社は社内調査を進めてきました。また調査に客観性を持たせるために独立調査委員会を立ち上げ類似行為の調査、原因究明を実施しており、再発防止策の提言も受けております。
本件不正行為は、当該従業員が顧客への商品代金の値引きを装う等、会社より資金を支出させ、54,876 千円を個人的に取得したことによるものです。
(2)当社子会社従業員による不正行為について
本件不正行為は当期の決算処理作業中に確認され、それ以降同社は当社と連携して調査を進めてまいりました。調査の結果、当該従業員が販売用の携帯端末を不正に持ち出し、リサイクルショップ等で売却・現金化し、累計で 61,340 千円分の商品を横領しておりました。(以下省略)」
当社と子会社に分けて、是正方針を記載しています。
2.アイ・テック(東証スタンダード)
財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ(PDFファイル)
継続して重要な不備ありの内部統制報告書を提出していますが、直近年度も一部是正措置に未了があるとのことです。
3.ソフィアホールディングス(東証スタンダード)
財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ(PDFファイル)
NTTドコモからの回線接続料金をだまし取ったとされる事件の関連です。
同社は遅れていた2022年3月期の有報を8月15日に提出しています。監査意見は限定付でした(訂正報告書も同様)。
有価証券報告書等に係る監査報告書の限定付適正意見に関するお知らせ (PDFファイル)
2022年3月期の監査報告書をEDINETで見てみると...
「限定付適正意見の根拠
「追加情報」に記載されているとおり、会社は、2022年6月8日に、連結子会社であるソフィアデジタル株式会社(以下「SDI」という。)の役員2名が組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)などの疑いで逮捕されたことを受け、2022年6月17日に、外部の弁護士及び公認会計士からなる独立調査委員会を設置し、事実関係の調査等を進めてきた。報道によれば、逮捕容疑は、かけ放題プランを利用した「機械呼」によるアクセスチャージを、キャリア、SDI、代理店で分配していたとするものであり、仮にこのような「機械呼」が認定された場合には、当該取引により得た利益の返還の要否が会計上の論点になると考えられた。しかし、2022年8月12日に、独立調査委員会から答申書を受領し、SDIの着信課金サービス事業において、実際に架電があり通信接続の事実がキャリア及び代理店ともに否定されておらず、かつ既に対価を受領していることに加え、キャリアとSDIとの法律関係においても対価の返還義務が特段認められないと認定されたことを踏まえ、会社は、当該事業に係る利益については過年度に遡って取り消す必要はないと判断している。一方で、通話記録のデータ分析の結果、長時間通話や多頻度通話、連続した発信番号からの通話といった異常ともいえる極端な傾向を持つデータが多く検出されている。会社は、異常なデータは検出されているものの、「機械呼」と断定するまでには至っておらず、また、具体的に取り消すべき売上高及び売上原価の金額が算定できないことから、連結損益計算書について特段の修正は行っていないが、連結損益計算書における売上高11,783百万円及び売上原価7,777百万円を構成する着信課金サービス事業の売上高3,295百万円及び売上原価2,561百万円には、上記のような正常ではない取引に基づくものが含まれている可能性がある旨の注記を行っている。
当監査法人においても、独立調査委員会の答申書の閲覧、契約内容及び判例に関する法的側面からの検討、通話記録のデータ分析の再実施、関係者へのヒアリング等を実施し、SDIの着信課金サービス事業の利益を過年度に遡って取り消す必要はないとした会社の論拠を確認した。しかし、いわゆる「通信の秘密」の制約もあり、キャリア及び代理店から入手できるデータや情報にも限りがあること、最も事情を知るSDIの役員が勾留中であり、直接のヒアリングができていないこと、そのような事情も相俟って異常なデータを検出したとしても、「機械呼」と断定することが困難であることから、着信課金サービス事業の収益及び費用の表示の妥当性、すなわち、正常な企業活動における稼得収益及び費用の範疇として、収益及び費用を売上高及び売上原価に表示し、もって営業損益計算に含めることの妥当性について、十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった。
したがって、当監査法人は、連結損益計算書の売上高及び売上原価を構成する着信課金サービス事業の売上高及び売上原価の表示に修正が必要となるかどうかについて判断することができなかった。この影響は、着信課金サービス事業の売上高及び売上原価並びにこれらに付随する項目に限定されており、当該影響を除外すれば、連結財務諸表は、株式会社ソフィアホールディングス及び連結子会社の2022年3月31日現在の財政状態並びに同日をもって終了する連結会計年度の経営成績及びキャッシュ・フローの状況を、全ての重要な点において適正に表示している。したがって、連結財務諸表に及ぼす可能性のある影響は重要であるが広範ではない。」
詐欺的な売上が混じっている可能性はあるけれども、監査手続の制約により、その金額を確定して別表示するなどの対応ができないということなのでしょう。また、確定できたらできたで、不正金額がはっきりしてしまう(返還しなければならない金額がはっきりする?)ので、それも避けたかったのでしょう。
ただ、120億円弱の年間売上の中で、詐欺的売上の可能性のある金額が最大で32億円もあるという状況で、「限定付適正」でよいのかというのは難しい判断だったのでしょう。