元教員の資料箱

昭和43年から35年間、教育公務員を務めました。その間に使用した教育資料です。御自由に御活用ください。

「アスペルガー症候群」という《役割》

2012-08-17 19:11:59 | コラム
東京新聞朝刊(27面)に、「発達障害被告『再犯の恐れ』 姉殺害 求刑超す懲役20年 地裁判決」という見出しの記事が載っている。その内容を要約すると、以下の通りである。①昨年7月、(現在)42歳の男性が、当時46歳の姉を殺害した。②大阪地裁の河原俊也裁判長は、殺害の動機には、先天的な広汎性発達障害の一種、アスペルガー症候群の影響がある(引きこもりの生活から抜け出したいという願いが実現しないのは姉のせいだと思いこみ、恨みを強めた)と認定した。③また、「男性は十分に反省していない、親族が男性との同居を断っている、の2点から「再犯」の恐れがある」と判断した。④さらに、求刑を超す量刑(を科した)理由は「許される限り長く刑務所に収容し内省を深めさせることが社会秩序の維持にも資する」と説明した。⑤日本発達障害ネットワークの市川宏神理事長は「アスペルガー症候群の人は反省していないのではなく、言われることが分かっていないだけだ。裁判員の理解がないとこういう結果になりやすく、裁判員制度が始まるときに心配していたことが起こった」と批判した。以上の事例から生じた、私の感想は、以下の通りである。①男性は(発達障害の有無にかかわらず)「姉殺害」の罪を償わなければならない。②専門家は、「アスペルガー症候群の人(件の男性)は反省していないのではなく、言われることが分かっていないだけだ」と言うだけでなく、どうすれば「言われることが分かる」ようになるか、その方法を提示すべきである。「裁判員に理解がない」現状を生んでいるのは、専門家の責任である。③「約30年間引きこもり状態だった被告が姉に逆恨みを募らせた動機の形成など」に、アスペルガー症候群の影響があったとする裁判長の認定は正しいか。(それが問題の核心である)
 さて、私の独断と偏見によれば、そもそも「広汎性発達障害」(当然、アスペルガー症候群を含む)などという概念(診断名)自体を疑わなければならない。その正体は、ただ(世間の標準から逸脱した)「行動特徴」が列記されるだけで、その原因が、詳細に解明されているわけではない。〈広汎性発達障害の原因については、これまで親の愛情不足やしつけの仕方が原因ではないかと考えられてきた時期もありました。しかし、今では研究が進み、主な原因は遺伝的な脳機能の障害によることが明らかになってきています。遺伝的な要素が原因かそれとも後天的な要素が原因かについては、双子の障害者に関する研究が行われ、一卵性双生児は二卵性双生児に比べて、非常に高い確率で、二人とも障害を持つことが明らかになっています。しかし、遺伝的なものだけではなく他の要因にも広汎性発達障害を患うリスクを高くするものはあります。まず、妊娠中の母親の心身の状態や、出産前後に生じる様々な事柄により、子供の発達にも相当の影響を与えることが知られています。また、幼少時に受ける様々なワクチンに含まれる、チメロサールと呼ばれる水銀を含む物質が原因ではないかと考えられていたこともありました。現在では概ね否定されていますが、水銀を使わないワクチンを使う努力をしている病院もあり、気になる場合はそのような病院で相談するのが賢明でしょう。広汎性発達障害の原因は、少しづつ明らかになってきてはいますが、まだわかっていない部分も多いというのがその実情のようです。インターネットなどのメディアには様々な情報が氾濫しています。信頼できる出版社の本を読んだり、定評ある医師に相談することによって正確な情報を注意深く確かめるようにすることが大切です〉(「広汎性発達障害早わかりガイド」)要するに、(大切なこと、この疾患の根本的な治療方法・予防方法などは)「何も分かっていない」のだ。にもかかわらず、そのレッテルを貼られた人たちが「存在」することによって、その障害もまた「一人歩き」してしまう。(標準が尊ばれ、それ以外はことごとく排斥されるという)社会自体の「病巣」を弾劾しなければならない(と私は思う)。件の男性は、「約30年間、引きこもり状態」だったという。その原因が(原因不明の)「広汎性発達障害」という(専門家の)「診断」(の影響)にあったことは、明らかであろう。そのことに対して、専門家はどのように責任をとるのだろうか。彼ら曰く「汎性発達障害の原因については、これまで親の愛情不足やしつけの仕方が原因ではないかと考えられてきた時期もありました。しかし、今では研究が進み、主な原因は遺伝的な脳機能の障害によることが明らかになってきています。」そのことで、親族の負担は軽減されたのだろうか。そのことで、男性が抱える問題を(一つでも)解決できたのだろうか。40余年後の今「親族が男性との同居を断り」、社会内での受け皿は刑務所だけという「現実」の中で、件の男性は、生涯「アスペルガー症候群」という「役割」を(絶望的に)演じ続けなければならないのである。今、(専門家にとって)何よりも大切なことは、まず男性の「反省」を《証明》すること(贖罪の可能性を追求すること)であり、「標準的な秩序」を(後生大事に)維持しようとする社会の「病巣」(判決)に敢然と立ち向かう小ことではないだろうか。(2012.7.31)

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