物語エトセトラ

気分は小説家?時に面白く、時に真面目に、物語を紡ぎ出す

ゆうきのサバイバル日記(81)

2011-10-11 | Weblog
       「い っと・う・くーん」
     
       バスケの練習が終わり、俺がそそくさと帰り支度をすませ更衣室を出て
      さっさと玄関へ行こうとしている背中に、和田の声。

       近頃和田の奴は、俺をこうして変なアクセントをつけて呼び止めるよう
      になった。
       そして、そんな風に呼ぶときは決まってアノ話だ。

       「な。な。
        伊東。
        今度の日曜日なんかはどうだ?」
       「・・・・・・・」
       俺はちょっと大げさにため息をついてみせた。
       「今度の日曜って、バスケの試合があるはずだろ?」
       「それはさ、昼過ぎに終わるじゃないか。
        それからさ、な?
        そうだ、応援なんか頼んだりして」
       
       「勝ち残ったら、昼過ぎには終わらないだろう?」
       「大丈夫だよ。相手はN校とF校だろ?
        まず、俺たちが勝ち残るはずないじゃん」
       「・・・・・・・」

       なにが「ないじゃん」だよ。
       俺は和田に、ため息ついてみせることさえもったいない気分になった。

       和田は修学旅行で、告って撃沈した。
       しばらくは、みるから元気がなく萎れていたが、2週間ばかり前から
      蘇った。
       なんと、1年のけっこうかわいい子から告られたんだ。

       「捨てる神あれば、拾う神あり」だっけ?
       まあ、バスケ部で「一番幸せ者です」って顔してる。

       しかし、和田の奴は、なぜか「メル友から始めよう」って言ったんだ。
       失恋のショックから十分に立ち直っていない?と思ったら
       和田いわく
      「だってさ、やっぱり伊東たちと一緒に始めなきゃな」
       と、分ったような分らないようなことを平然とのたまわった。

       まあ、それはそれで別にいいんだが、困るのは
      「ダブルデートしよう」と、俺に誘いをかけることだ。

       なんで俺なわけ?

       相良と俺は、相変わらずメル友だ。
       俺は、今でも相良からきたメールの返事に困るときがある。
       正確にいえば、困ることのほうが多い。

       それなのにデートなんかして、何しゃべるわけ? 

       「おう!なんだ?
        男同士がくっつきあってキモイぞ」
       バスケの角田先輩が声をかけてきた。
       
       「え?あ・・・・」
       いつの間にか和田は俺の二の腕をがっしりつかんで、顔を触れんばかりに
      近づけていた。
       確かにキモイ。
     
       「あ、あに、県大会では、頑張ろうと誓い合っていて・・・」
        さすがに先輩の前では、まけるだろうとは言えないだけの理性が和田に
       残っていた。

       「だな。
        籤運が悪いのか、強敵だけど。
        やってみなきゃわからない!って言うだろ?頑張ろうぜ」
       「はい!!」

       ああ、角田先輩はスポーツマンだ。
       やっぱ、こうでなくちゃ。
       俺たち高校生だぜ。それが青春だろ?
       それに比べ、和田は・・・・・・・。

       「さあ、帰ろうぜ。
        明日は朝練だろ?」
       俺は、静かに諭すように和田に言った。(なんか、かっこいい)
    
       「だな。
        伊東、寝坊して遅れるなよ」

       「う・・・・・・・うん」
     
       ああ・・・・カッコつかないよなぁ。