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片吟謎道

久しぶりにこの方の小説を手に取った。
「夜は短し~」にハマって次々と作品を読みまくったが、
最初ほどの感動と相性を感じられずに矢印も向かなくなった。
そうしている間に作品も増え、矢印を向けてみた。



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ぼくはまだ小学校の四年生だが、
もう大人に負けないほどいろいろなことを知っている。
毎日きちんとノートを取るし、たくさん本を読むからだ。
ある日、ぼくが住む郊外の街に、突然ペンギンたちが現れた。
このおかしな事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が
関わっている事を知ったぼくは、その謎を研究することにした。
少年が目にする世界は、毎日無限に広がっていく。
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物語の語り部で主人公のアオヤマは小学4年生。
知識欲が強く、さまざまな物事を「研究」と称し、
常にノートを持ち歩いて発見や気づきをノートに記す。
研究は多岐に渡り、少年は毎日忙しい時間を送っている。

ある日、近所の空き地に複数のペンギンが現れる。
学校でもペンギンの噂が上がっていて騒ぎになっていた。
少年はペンギンの行方も研究することに決める。

ウチダ君と探検隊を作って、町の地図を作っていた。
しかしスズキ君帝国初代皇帝とその配下2名に意地悪されて、
地図を描いていた探検ノートを奪われてしまう。
スズキ君らによって自販機に括り付けられた少年、
そこにバス停にいた歯科医院のお姉さんが現れる。

少年は歯科医院の胸の大きなお姉さんに興味を抱き、
診察ついでに彼女と色んな事を話し合って親しい仲だ。
お姉さん命名の"海辺のカフェ"でも会ったりして、
チェスを教えてくれたのもお姉さんだった。


スズキ君の意地悪話から、ぐらぐら乳歯の話になり、
お姉さんは少年の乳歯と缶コーラを糸で結んだあと、
缶を放り上げるとそれはペンギンに変化した。
ペンギンの出現元は不思議な魅力を持つお姉さんだった。
彼女は自分の能力の理由が分からないという。
少年はお姉さんの謎を解明する事を誓う。

スズキ君たちの暴挙にも決して怒らない。
少年を置いて逃げたウチダ君の事も恨んでいない。
彼らの行為を受け入れ、分かった事をノートに書き込む。
どうしても嫌な気持ちになったら、おっぱいの事を考える。
そうするとやさしい気持ちになれるのだ。


ノートを奪ったスズキ君らは下流の探検を始めていた。
そのため2人は探検していた川の水源を探すことにする。
そして彼らの前には再びペンギンが姿を見せる。

お姉さんはペンギンの他にも、
コウモリや植物を生み出すことが出来た。
しかし、お姉さんの体調と何かしらの関係があるのか、
生み出せる時と、生み出せない時があった。

思い悩む少年に、父は問題に対する三原則を教える。
・問題を分けて小さくする事
・見る角度を変える事
・似ている問題を探す事

この他に整理整頓が得意な祖母の分類三原則も出て来る。
・よく使うものと時々つかうものを分ける
・絶対に無くしてはいけないものと、
 無くしてもかまわないものを分ける
・分けにくいものは決して分けないこと



川の上流を探検している時に2人の少年は、
怖い噂のあるジャバウォックの森から、
ハマモトさんが1人で出て来る所を目撃する。
彼女はチェスが得意で、相対性理論も知っている。

やがて探検隊にハマモトさんが加わり、
彼女が極秘で観察していた〈海〉を知る。
ジャバウォックの森の奥にある草原に、
彼女が命名した〈海〉=謎の球体があった。

3人は川の探検や草原で〈海〉の観察を続けた。
ハマモトさんは〈海〉の収縮活動記録をつけていて、
時折、彼女命名の現象「プロミネンス」が起きる。
ラッパ状のものが出現し小さな〈海〉を放出するのだ。

川の調査中に見た事のない謎の生物を目撃する。
小さなクジラのようなものに四本の足があり、
背中にはコウモリのような羽が生えていた。
その生き物をジャバウォックと呼ぶことにする。


スズキ君はハマモトさんの事を好いていて、
ハマモトさんと仲良くしている少年に反感を持っていた。
それで何かにつけて意地悪をしてくるのだが、
平然と受け入れる少年の代わりにハマモトさんは激怒し、
スズキ君をますます毛嫌いしていくようになる。

そしてある日、草原にスズキ君たちが現れる。
川を辿る調査をしていて草原に辿り着いたのだと言う。
その時〈海〉のプロミネンスが起きて少年達に向かってくる。
どこからかお姉さんが現れ、コーラ缶からペンギンを生む。
ペンギンは小さな〈海〉を嘴でつついて消滅させる。

スズキ君は小さな〈海〉に飲み込まれて不思議体験をする。
時間が過去に戻って、自分の姿を遠目に見かけたという。

不思議な出来事が続き、少年の研究も難航していく。
お姉さんの能力、体調の変化、謎の生き物、〈海〉・・・
そんな中、スズキ君がジャバウォックを捕獲して、
学校へ持って来て大騒ぎになっていく・・・



まるで絵本を長編小説にしたような物語。
不思議な現象や生き物が文字とともに絵的に広がる。

宇宙ステーションのような"歯科医院"
天体望遠鏡やチェス盤のある"海辺のカフェ"
やわらかくてまんまるの"おっぱいケーキ"
お姉さんがいろんな生物を生み出す光景
草原に佇む謎の球体〈海〉そして現象
お姉さんとアオヤマ君の会話
レゴブロックの探査船に城壁などなど

読んでいる最中や読み終えてすぐの思いは、
不解明な出来事や存在に対するクエスチョンが渦巻いたが、
余韻を味わっていると、これは絵本的物語なんだなと着地点。
絵本の物語は唐突に不思議な事が起こり、
その原因や要因は明かされないまま収束に向かう。

そもそも少年の記した記録という体裁なのだから、
物事の事実や結果、仕組みや構造という部分よりも、
感覚的、興味点のみの浮き彫りで良いのだろう。
少年のまっすぐなトキメキファンタジー。

読中よりも読後しばらくしてからの余韻を味わった。


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人間駄物

自伝エッセイと息子エッセイに感動し、
別の古本屋で他の文庫も手に入れた。これは書詩集。
巻末で一人氏がそれぞれの書に関わる思い出を語っている。



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つまづいたっていいじゃないか、にんげんだもの。
このことばにどれだけ多くの人が救われ、
勇気づけられたことでしょう。
美しく力強い真実の書と詩によって、
現代人の「心のバイブル」とされる相田みつをの世界―。
その代表作品、未発表作品を収録し、
“人生の出逢い”をテーマに編んだ、夢のオリジナル文庫。
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見開きで紹介される書詩の数々。
それらを「読む」だけだと、あっという間に読み終わる。
手近な所に置いて、時折ペラ見するのが良いのでしょう。

ほとんどの詩は見た事のあるものばかりなので、
とりあえず、ひととおり「読んだ」後、
ゆっくり書を味わいつつ、エッセイを思い出しつつ、
ひとつひとつの文字の向こう側に思いを向けて響かせた。

この方の言葉は不思議なもので、
他人にそのまま言われてもピンとこないんだな。
ピンとこないというより、時にイラッとすることもある。

例えば、悩んでいる時に上から目線で、
「具体的に動くことだね」なんて言われて、
その人が口ばかりの薄い人間だったりしたら、
心の中に別の波紋が広がって、嫌な芽が出てしまう。

この方の言葉は自分の中で、音にならない声で、
つぶやくように味わうから良いんだなぁ。
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諜報消失

このシリーズも3冊目。
短編集ということと謎解き要素があるため読みやすい。
続編は発表されていないようだけど、いずれ出るでしょう。



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スパイ組織"D機関"の異能の精鋭たちを率いる“魔王"結城中佐。
その知られざる過去が、ついに暴かれる!?
世界各国、シリーズ最大のスケールで繰り広げられる頭脳戦。
「ジョーカー・ゲーム」シリーズ、待望の第3弾。
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「誤算」「失楽園」「追跡」
「暗号名ケルベロス(上)」「(下)」の5篇。

○誤算
ドイツ・フランス戦争中のマルセイユ。
日本人留学生の島野はドイツ兵を罵り捕縛された老婆を救助、
ドイツ兵に捕らえられた際に頭を殴られたことで、
一時的な記憶喪失に陥っていた。

ドイツ兵に捕らわれた島野を救い出したのは、
フランスのレジスタンス3名だった。
男2名と女1名によるレジスタンスは島野と同年代。
記憶の断片が浮き沈みし、意味不明な数字が浮かぶ島野。
90対8対2・・・その意味するものとは・・・

そんな中、隠れ家付近にドイツ兵らの姿が現れる。
危機的状況に陥る中で島野は現状を的確に把握し、
室内にある道具を使ってドイツ兵を撃退するのだが、
避難した先で本性を現したのは・・・


○失楽園
ラッフルズホテルに宿泊中の米軍軍士官マイケルは、
ジュリア・オルセンという美女と出会い恋に落ちる。
許嫁として彼女の親にも公認を受けた後、事件が起きる。
ホテルの宿泊客が中庭で転落死体で発見されたのだ。

まもなくオルセンが自身の過失事故だと自主する。
酔っ払った男に絡まれた際に振り払って逃げた事が、
酔い客の転落死に繋がったと罪を認めていた。
彼女の容疑を晴らすため、マイケルは独自の調査を始める。

やがて死亡した男と諍いのあった男が浮上し、
その男の所有物を中庭で発見したマイケルは、
扉の向こうに警察を待機させ、男を問い詰めていく。
男が容疑を認め、許嫁の無実が証明されるのだが、
行動指針となった言葉が次々と脳裏に浮かぶ・・・
自分はあの男の言葉に誘導されていたのでは・・・


○追跡
英国特派員記者のアーロン・プライスは、
長期間、日本に滞在し好意的な記事を本国に送っていた。
ベルギー人の妻を持ち、平穏な日々を送っているが、
あるとき日本に極秘で設けられたスパイ機関の噂を耳にする。

その中心人物と言われる結城中佐の素性を暴くため、
水面下で陸軍の過去記録を調べていたところ、
ふと、気になる人物名に目を留める。有崎・・・ユウキと読める?
新華族である有崎子爵の家令だった里村という老人の元を訪ね、
有崎の隠し子という謎の男の素性を調査していく。

アーロンは英国のスパイであった。
日本の極秘諜報機関の結城の秘められた過去を掴んだ彼は、
妻が寝静まった後、本国に極秘の通信を送るのだが・・・
すべては結城の仕組んだ長期的諜報員対策だった。


○暗号名ケルベロス(上・下)
サンフランシスコ・横浜間を航行する豪華客船"朱鷺丸"。
唯一の寄港地であるホノルルを目前にした所で事件が起きる。
朱鷺丸には50名のドイツ人が乗船していて、
イギリス駆逐艦の攻撃により自沈したドイツ貨物船「ゲルマニア号」、
その船員らしき人物がその中に含まれていた。

日本の技術者である内海はデッキでクロスワードパズルを広げ、
船員らと言葉を交わし、頭を巡らせながら空白を埋めていた。
そんな彼の元にジェフリー・モーガンという米国人が話しかけてくる。
意気投合して次々と空白を埋めていく中、軽い騒動が起き、
その後、大騒動が起きる。イギリス軍艦が現れたのだ。

武装した士官や水兵らが朱鷺丸に乗船してくる中、
落ち着きを取り戻した内海がデッキテーブルに戻ると、
モーガンはクロスワードパズルの続きに熱中していた。
内海はモーガンがスパイであることも見抜いていたのだが、
グラスを手にしたモーガンは何事かを呟いて死亡する。
ひと騒動の間に何者かに毒を盛られていたらしい。

イギリス水兵に事情聴取を受ける内海だが、
モーガンが殺害された事については何一つ知らない。
艦内にいるドイツ人が水兵達の尋問にあっている中、
水兵たちを誘導し、モーガンの部屋や荷物などを調べる。

彼が亡くなる寸前に呟いた「ケルベロス」の意味・・・
結城中佐から任務を受けた時の記憶が浮かび、
ひと騒動時の飛び交う悲鳴の中に気になる声があった・・・
記憶を巡らせ、1つの想定を浮かび上がらせたとき、
さまざまな背景が結びついていく・・・


「追跡」で魔王こと結城中佐の素性暴きが展開されるが、
まぁ、そう簡単に暴かれることはないと思いつつも、
少しぐらいは何かが・・・と期待する部分もあったりした。

今作は主に海外を舞台にしたD機関卒業生達の活躍が描かれる。
繰り返しD機関の試験内容が重複されるのは不要な気がして、
だったら他の試験内容にしたらいいのにと思ってしまう。

諜報員の活動、その一例という感じの短編が連なり、
そろそろ大きな動きがあってほしいと思うのだが、
次巻は出るのか、出ないのか、楽しみはまだまだ先のようだ。
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一人父像

いちずに一本道~と一緒に古本購入。
いちずに~は光男氏の自伝エッセイであるのに対し、
こちらは息子である一人(かずひと)氏の父親記である。



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相田みつをの人生が、この一冊に凝縮されている。
幼い頃、東京へ展覧会へ連れて行ってもらった思い出、口癖、
意外に子煩悩で、それでいて自己中心的だった父、
生涯で三つ持ったアトリエ。そして、死・・・。
息子の目から父の思い出を綴った秀作。
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息子視点での父・相田みつをのエピソードが綴られている。
少し前に読んだ自伝エッセイと重複する部分もあるが、
本人と息子の微妙に異なる視点が面白い。

貧しい生活の中でも紙、筆、墨は最高のものを使い、
敷地の一部を買い取ってまでアトリエを建てた父親。
そんな父を尊敬する一方で、広々としたアトリエの一部を、
生活の場としたら・・・という思いも微かにあったという。

「道具に金をかけ、四六時中仕事のことを考えている」
そこにプロとアマの絶対差があるのだと言う。
親の幸せが子供の幸せであると見て取れた我が儘な姿。
しかし、そのこだわりがあの書を生んだことも確かだった。
 
ろう染めをする度に染料色が手に残っていた姿。
職人から教えてもらった技術に自分の書を入れて、
風呂敷や包装紙などのデザインに生かしていた。
その出来上がった作品を息子に見せての言葉は、
「うまさも出ないかわりに、へたさも出ないんだよ」


川が近くにあった事で趣味は釣り。
戦死したあんちゃんとの思い出の詰まった川へ、
小学生になった子供を釣れて度々訪れていた。

前日には父子で近所にある農家の堆肥場へ行き、
ミミズを掘らせてもらっていたという。
息子と必死にミミズ堀りをする姿は見知らぬ人からは。
奇異な光景に見えただろうが、父は楽しんでいた。

緊迫した生活を送り、書に打ち込んでいた父が、
釣り糸を垂れている時間は無心になれたのだろう。


7章「具体的に」には具体的に動く事として、
小学生時代に著者が書いた作文が紹介されている。
これが一番印象に残ったし、面白かった。

父と一緒に上野の展覧会を見に出掛けるのだが、
上野駅に着くなり予想外の事を言い出す。
「今から、おまえは迷子だぞ」「これからお前が道案内だ」
そう言って、息子に自分の力で博物館まで行かせようとする。

時折ヒントを出す。「道しるべや人にたずねるのさ」
人にたずねる時の注意を告げたり、目的地名を教えたり、
そうしながら息子の背後で行動を見守り続ける父。
息子は道行く人に目的地を告げ、行き方を教わって、
後方にいる父に「こっちだよ父さん」と先導して歩く。

理屈ばかりで身体の動かない息子に、
具体的に動く事を体感させた出来事であった。

こういう体験は大人になるまで記憶深いだろうなぁ・・・。
成長は出来ないことと出来ることの選別作業でもあるが、
知識ばかりが肥え、行動に臆してばかりでは経験も未熟なまま。
出来ない事が出来るようになった時の階段は、
大人が感じる以上に大きな違いがあるのかも知れない。


意外にも熱心だったPTA活動のこと。
そこで知り合った教師との涙の縁、木蓮への思い。
やがて書家と言われる事への葛藤などが綴られ、
子供心に感じた父の信念や、書詩への思いが紹介される。

ある会社記念誌への作品の掲載を承諾すると、
記念誌が評判を呼び、それが新たな縁を結んだこと。
その縁がきっかけで本を作ることになり、
多くの人の予想に反してベストセラーになっていく。
そして念願だった新たなアトリエの完成を目前にして、
還らぬ人となってしまう父・・・。


書詩だけでも充分な感動や気づきがあるけれど、
苦難の人生記や当時の思いなどを知ることによって、
向こう側にある背景が加わり、言葉に重みが加わった気がする。

本書では詩が活字で紹介されていて、
同じ詩でも全く印象が異なっている。
やはり、あの書だからこその印象があるのだろう。

これを読んだ後も内容をかいつまんで相方に話した。
ますます日めくりカレンダーが欲しくなったようなので、
そのうち注文しようと思う。また美術館に行きたくなったなぁ。
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一途道事

この方の美術館に行ったのも随分昔の事だ。
現物を見た感動も記憶と一緒に薄くなってしまった。
相方が日めくりカレンダーが欲しいような事を呟いていて、
それが頭にあって古本屋で興味触手が伸びた。



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現代人の心を深くひきつける力強く繊細な書の数々。
在家のまま仏法を学び、人間愛の真実を探求し、
孤高な精進を全うした著者唯一の自伝エッセイ。
未発表・カラーの書作品39点を収録。
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著者が幼少期を振り返り、父母や貧しい家庭の事、
2人のあんちゃんとの思い出、戦死したあんちゃんの教え、
中学時代の軍事教練教官からの理不尽な扱い、不良のレッテル、
そんな不当行為が転じて戦地へ赴く機会が無かった事、生、
書との出会い、生涯の師匠、武井老師と出会えた事、
書道教室の先生よりも独自の道を選んだ事などが綴られている。

美術館にも足を運んだし、テレビドラマも観た記憶があるけど、
自伝エッセイを読んでみると、改めて著者の言葉の力、優しさや、
師から学んだ思想が人間力となって表れているのが分かる。


短歌の会で、初めて老師に会った時に批評で呟かれた言葉・・・
「あってもなくてもいいものは、ないほうがいいんだな」
著者はこの言葉を日常にも当てはめて行動指針にしたという。

去年、断捨離に励んでいた時期があったけど、
そういう部分にも当てはまるような気がしてハッとした。

禅の話では「説似一物即不中」というものが紹介される。
物事の真理、真実は言葉や文字では説明できない。
つまり体験してみなければ分からないということ。

口先ばかりで具体的に動かない人、言い訳を重ねる人、
そんな自分にも言い聞かせて具体的に動くという言葉が、
著者の書詩にはたくさん表現されている。


最後には「負ける事の大事さ」が綴られる。

途方に暮れる経験がないと、人生はわからない。
そういう経験が人間の「いのちの根っこ」を育てる。
負けるってことが、いかに大事か。
そのことを、私は皆さんに訴えたいと思うんです。


去年はいろいろと困難な1年を過ごした。
途方に暮れた時期もあるし、負の気持ちが溢れた時期もある。
思うように行かない事ばかりで塞ぎ込んだりもしたが、
著者の言葉を借りれば「具体的に動く」ことで、
微かな道が開かれた体験も身にしみて感じた事だった。

ある人の何気ない言葉に痛みを感じた事もあり、
その思いが逆に前進する気力に繋がったりもした。


机の後ろ棚には著者のポストカードが飾ってある。
「つまづいたって いいじゃないか にんげんだもの」

1つのつまづきが1つの気づきを生むかもしれない。
つまづきが多いほど、気づきも多くなるかもしれない。
相方の矢印で何気に購入したけど、1日で読み切ったけど、
気づきの種がいろいろ見つかったような気もするし、
まだ存在せぬ枝葉や根っこの想像が浮かんだ気もする。

読み終えた後、相方に内容をかいつまんで話した。
相方も興味矢印をますます太くしたようで、
やっぱり日めくりカレンダーが欲しいと言っていた。
この本にも書詩がたくさん載っているけれど、
ふだん何気に目につく場所に飾っておきたいらしい。
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文向上術

読書はアウトプット~と一緒に購入。
いろんな小説を読むと、文章表現の多彩さに改めて気づく。
読んで学んで自然と身に付けば良いけれど、
語彙も増えず、文章も向上せず、そんな思いが手を伸ばした。



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メール、レポート、試験・・・
ちょっとした工夫で、印象はガラリと変わります!
本書を読むだけで、ものを書くのに自信がもてます!
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○NG文章を書くな。
 ・一文が長い・意図不明・話し言葉・事実と意見の混同
 ・歯切れが悪い・カッコつけ・専門用語多用・不正確
 ・話題が飛ぶ

○見た目の重要度
 ・読む前の視覚要素・改行、数字、見出しで効果とメリハリ
 ・どこからでも読みやすい・ふりがなや参照の配慮
 ・表記内容や用語の統一・単調な言葉の繰り返しは×
 ・単語の順序に気を配る

○まとまった文章を書けるようになる
 ・書くまで時間がかかる人・ゴール地点を決める
 ・細かい議論は脇役に・書く順序で迷ったら・時間と分量
 ・数字や統計で説得力・文章を膨らませるコツ

○伝わる文章は論理的に正しい
 ・論理的な文章とは?・展開は読みやすく・つなぎ言葉
 ・明快さに知性を・複雑な内容をシンプルに・反対の視点
 ・対比構造でシャープな印象を

○書き方ひとつで相手の心理を動かす
 ・読み手の反応を先読み・NOと言わせない展開
 ・印象に残すテクニック・大事なことは繰り返す
 ・親近感のある文章・上手にアピールする方法
 ・ネガティブ表現をポジティブに変える
 ・場面に合った文章マナー


当たり前の事だけど、主語と述語の明確性はハッとなった。
誰々が~何々した。という基本構造が疎かになると、
伝わるものも伝わりづらくなってしまう。
文章は伝える手段であり、分かりやすさは重要。
長い文も短い文も、この関係性がはっきりしていれば、
読み手はリズム感を伴って読んでくれるのだろう。

文章の視覚的効果は職業柄分かっているつもり。
漢字とひらがなのバランスや、文字と空白のバランスなど、
読む前に見る事が、文章に向かう最初の入口なんだな。
メールとかでも見やすい人と見づらい人の差は歴然だし、
その内容も配慮が感じられたり、自己中に思ったりするもの。

書式の統一とか、単語の順序の法則性だとか、
そういう視点で新聞や記事、書類を読んでいなかったけど、
大手出版社などは厳密に統一しているのだろう。
そういえば間違い表記とか、新聞社は厳しかったなぁ。

この本を読んですぐ10倍上手にはならないだろうけど、
些細な気づきが角度を微調整することもあり、
その角度調整が延長上で大きな違いになることもある。

基本的にはビジネス文書について書かれたものだから、
次は(あるかどうか知らないけど)小説的文章術のような、
そんな言葉の表現向上本があれば読んでみたい。
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形見歌町

ずいぶん前に本屋で平積みなっていたような、
売れ筋ランキングなんかでも見かけていたような・・・
そんなミーハー心が古本屋の閉店セールでくすぐられた。



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不思議なことが起きる、東京の下町アカシア商店街。
殺人事件が起きたラーメン屋の様子を窺っていた若い男の正体が、
古本屋の店主と話すうちに次第に明らかになる「紫陽花のころ」。
古本に挟んだ栞にメッセージを託した邦子の恋が、
時空を超えた結末を迎える「栞の恋」など、昭和という時代が
残した“かたみ"の歌が、慎ましやかな人生を優しく包む。
7つの奇蹟を描いた連作短編集。
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舞台は昭和30~40年代の東京下町にあるアカシア商店街。

「紫陽花のころ」「夏の落とし文」「栞の恋」
「おんなごころ」「ひかり猫」「朱鷺色の兆」
「枯葉の天使」7つの連作短編集。

商店街の近くに「覚智寺」というお寺があり、
噂では、寺のどこかがあの世に繋がっているという。
あっちの世界から訪れた者との不思議な体験が、
商店街にある古書店〈幸子書房〉店主と関わりながら、
ノスタルジックな昭和の歌謡曲などと一緒に描かれていく。


○紫陽花のころ
町に越して来たばかりの夫婦。小説家志望の夫が散歩に出掛けると、
殺人事件が起きたラーメン屋を密かに見続ける一人の男を見かける。
その男とは・・・

○夏の落とし文
小学3年の夏休み、小児喘息を患う啓介の不幸を書いた貼紙が見つかる。
啓介は兄と一緒に貼紙を張った人物を探し始めていくと、
この辺では見かけない学生服姿の少年の仕業だと知るのだが・・・

○栞の恋
酒屋の看板娘である邦子は、歌手に似た学生を見かけ恋に落ちる。
馴染みの古書店に出向いた際に、店内に彼の姿を発見した邦子は、
彼が立ち読みしていた本の間に紙切れを見つけて、一言書き残す。
やりとりが続く中、邦子は彼のイニシャルを知り唖然とする。
紙片言葉のやり取りをしていたのは誰だったのか・・・

○おんなごころ
ギャンブル、暴力、酒の駄目夫が亡くなり、
豊子とその娘、満智子の面倒を見ていた初恵は胸をなで下ろす。
夫を亡くし取り乱していた豊子が元気を取り戻したのは、
亡き夫が豊子の家に会いに来ているからだという。
豊子の精神を疑い、満智子を預かる初恵だったが・・・

○ひかり猫
漫画家志望の男の部屋に窓から野良猫が飛び込んで来る。
可愛がっていたチャタローが行方不明になった後、
光の玉が部屋に入ってくる。その動きは猫そのものだ。
不慮の事故を想像し、光の玉を愛でる日々が続くが、
ある日、チャタローが帰って来る。じゃあ光の玉は何?・・・

○朱鷺色の兆
中古レコード店主が町に来たばかりの大学時代の話。
ピンク色の物を身につけた人を見かけると、その人が亡くなる。
普通の人には見えていない死神のサインが見えていた。
精神異常をきたし先輩に救われるが、その先輩にも色が見えた。
そして今またピンク色を目にした時、先輩の言葉が背中を押し・・・

○枯葉の天使
覚智寺の隣にあるアパートに越してきた久美子は、
毎朝夕お参りする老人の姿に気づき、窓から見てしまう。
ある日、その境内に4歳ぐらいの少女を見つけた久美子は、
周りに親の姿が無い事に気づいて境内に向かう。
少女に話しかけると、遠くからお使いにきたのだという。
古書店に用事があると言っていた少女の姿が消え、
久美子は古書店へ足を運ぶのだが・・・


昭和30~40年代という背景に思い入れのある世代なら、
各編に出て来る歌謡曲や時事的な事に懐かしみが浮かぶのだろう。
どの話も謎解きが幽霊的な事象で締めくくられていて、
中にはゾッとするような出来事もあったりする。

どの話にも古書店主が絡んでいて、
最終章ではその素性が明らかになり死者の思いと交差する。
ほろっとさせるような話なんだろうけど幽霊話だし、
世代のズレもあって、共感値は最後まで上がらなかった。
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最愚等戒

荒唐無稽なバイオレンスアクションシリーズだけど、
なんだかんだ言って、シリーズ全巻読む気満々だったりする。
前作では脇役たちの人間模様が描かれて結構面白かった。
主要人物たちにも愛着が沸いてきたし終点が惜しくもある。



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竜司の元に届けられたDVD。
そこには爆弾とともに緊縛された紗由美の姿が映されていた。
環境ビジネス「エコウインドウ」とホームレス惨殺事件の
関係を追っている矢先だった。恋人の爆死まで72時間!
警視庁“モール”も捜査に乗り出すが、
霞ヶ関の本庁舎にロケット弾が打ち込まれる。
首都機能は麻痺し、終末へのカウントダウンが始まった。
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前作では意識不明だった紗由美が療養施設に入り、
竜司は「モール」から外れて付ききりで看護していた。
紗由美の意識は回復するが、施設が事件に関与していて、
いつものとおり爆破被害があったりして住処を失った2人。

親しい野辺医院の好意により2人は病院の一室に居候。
紗由美は医院の手伝いをしながら福祉関係の勉強を始め、
療法士の資格条件である高卒認定試験に向け励んでいた。
竜司はトラブルシューター業も休止、モールからも手を引き、
自身の身の振り方を模索する日々を送っていた。


ホームレス老人の手助けで悪漢の手を逃れた安里は、
老人の言葉を頼ってモグラこと竜司に助けを求める。
疲労困憊した安里は野辺医院の前で気を失ってしまうが、
やがて意識を取り戻し、竜司に一連の事情を話す。

安里はエコ・ウィンドウという環境関連会社の元研究員。
研究案件が特許取得目前という所で不当に解雇、
その後、彼が行っていた研究案件の特許を会社が取得する。
路頭に迷っていた安里は会社を訴えようと行動を起こすが、
黒スーツ姿のヤクザ男たちが現れ、恐喝してきたという。


トラブルシューター業を休止していた竜司だったが、
安里を助けたホームレス老人には心当たりがあり、
紗由美にも背中を押されエコ・ウィンドウの調査を始める。

一方、モールでは古谷涼太が警部補となって配属される。
かつて竜司や楢山らに可愛がられたエリート警官である。
その古谷涼太には哲生という無職の弟がいた。
短気で根気も無く、どの職に就いても長続きせず、
パチンコで生計を立て、ホームレス生活をしている。

ある事件で哲生は竜司と知り合っていた。
竜司は哲生が涼太の弟である事を知っていて、
本人が社会復帰を望むまで目の届く場所に置き、
時折、情報集めの仕事を頼んで生計を補っていた。
面倒見の良い竜司を哲生は尊敬している。

竜司の言うホームレス老人には恩義があった。
エノさんと言われ仲間からも慕われている人物だが、
ここ数日間の行方は誰も知らないという。
そして後日、エノさんの死体が公園で発見される。
そのニュースをTVで知った安里は病院から逃亡する。


エコ・ウィンドウ代表の吉鍋の元、
顧問弁理士として辣腕を揮っているのが戸島充。
吉鍋は念願の会社を設立したものの軌道に乗れず、
経営危機に陥っていた所に弁理士の戸島と出会った。
彼に一任したところ経営は回復し業績も伸びているが、
戸島が裏で何をしているのか、詳細は知らされていない。

戸島は暴力団(企業マフィア)と繋がりを持っていて、
金と恐喝によって特許権利などを手に入れ、
企業などに権利を売って業績を伸ばしていたのだった。
マフィアボス貝藤、吉鍋、戸島らがいるエコウィンドウへ、
竜司が訪れてきて、安里の名を出して牽制する。

殺害したホームレス老人の事を探る青年と無骨な男の存在、
そして会社に乗り込んできた男が巷で噂のもぐらと知り、
貝藤は手下に竜司の大事なものを奪えと指示を出す。
身の危険など知らない紗由美は拉致されてしまう。


紗由美が帰らず心配する野辺先生と竜司、
そこへ戸島の名で、竜司宛にあるものが届けられる。
中にあったDVDには緊縛された紗由美の姿があった。
彼女の身体には時限爆弾装置が付けられていた。
72時間以内に安里の身柄を引き渡すのが交換条件である。

相手が素人ではないと知った竜司は、
手伝っていた哲生に事件に関わるなと強制するが、
竜司にも紗由美にも恩義のある哲生は暴走してしまう。
事件が深刻化する前に哲生が入手した安里の情報から、
故郷の沖縄に帰っているとヤマを張った竜司は、
願いを込めて沖縄へ飛び立つ・・・
竜司から益男経由で紗由美の監禁を知ったモールもまた、
独自に彼女の行方を捜索し、事件の真相を追う。



今回はドンパチ少なめ?と思っていたら、
後半やっぱり出てくるんだな。ドッカンバッタン。
戸島がつるんでいたのは日本の企業マフィアだけじゃなく、
ロシアのテロリストが出てきて一気に破壊規模が上昇する。
格闘場面も多彩で琉球空手の師範と互角以上に渡り合ったり、
格闘術を持つロシアテロリストとの闘いも緊迫感がある。

毎回、毎回、紗由美が被害に遭ったり、拉致されたり、
恋人役というより、弱味役って感じが強すぎて可哀相だ。
前作で描いた人間模様が更に広がるものと思っていたけど、
話の内容は前々作までのカタチに戻ってしまった感も拭えない。

竜司と関わる人物の末路がなぁ・・・


なんだかんだでシリーズもあと1つ(上下巻)
終わるということは・・・と、ひとつの仮定が生まれるが、
あまり想像も期待も膨らませずに楽しみたい。
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本幽波紋

これって昔、単行本で買ったかも?
かも?いや、茶色い立派な装幀が記憶にある。
しかし、内容がまるで浮かんでこない・・・
きっと挫折して手放したんだろう。
今なら挫折はしないだろうと手に取った。



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この町には人殺しが住んでいる―。
町の花はフクジュソウ。特産品は牛タンの味噌漬け。
1994年の人口は58713人。町の名前は杜王町。
広瀬康一と漫画家・岸辺露伴は、ある日血まみれの猫と遭遇した。
後をつけるうち、二人は死体を発見する。
それが“本”をめぐる奇怪な事件のはじまりだった…。
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冒頭、終業式の日に愛する男を殺害したと告白をする双葉千帆。
その男は不思議な能力にメモリー・オブ・ジェットと名付けていた。

場面は変わり、広瀬康一と岸辺露伴が、
血まみれのまま普通に歩いている猫を見つける。
不審に思った2人は猫のネームプレートから、
飼い主名と電話番号を知り、住所を調べて家を訪れてみると、
窓の向こうには女性の死体が横たわっていた・・・。
女性の名は織笠花恵。警察の調べで奇妙な事が判明する。
彼女は自宅に居ながら交通事故で死んだという・・・。


ジョジョ本編で馴染みのキャラが出て来たと思ったら、
物語は次々と3つの視点が複雑に混み合って交差していく。
主に活躍するのは小説オリジナルキャラたちである。


広瀬康一と岸部露伴は織笠花恵の不審死に疑問を抱き、
露伴のスタンド[ヘブンズ・ドアー]によって猫の記憶を読み、
腕に傷がある謎の学生服男を探し始める視点。

2つ目は飛来明里という住宅会社事務のOLが、
婚約者である大神照彦の隠された素性を知ってしまい、
大神にビルの屋上から建物間に突き落とされてしまう。
運良く助かったものの、ビル間には人が通れる隙間は無く、
彼女の無事を知った大神は屋上から食料などを投げ落とす。

明里は大神が隠し持っていた大金を奪っていたのだった。
その在処を探る為に大神は彼女を生かしておかなくてはならない。
薬品入りと知らずに飲んだ水で喉が焼かれ、声を発せなくなり、
明里は助けを呼びたくても呼べない監禁状態に置かれてしまう。

3つ目は冒頭で告白した双葉千帆に関連する視点。
康一と同じ、ぶどうヶ丘高校1年の千帆は作家志望の女子。
千帆には1学年先輩の彼氏がいた。彼の名は蓮見琢馬という。
琢馬は孤児院育ちの天才児で、見た物事を全て記憶出来るのだ。
2人は「茨の館」と呼ばれる図書館でよく会っているのだが、
好奇心旺盛な千帆に対し、琢馬はクールな会話に影を隠す。


康一は自身のスタンド[エコーズ]による擬音能力で、
同級生たちに暑さを感知させ、上着を脱がせ、腕傷学生を探す。
康一から事情を聞いた東方仗助(ジョジョ)や虹村億泰も、
不良学生らしい方法で腕傷男を探し始めるのだが・・・


ビル間での監禁生活に耐え続けていた明里は、
身体の異変を感じ、大神の子を宿していることを悟る。
ビル間からの脱出を諦め始めていた明里だったが、
生まれる我が子の命だけは救おうと考え始める。

蓮見琢磨と千帆は腕傷男を探していた仗助と遭遇する。
仗助は[クレイジーダイヤモンド]の破壊と修復の能力を用い、
1学年先輩の琢馬に腕まくりさせるよう仕向けていくが・・・
そのとき、康一から腕傷生徒発見の報せを受ける。

康一たちが追い求めている腕傷男は何らかの能力を使って、
学校中に腕傷生徒を増やして捜査を難航させていた。


冒頭で千帆が愛する男を殺害した告白があり、
自宅で交通事故死した織笠の殺害に学生男が関連している。
千帆の彼氏である蓮見琢馬は夏でも長袖姿という事から、
序盤で腕傷男=琢馬であることが読者には分かる。
そして3つの視点で交互に描かれる物語の明里視点は、
時系列でいうところの過去の話にあたることが浮かんで来る。

琢馬は生まれながらに天才的記憶能力を持っていて、
ある時期、手の中に不思議な本が出現することに気づく。
その本には自身の過去が物語となって記されていた。
目で見た物事が全て記載されている事から、
琢馬は出生時の光景まで知る事になり母の無念を知る。
それが復讐の糧となり、母を死に至らしめた男を追っていた。

複雑に織り込まれた糸を手繰るように、
登場人物たちの関係性が少しずつ明るみになっていき、
それぞれが抱えていた深い悲しみを知る事になる。

後半になるとジョジョらしさが高まって、
億泰のスタンド能力[ザ・ハンド]と敵の攻防や、
仗助の[クレイジーダイヤモンド]が爆発し、
ファンなら絵が浮かんで来るような戦いが描かれる。

オリジナルスタンドの[ザ・ブック]や、
[メモリー・オブ・ジェット]はいささか地味だけど、
その地味スタンドで世界観を描き切っているのは素晴らしい。


この過去と現在が交差し、人間関係の複雑な絡み合いが、
当時、発売時に購入したものの挫折してしまった要因なのかな?
読解力も無ければ、じっくり読書する時間も生み出せなかった。
何年ぶりかに改めて古本文庫を手に取って読んでみたら、
それなりに面白く、サブストーリーとして充分に楽しめた。

読み終えて、すぐ冒頭に戻って数十頁読み直した。
他のジョジョ小説も読みたいけど、酷評ばかりなんだよなぁ・・・
文庫版が出て、古本屋に流れて、その時興味があれば、かな?
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争戦町隣

古本屋の閉店セールで購入した1冊。
前から気になっていたので、1冊21円は良い機会だった。
戦争を知らない世代が描く、奇妙な戦争物語。



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ある日、突然にとなり町との戦争がはじまった。
だが、銃声も聞こえず、流血もなく、人々は平穏な日常を送る。
それでも町の広報紙に発表される戦死者数は静かに増え続ける。
そんな戦争に現実感を抱けずにいた「僕」に、
町役場から一通の任命書が届いた・・・。
見えない戦争を描き、すばる新人賞を受賞した傑作。
文庫版だけの特別書き下ろしサイドストーリーを収録。
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町で発行している広報誌に突如戦争の文字があった。
北原修治の住む舞坂町が、となり町と戦争を始めるらしい。
しかし広報誌にあった開戦日を迎えても町に変化は感じられない。
平穏な暮らしを送っていた修治は何気に見た広報誌に、
戦死者の掲載があることに驚愕してしまう。一体どこで何が?

物語の主人公である北原修治の詳細は描かれていない。
どんな風貌なのか、何歳なのか、どんな会社に勤めているのか、
どんな日常生活を送っているのかも分からない。
アパートから車通勤する際に、となり町を経由することと、
職場には本田さんという女性事務員がいて、
窓際で仕事もせず新聞を読んで茶をすする主任という高齢男がいる。

主任は創業者の親戚筋にあるらしく、
若い頃、下請け会社で修行していた際に外国人労働者の女と出会い、
結婚して女の国へ渡って子をもうけたが、国が戦争を始めてしまい、
戦争に従事するのだが、妻子は戦死したのち一人祖国へ戻ったという。
温厚な雰囲気の奥に、戦争に従事した怖さを秘めた男でもある。


そんなある日、役場から偵察業務従事者の報せが届く。
職場にも役場総務課の香西という女性から確認の電話を受け、
困惑する修治だったが、辞退するのも形式が面倒と知って、
説明会に赴く事を承諾し、後日、偵察業務従事者となる。
その主な業務内容は通勤の際にとなり町を通過して、
何かしら気づいた事を書面に書いて郵送する事だった。

戦争の気配すら感じられず戸惑う修治だったが、
広報誌に記載されている戦死者名は増加の一途を辿る。
そんな中、役場の香西さんから新たな業務の知らせを受ける。
戦況の悪化に伴い、香西は戦争推進室事務吏員となり、
となり町への潜入偵察業務を修治と共に行う事になったと言う。
となり町に分室として用意されたアパートに入居するため、
便宜上、修治と香西は籍を入れる事になったと告げる。

かくして分室という名のアパートで夫婦生活を始める修治だが、
戦況が著しいのか香西は帰宅が遅かったり、帰らなかったり、
基本的な家事は修治が行っているのだが、土日と、
役場のノー残業デーである水曜日は香西が食事を担当する。
夫婦生活の細部まで分担、業務化されており、
週に一度、香西が修治の部屋を訪れ愛を交わす行為もまた、
業務分担表に記されたものだった・・・。
そんな中、志願兵だった香西の弟が戦死したことを知る。

時折垣間見せる香西の私的な笑顔に癒されていたが、
ある日、香西からの電話で敵に居場所を知られたと告げられ、
彼女の指示に従って必要な書類を抱え逃避することになる。
ケータイで受ける指示のまま暗渠を抜け、目隠しを施され、
何者かの手によって車に荷物然とした形で積み込まれ・・・

段ボール箱に入れられた修治は気配や音を便りに、
何者かが拘束された気配や、積み荷として積まれたモノが、
かつては生き物であった事などを知り、感覚的に戦時を知る。
そうして山で下ろされた修治は香西の迎えを受け、
その後、戦争の終結を知らされる事になるのだが・・・


公共事業然とした戦争業務が戦火を交えず淡々と描かれる。
戦死者は増加の一途を辿るが、両町には戦争の変化が見られない。
とはいえ、戦争キャンペーンののぼりなど細かい部分は目にする。
何が起きているのかも把握出来ないまま危機感だけが煽られ、
先導されるままに行動を起こし、数値や結果だけが耳に入る。

なんとも不思議な物語だなぁ~と思って読んでいたら、
最終章の後に文庫オリジナルの別章が収録されていて、
そこで鳴海舞という女性が友人(元彼?)の住む舞坂町を訪れ、
智希という男と再会する。しばらくして彼が戦死した報せを受ける。
智希は香西瑞希の弟であることが明かされ驚愕する。

舞の会社では町民交流強化計画を主導する業務を行っていて、
彼女が防水袋を納品した森見町がとなり町であることを知り、
知らず知らずの内に戦争に加担していた事を知る・・・。

戦争は悪事であるが、世界は戦争を機に進歩を遂げたのも事実。
そんな経済発展を願った町が公共事業としての戦争を企画し、
両町の同意の元に戦争事業が行われているという物語。


登場人物の風体や詳細が描かれないため、想像が不鮮明になり、
読みにくさと想像のしづらさがあったけど、前半のぎこちない文体が、
後半になるにつれて描写がどんどん美しくなっていくのが良かった。
分室から元のアパートに戻った際の持ち物リストの中に靴下があり、
修治の足のサイズが23.5だと知って小柄な男なの?と想像修正した。

いろんな比喩がこめられていて考え次第では深みが増す内容。
この本を読んで別作品も読みたいという感じにはならないけれど、
余韻がじんわりと広がって、佇み続けるような物語だった。
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