*** june typhoon tokyo ***

Mamas Gun@Billboard Live TOKYO




 ロンドンからのモダン・ソウルに酔いしれた、冬の雪の一夜。

 英・ロンドンを拠点とするソウル・バンド、ママズ・ガン。R&Bやネオソウル好きならそのバンド名に耳をそばだてるに違いない、エリカ・バドゥのアルバムからそのまま名を拝借した5人組だ。2017年12月に4作目のアルバム『ゴールデン・デイズ』を発表し、2018年早々にアジアツアーを開催。UAE・ドバイを皮切りに、大阪、東京を経て韓国・ソウルまでの計5公演となるツアーの東京公演へ足を運んだ(彼らは香港、インドネシア、シンガポールほか、特に韓国で人気が高いようだ)。会場は六本木にあるビルボードライブ東京。開演前のステージ後ろの窓には夜景の明かりに照らされた雪が舞うという、何かロマンティックなシチュエーションに触発されてか、期待をいっそう高めながら彼らの登場を待つことになった。

 ステージには左からキーボードのディヴ・“エイティーズ”・オリヴァー、中央奥にドラムのクリストファー・ブート、続いて、ベースのキャメロン・ドーソン、右前にギターのテリー・“スピラー”・ルイス、そしてセンターにヴォーカルのアンディー・プラッツといった配置。英出身のバンドによくある印象の、どこか尖ったような、あるいはシニカルな佇まいといった面持ちは全くなく、白地に腕に青と赤の二本線が入ったトレーナー風姿のドーソンや、“エイティーズ”と冠するだけあってか、シカゴやフォリナーなど80年代のポップ・ロック・バンドにいそうなルックスのオリヴァーなどを見るにつけ、むしろ米西海岸の青春グラフィティに出てくるような陽気な若者たちといった風。UKでいえば、インコグニートやブラン・ニュー・ヘヴィーズなどの陽気さに近いか(実際に彼らの音楽性の原点の一つにはアシッド・ジャズ勢に少なからず影響を受けていると思われる)。



 ヴィンテージな彩りもちらつかせた甘酸っぱいメロディのソウル・ポップ「アイ・ニード・ア・ウィン」からスタートしたステージは、最新作『ゴールデン・デイズ』の楽曲を中心に構成。その合間に「レッド・カセット」や「ハウス・オン・ア・ヒル」などの人気曲を挟み込んでいく。 
 “ママズ・ガン”という名からエリカ・バドゥ的なジャズに寄せたアプローチや内省的なディープなムードのサウンドも想起しがちだが、彼女の音楽性までどっぷりと継承したという訳ではなく、ソウルやファンクをこよなく愛するブルー・アイド・ソウルやAORバンド的なスタンスといった方がいいだろうか。エリカ・バドゥが有した都会的な洒脱さという意味では、彼らも十二分にそのモダネスを持ち得ているといえる。

 彼らの魅力は何といってもアンディ・プラッツの人懐っこいヴォーカルと、時に颯爽と時にファンキーにうねる心地良いグルーヴだろう。変に尖って自己満足に陥るような意固地なこだわりはなく、スッと耳に馴染み体躯を揺らせる即効性を持つポップで美しい旋律が、胸を高鳴らせる。そして、特に印象的なのが、サウンドにしてもコーラスにしてもハーモニーとコードを重視しているところ。中盤で披露した「レッツ・ファインド・ア・ウェイ」などは80年代ポップ・バンドとニュー・ソウルのスタイリッシュな質感を絡めた佳曲だが、フックでのコーラスとジャズ・ファンクなフレイヴァが肝となってフロアに絶妙な昂揚をもたらしていたし、『ゴールデン・デイズ』のリード曲でもある「ロンドン・ガールズ」ではファンク・ロックとモータウン風ソウルを往来するサウンドのなかで、“ベイベー”“ヘイヘイヘイ”といったコーラスやキャッチーなコード展開を多分に組み入れて、都会性と庶民性との融合の妙を携えながら、洗練したグルーヴを生み出していた。単にキャッチーな仕立てにすることはそれほど難しいことではないだろうが、それをコーラスやコードも鍵となるようなクオリティに高めながら展開していくことは、なかなかの技術やセンスが問われる。その点においては、ヴォーカルのアンディ・プラッツとキーボードのディヴ・オリヴァーが軸となり、琴線に触れるセンスを発揮。エッジなアクションはギターのテリー・ルイスが、一見地味ながらも安定したリズムを構築してバンド・サウンドの陰影やメリハリを生み出すことにはベースのキャメロン・ドーソンとドラムのクリストファー・ブートが貢献するなど、バンドとしての連係も優れていた。



 「ハウス・オン・ア・ヒル」以降はそれまで心地良いグルーヴに酔いしれていたフロアのムードも、次第にダンサブルな高揚を帯びていく。“ベイベー”のロングトーンのコール&レスポンスとジャクソン5あたりの影もちらつくモータウンなグルーヴが陽気な雰囲気を呼び込むと、「リコ」ではディヴ・オリヴァーがスティーヴィー・ワンダー「迷信」を想起させるクラヴィネット風のリフと弾けたパフォーマンスで歓声を浴びるなど、ヒートアップが加速。“次が最後の曲……たぶんね(笑)”の前振りから子守歌のような安らぎと温もりを持つバラード「センディング・ユー・ア・メッセージ」で本編は幕となるも、直ぐに拍手が鳴り響くと、にこやかな表情でメンバーが再登壇。感謝の念を述べた後、メンバーが持ち場に戻らず、センターマイクに寄り添い、アンディ・プラッツのシンプルなギター弾き語りとメンバーのコーラスだけのアコースティック/ア・カペラ・モードの「オン・ア・ストリート」でアンコールがスタート。ハートウォームで朗らかなハーモニーを披露したこのパフォーマンスからも、彼らのハーモニーに対する重要性を窺えた、というのは自分だけの思い込みだろうか。

 その後、メンバーはそれぞれのパートへ戻り、ヴォーカルのアンディ・プラッツがリズミカルなフロウでステージを左右に往来しながらコール&レスポンスを促し、テリー・ルイスのギター・ソロなどをアクセントにしながら観客をダンス・パーティ化させた「イエス・ウィ・キャン・キャン」へ。ニュー・ソウル、モータウン、ブルー・アイド・ソウルなどをグルーヴという上品な味覚のドレッシングで和えて、極上のソウル・ポップという食が進む美味なサラダをもたらしてくれた彼ら。サラダとはいえヴォリュームもあり、腹持ちのする“ファンクネス”をフロアに充満させてくれた。

 新作『ゴールデン・デイズ』のなかでは「ウィー」やデビュー・アルバム『ルーツ・トゥ・リッチーズ』収録の「ユー・アー・ザ・ミュージック」など、自分の好きな目当てにしていた楽曲の披露はこの公演ではなかったが、それでもアルバム音源とはまた異なる味わいがある、ライヴならではのパッションと粋が絶妙に重なったジョイフルな空間を堪能することが出来た。
 店外へ出ると寒く雪が降り続いていたが、その雪化粧さえもどこか温かさを感じたのは、心地良いグルーヴに揺られた高ぶりとホットな感情に支配されていたからだろうか。再び彼らの音楽を耳に抱きながら夜の地下鉄の駅へと向かう足取りが意外と軽やかだったのは、彼らが繰り出す珠玉のポップネスを浴びたからに違いない。


◇◇◇

<SET LIST>
01 I Need A Win (*)
02 Golden Days (*)
03 You Make My Life A Better Place (*)
04 Red Cassette
05 Pots of Gold
06 The Spooks (*)
07 On The Wire (*)
08 Let's Find A Way
09 London Girls (*)
10 House On A Hill
11 Strangers On A Street (*)
12 Rico
13 Sending You A Message
≪ENCORE≫
14 On A String
15 Yes We Can Can

(*):songs from album“Golden Days”

<MEMBER>
Andy Platts(vo,g)
Terry 'Spiller' Lewis(g,back vo)
Dava 'eighties' Oliver(key,back vo)
Cameron Dawson(b)
Christopher Boot(ds)

◇◇◇


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コメント一覧

野球狂。
まさにソウルなショーでした
http://blog.goo.ne.jp/jt_tokyo
Hide Grooveさん、いつもコメントありがとうございます。

ママズ・ガンは前回スルーしてしまったので、今回は是非ともと思っていたのですが、観賞してよかったです。目当ての楽曲の演奏はなかったですが、「音楽を浴びて愉しむ」ことが出来たので余韻にも浸れました。
Hide Groove
温かい👍
もう感じてた事、全部書かれてしまって言葉が見つからず数日間。
野球狂。さんが、会場を出た時のその気持ちがよく分かります。
優しく温かな音の洪水に溺れるくらいだったんだなと🍀

仕事に追われ睡眠時間さえ削るような日々を過ごしていると心を平坦になりがちで、そんな時に彼等のサウンドは、響いてきますね👍
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